海洋底拡大説(読み)カイヨウテイカクダイセツ(英語表記)ocean-floor spreading theory

デジタル大辞泉 「海洋底拡大説」の意味・読み・例文・類語

かいようてい‐かくだいせつ〔カイヤウテイクワクダイセツ〕【海洋底拡大説】

マントル対流によって中央海嶺の中軸で高温物質が湧き出し、新しい海底となって海嶺の両側に広がっていき、古い海底は海溝でマントルの中に沈み込んで、常に更新しているという学説。この考えは、プレートテクトニクスに発展した。大洋底拡大説海底拡大説

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精選版 日本国語大辞典 「海洋底拡大説」の意味・読み・例文・類語

かいようてい‐かくだいせつ カイヤウクヮクダイセツ【海洋底拡大説】

〘名〙 大洋の中央海嶺の頂上部にある谷からマントル対流によって地球内部の物質が上昇し、海嶺の両側に広がって古い海底を押しやり、徐々に新しい海底になるという学説。のちに、プレートテクトニクスに発展した。

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改訂新版 世界大百科事典 「海洋底拡大説」の意味・わかりやすい解説

海洋底拡大説 (かいようていかくだいせつ)
ocean-floor spreading theory

海洋底大洋中央海嶺海嶺)の山頂部で生成され,数cm/年の速さで両側に移動し,海溝沿いで再びマントル内に沈み込むとする学説。世界中の海洋底の合計面積は増加するわけではないが,中央海嶺の付近を見れば海洋底は拡大しているので,こう呼ばれた。

 この考えの萌芽は,1940年代に出版されたホームズArthur Holmes(1890-1965)の著書中に見られるが,明瞭な形を整えたのは60年代の初めで,ヘスHarry H.HessやディーツRobert S.Dietzらによる。海洋底拡大説を大きく前進させたのは縞状磁気異常の発見と,その成因を説明するバイン=マシューズVine-Matthews説(1963)であった。この説は海洋底の拡大と地球磁場の逆転の二つを結びつけて縞状磁気異常を説明しようとするもので,一続きの1本の縞は,その下の海底が同時に海嶺中軸で生まれることを示すことになる。この説にもとづいて南北大西洋,東太平洋インド洋についてそれぞれ適当な値の拡大速度を仮定すると,世界共通の地球磁場逆転史がつくられ,きわめてつじつまの合う結果が得られることが示された。この推論が南大西洋について正しいことは,68年12月に行われた掘削船グローマー・チャレンジャー号による深海掘削第3次航海によって証明された。この航海では大西洋中央海嶺の軸から200~1700kmの間で異なった距離だけ離れた8点で掘削を行い,基盤直上の堆積物に含まれる微化石から海底の年齢を求めたところ,海底は中央海嶺の軸から離れるにつれてその距離に比例して一様に古くなっていることがわかった。各点の年齢は縞状磁気異常から推定されていた値ときわめてよく一致した。その後,世界各地の海底で数多くの掘削が行われたが,いずれも海洋底拡大説を支持した。

 このようにして,世界中のほとんどすべての海洋底の年齢が決められたが,どこも約2億年より新しいことがわかった。地球上に海ができてから少なくとも20億~30億年はたっていると考えられているので,現在の海洋底の年齢はそれより1桁以上若いことになる。この事実も海洋底がたえず大洋中央海嶺で生まれ,2億年もたたぬうちに海溝から沈み込んで消えてしまうとする海洋底拡大説でうまく説明できる。

 大洋中央海嶺から海洋底が生まれて横に広がることは,震源分布と発震機構からもみごとに証拠立てられた。数年から十数年にわたる震源の分布図を見ると,中央海嶺の中軸に沿って浅い地震の震源が並んでいて,中軸直下が活動中であることを示している。また,それらの地震は海嶺軸にほぼ直角な水平方向の引張力によって起こったこともわかる。これは海底が海嶺中軸部で裂けて割れ,そこにマントルからマグマが上昇して冷え固まるとする考えとよく合う。海嶺中軸部が裂けて割れつつあることは,海底地形の詳しい観測や,潜水船による直接観察からも明らかにされた。

 大西洋が中央ほど若く,両縁部ほど古くなるという事実をもとに南北アメリカとヨーロッパ・アフリカの配置を海洋底拡大開始以前の過去にさかのぼると,約2億年前までは大西洋は存在せず,両側の大陸は一つにくっついて超大陸パンゲアをつくっていたが,その後に大西洋が裂けて拡大したために東西両側がしだいに離れて現在の大陸配置になったとする大陸移動説の結論と矛盾なく結びつく。こうして,海洋底拡大説と大陸移動説を総合したプレートテクトニクスへと発展するのである。

