海洋プラスチック(読み)かいようぷらすちっく(英語表記)Marine plastic waste

知恵蔵 「海洋プラスチック」の解説

海洋プラスチック

川や海岸ごみとして捨てられたり、放置されたりして、海に流れ込んだプラスチックのこと。腐らないため、分解されずに海中を漂ったり、海底に沈みこんだりして、様々な環境問題を引き起こしている。特に近年は、紫外線や波の力によって細かく砕け、小さな粒となった「マイクロプラスチック」を魚介類が摂取することによって、人間を含む生態系に及ぼす影響が懸念されている。
海に流れ込んだプラスチックごみは、クジラが餌と間違えてビニール袋を飲みこんだり、鼻にプラスチックストローを詰まらせたウミガメが発見されたりするなど、多くの海洋生物に影響を及ぼしている。また、近年、魚介類や海鳥の体内から大量のマイクロプラスチックが見つかったほか、2018年には、人の便からも検出されたと報告された。人間の健康への具体的な影響については、まだ解明されていないが、マイクロプラスチックが、食物連鎖を通じて人間の体内に蓄積する恐れがあると指摘されている。
軽くて強く、加工しやすいプラスチックは、ペットボトルや食品トレー、漁網発泡スチロールなど、様々なものの材料に使われている。16年の世界経済フォーラム(ダボス会議)では、世界のプラスチック生産量は、1964年以降の50年間で20倍以上の3億1100万トン(2014年)に増え、少なくとも世界で年間約800万トンのプラスチックが、ごみとして海に流出しているという推計が示された。このまま海洋プラスチックが増え続けると、50年までに海中のプラスチックが魚の総重量を超えるとも警告された。
米・ジョージア大学などの研究グループの推計では、10年に陸上から海洋に流出したプラスチックごみの国別の発生量では、日本は30位。1位は中国で、2位インドネシア、3位フィリピンと上位東南アジアの国々が占めた。だが、上位の国々は、日本や欧米の国々から輸出されたプラスチックごみの受け入れ先となっている。
このような状況を受けて、海洋プラスチックの元となる使い捨てプラスチックの利用の削減や、バイオ由来のプラスチックなど代替品となる素材の開発、実用化を推進する動きが、世界中で広がっている。国連環境計画(UNEP)の19年の報告書によると、127カ国がレジ袋の法規制を実施し、84カ国が無料配布を禁止した。欧州議会は19年3月、ストローやフォークなど10品目の使い捨てプラスチック製品を、21年から禁止する法案を承認している。飲食チェーンや飲料メーカーなど企業側でも、使い捨てストローを廃止したり、ペットボトルのラベルを薄くしたり、なくしたりといった脱・プラスチックの取り組みが進められている。

(南 文枝 ライター/2019年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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