液晶(読み)えきしょう(英語表記)liquid crystal

翻訳|liquid crystal

精選版 日本国語大辞典 「液晶」の意味・読み・例文・類語

えき‐しょう ‥シャウ【液晶】

〘名〙 液体と結晶との中間状態にある物質。結晶のような光学異性の複屈折力を示し、液体のような流動性をもつ。テレビ、パソコン、電卓などの画面表示にも用いられる。異方性液体。液状結晶。
コンピュータが死んだ日(1972)〈石原藤夫〉三「液晶とは、液体に似た特性をもちながら、光学的には結晶体と同じ性質を示し」

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デジタル大辞泉 「液晶」の意味・読み・例文・類語

えき‐しょう〔‐シヤウ〕【液晶】

液体結晶との中間状態にある物質。液体の流動性と結晶の規則性とをあわせもち、光学的異方性を示す。透明な電極で挟んで、時計・パソコン・テレビ・携帯電話などの画面表示に用いる。液状結晶。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「液晶」の意味・わかりやすい解説

液晶
えきしょう
liquid crystal

液体としての流動性を示すと同時に、物理的性質(とくに光学的、電気的)は結晶と同じく異方性を示す状態にある物質。異方性液体ともいい、固体から液体、または液体から固体になる中間においてこの状態を示す。

[吉田俊久]

歴史

1888年、オーストリアの植物学者レーニッツァーFriedrich Reinitzer(1857―1927)が、安息香酸コレステリルを熱すると145.5℃で溶けて濁った液体になり、さらに温度を上げると、178.5℃で透明な液体になることを発見した。1889年にドイツの物理学者レーマンOtto Lehmann(1855―1922)は、この濁った液体を偏光顕微鏡で観察して複屈折する性質(光学的異方性)などがあることを確認し、この状態を液晶と名づけた。液晶研究に化学の面から寄与したのはドイツのホルランダーDaniel Vorländer(1867―1941)で、多数の液晶物質を合成した。1920年ごろまでには約250種以上が知られるようになっていた。現象論の面で、今日、明らかになっている多くの成果は1930年ごろまでには蓄積されていたが、理論、応用面での発展がなく、液晶研究も下火になっていった。

 1950年、イギリスのエリオットA. ElliotとアンブローズE. J. Ambroseは、合成ポリペプチドの濃厚溶液が自発的な配向(線状あるいは板状構造をもつ液晶分子がある特定の方向に優先的に配列して結晶的構造を形成すること)構造をもつこと、すなわち液晶になることを報告し、液晶が生体の組織、機能の関連において注目され始めた。1963年にアメリカ、ウェスティングハウス社のファーガソンJames L. Fergason(1934― )が液晶を用いたサーモグラフィ(物体表面の温度を色の変化で測定する方法)を考案し、さらに1968年にアメリカ、RCA社のヘイルマイヤーGeorge H. Heilmeier(1936― )は、電場の中で液晶が白濁するのを発見し、種々の表示装置(ディスプレー)、壁掛けテレビなどに応用する研究もふたたび盛んになってきた。2000年時点で、液晶物質としては1万種以上のものが知られている。

[吉田俊久]

分類

液晶は線状か板状の分子構造をもつ物質においてみられ、分子の配向の仕方によって分類される。1922年フランスのフリーデルGeorges Friedel(1865―1933)は、光学的観察に基づく液晶構造について、スメクチック、ネマチックコレステリック状態の三つのタイプに分類した。スメクチック状態とは、細長い棒状の分子がその長軸をすべて平行に配列して板状になり、この板が長軸の方向に幾重にも重なり合って層状となったものである。スメクチックsmecticの名称はギリシア語で「せっけん状」を意味するsmectosに由来し、このタイプの液晶がせっけんの濃厚水溶液に特有な偏光顕微鏡像を共通に示すことによっている(オレイン酸アンモニウムなど)。ネマチック状態は、細長い棒状の分子が長軸を一定の方向にして不規則に配列した状態で、整然とした層状にはなっていない。したがって、X線回折によってもぼやけた像を示すにすぎない。ネマチックnematicは「糸状」という意味のギリシア語nematosからつくられた(p(パラ)-アゾキシアニソールなど)。さらにコレステリック状態は、スメクチック状態と同様に層状構造をもつが、各層における分子の配列はネマチック状態に似ている。各分子層はきわめて薄く、層内での分子の配列は長軸方向で、層の面は平行である。しかも各層内の分子の長軸方向は隣接する層の分子のそれとわずかにずれて、全体として螺旋(らせん)構造をとっている。コレステロール誘導体に多くみられるのでこの名がついているが(たとえば安息香酸コレステリルなど)、コレステロール自身には液晶性はない。

 液晶の生成条件によっても分類できる。純粋物質の加熱融解、すなわち熱によって生ずるものをサーモトロピック液晶thermotropic liquid crystalとよび、ある有機物質に溶媒を加えて溶質の濃度を変えることによりできるものを、溶媒のギリシア語lyoにちなんでリオトロピック液晶lyotropic liquid crystalとよんでいる。安息香酸コレステリルなどは前者の例であり、せっけん類の濃厚水溶液は後者の代表例である。