 海洋底の拡大速度は海嶺ごとにかなり異なり,一つの海嶺でも場所によって少しずつちがう。例えば,南東太平洋のイースター島付近では両側にそれぞれ7cm/年も拡大しているのに,アゾレス島の南の北大西洋では拡大速度は1.4cm/年くらいしかなく,さらに北へいくと1.0cm/年以下になる。海洋底の拡大速度を制御する要因が何かはまだよくわかっていないが,一般に大陸を伴って動く海洋底は大陸と離れて動く海洋底より遅いことが知られている。
大陸移動説 →プレートテクトニクス
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「海洋底拡大説」の意味・わかりやすい解説

海洋底拡大説
かいようていかくだいせつ

1960年代の初めから唱えられた学説で、海嶺(かいれい)を、地球内部から物質が上昇してくる所とし、新しい海洋底(海洋底プレート)が生まれる湧(わ)き出し口が中軸谷であるとする説。大陸には地球の年齢にふさわしく35億年を経た岩石が存在するが、大洋底には2億年以上さかのぼるものが何もみつかっていないところから、大洋底が絶え間なく生まれ変わっているとみたことによる。新しい海底は、より古い海底を両側に押しやりながら、片側で1年に数センチメートルの速度で成長していく。したがって、大洋底は中央海嶺から隔たるほど古くなっていることになる。およそ2億年かかって大陸の周辺に到達した古い海底は、大陸の下に沈み込み、地球内部に還元されやがて消えていく。その沈み込み口が海溝である。このように、大洋底は恒久的なものではなく、つねに拡大(むしろ更新というべきであろう)しているというのが海洋底拡大説の主張である。この説は、最近の海洋底地球物理学がもたらした種々の証拠によって裏づけされ、多くの科学者に受け入れられている。

 この説を踏まえ、地球上のさまざまな変動活動の原動力を追究しようとするのがプレートテクトニクスplate tectonicsという作業仮説である。プレートテクトニクスでは、地球表面は厚さ100キロメートル程度のプレート(リゾスフェアともいう)で覆われていると考える。プレートは海嶺の中軸谷、トランスフォーム断層、海溝などを境に、太平洋、ユーラシア、北アメリカ……など、いくつかに分割されている。プレートはゆっくりと地球表面をすべり動くことができるので、プレートという巨大な筏(いかだ)にのっての「大陸移動」も可能である。それぞれのプレート自体は安定したブロックだから、その内側の地域に変動活動は生じない。しかし、プレートの相対運動に伴って、プレートの縁(へり)の部分では、互いの押し合い、擦れ違い、重なり合いなどがおこる。このようなプレート間の相互作用によって、プレートの縁の部分に山脈や海溝などの大構造がつくりだされ、地震や火山活動の舞台となる。このように考えれば、地球上のいろいろな変動活動を統一的に説明できる。

[勝又 護]

『上田誠也著『新しい地球観』(岩波新書)』『竹内均・上田誠也著『地球の科学』(1964・NHKブックス)』『『海洋科学別冊9 海洋地球物理研究』(1972・海洋出版)』

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百科事典マイペディア 「海洋底拡大説」の意味・わかりやすい解説

海洋底拡大説【かいようていかくだいせつ】

海底拡大説,海底更新説とも。世界の大洋底は,中央海嶺(かいれい)の頂上部でたえず生産され,年間数cm程度の速度で両側に拡大していき,海溝(かいこう)地域でふたたび地球内部にもぐりこんでいくという学説。1960年代初めに米国のH.H.ヘス,R.S.ディーツらが提唱。第2次大戦後の海底地学研究の結果,中央海嶺付近は地殻熱流量が高くマントル中の地震波速度が小さいこと,中央海嶺を中心に両側に地磁気縞(しま)模様が対称的に分布していること,海洋自身の年齢は20億〜30億年だが海洋底は2億年程度であること,海洋地殻が大陸地殻に比べて極度に薄いことなどの事実がわかり,マントル対流説をもとに海洋底拡大説へと発展,さらにプレートテクトニクス説が登場し,上記の諸事実とよく符合。現在中央海嶺はプレート同士が離れていく境界で,下からアセノスフェアが上昇してくる場とされる。→大陸移動説
→関連項目縞状磁気異常

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「海洋底拡大説」の意味・わかりやすい解説

海洋底拡大説
かいようていかくだいせつ
ocean floor spreading hypothesis

太平洋などの海洋底が中央海嶺から湧出し横に広がり,海溝からマントルの中に沈み込むとする仮説。中央海嶺では張力が働き海嶺頂部には地溝が生じる。海洋底がマントルの中へ沈み込むところでは大きな海溝を生じ島弧系を形成する。移動の速度は1年に数 cmから 10cmと推定される。原動力としてはマントルの熱対流が考えられている (→マントル対流 ) 。海洋底拡大説によって,海溝,ギヨー,中央海嶺,断裂帯などが統一的に説明され,大陸移動,造山運動などの陸上の地質現象も説明される。 (→大陸移動説 )

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