日本大百科全書(ニッポニカ) 「沈黙(映画)」の意味・わかりやすい解説
沈黙(映画)
ちんもく
Tystnaden
スウェーデン映画。1963年作品。翌年日本公開。脚本、監督イングマール・ベルイマン。彼の作品歴中では、これに先だつ『鏡の中にある如(ごと)く』(1961)、『冬の光』(1963)の二作とあわせて「神の沈黙・三部作」ともよばれている。ベルイマンの映画では、人間の精神的苦悩が神を見失った人間の苦悩として描かれることが多いが、この作品は、エステル(イングリッド・チューリン)とアンナ(グンネル・リンドブロム)という対照的な姉妹の確執と相克のうちに救済のない苦悩を直視している。演劇的ともいえる静謐(せいひつ)なスタイル、執拗(しつよう)なクローズアップ使用による女の感情の追求、ドア、窓、廊下といったデコールの緻密(ちみつ)な効用など、ベルイマンらしさを随所にみせる名作である。
[岡島尚志]