[吉田俊久]

分子の構造

どのような分子構造をもつ物質が液晶になりうるか、一般には次のように考えられている。

 まず、分子の幾何学的な形状が細長い棒状または平板状であること。次に、分子の平行配列を保持するため、適当な大きさの分子間力をもつことが必要である。したがって永久双極子をもつ官能基や分極されやすい結合などを分子内にもつ細長い分子が望ましいといえる。具体例として、トランスp-n-アルコキシケイ皮酸を考える。トランスそしてパラ体であるから直線状に近く、カルボキシ基カルボキシル基)-COOHの部分で水素結合し、二量体(二つの分子が会合して、あたかも一つの分子としてふるまうもの)化してさらに直線性が増す。しかも分子内に、ベンゼン環や、双極子をもつアルコキシ基RO-、分極しやすいカルボニル基=Oや炭素‐炭素二重結合があるから、適度の分子間力をもつことになる。他方、異性体としてのシス体は直線状でないから液晶にはなりえない。

[吉田俊久]

液晶の観察、その性質と応用

液晶の生成を実験的に確認するには偏光顕微鏡で観察するとよい。試料をスライドとカバーガラスに挟んで薄層にして、等方性液体にまで加熱したあと冷却しながら観察する。直交ニコル(ある平面偏光のみを通すニコル・プリズム2個を偏光面に対して垂直に並べたもの)の間で初め暗黒だった視野に、やがて液晶の生成と同時に、光った粒子や模様が現れる。これは三つの液晶状態を特徴づける組織(texture)という模様である。液晶は基礎研究の成果が比較的容易に応用に結び付く。ここでは、圧倒的に応用の多い「液晶ディスプレー」については別項に取り上げてあるので省略する。

 スメクチック系では、前述の濃厚なせっけん水溶液特有の模様である。ガラス板間の薄層の観察から、ガラス面に対しては面内の二次元方向には液体であるが、これと垂直な一次元方向には運動性がないこともわかる。外見をみてもグリース状で粘着性の強い濁った流体である。電場を加えたときに粘度が変化するが、その変化が数十倍から数百倍と大きく応答性がよいことから、減衰器としてブレーキ、クラッチなどに使われる。また、潤滑剤として外部場(光、電場、熱、圧力など)による特性の変化を用いた摩擦の制御への利用も注目されている。

 ネマチック系では糸状の模様であり、毛管中でメニスカス(毛管内の液体が気相に対して曲面になることをいう)をつくるほど流動性のある濁った流体である。ネマチック液晶のもっとも大きな特徴は、磁場、電場、表面力あるいは機械力の影響で、異方性の分子集団が不規則に配列し、屈折率に揺らぎがおこり白濁を生ずる傾向があることである。当然、影響力が消えると透明になる。これは思いのままに透明ガラス、曇りガラスとして利用できる窓ガラスなどへの応用が実現している。

 コレステリック液晶スメクチック液晶に似た組織を示す。具体例として、コレステリック系の安息香酸エステルの融解液を冷却する。固化直前に独特の美しい虹(にじ)色の輝きがみられる。まず鮮やかなエメラルドグリーンに輝きだし、ついで青緑、濃紺、黄緑、黄、橙赤(とうせき)と移って、さらには真っ赤になり、やがて冷却固化して無色になる。これは、コレステリック液晶が光学活性物質であり、大きな旋光性をもち、特定波長領域で円偏光反射をおこすからである。これらの薄層の干渉色は、温度、機械的なずれ、電場、有機蒸気の吸着などで鋭敏に変化する。このうち温度効果が温度計そしてサーモグラフィなどに応用されている。

 これらの液晶はいずれも加熱あるいは冷却という温度変化により得られるもので、サーモトロピック液晶とよばれる。一方、ある種の物質では溶質の濃度の変化によって、液晶状態を生成させることができる。それをリオトロピック液晶という。

 リオトロピック液晶では濃度‐粘度の関係を測定すると、液晶の生成が確認できる。液晶の生成し始める濃度を境に、濃度が増せば粘度が低下する特有の現象がみられるからである。このときの急激な粘度の低下を利用して高分子の液晶を紡糸すると、分子の配向のよい強靭(きょうじん)な繊維が得られる。すなわち高分子液晶の紡糸である。これらの繊維にはナイロン、アラミド繊維デュポン社の「ケブラー」など)よりも数十倍も強いものがあり、炭素繊維やスチール繊維より強度で凌駕(りょうが)するPBO繊維(東洋紡績とダウ・ケミカル共同開発の、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾールを液晶紡糸した繊維。商標名「ザイロン」)なども実用化されている。

 液晶の熱的性質のほかに、ガス吸収によるコレステリック液晶の色の変化、光起電力なども検知器に利用されている。圧力、電気、放射線、紫外線、赤外線などに応答するセンサーもある。液晶による温度測定は温度計以外に、主として構造物、電子部品などの非破壊的検査に応用されている。生体における温度測定、たとえば腫瘍(しゅよう)や癌(がん)の部位を知るためにも利用されている。コレステリック液晶の示す色がごく微量の化学物質の吸着によって敏感に変化する性質は、ガス検知器などに利用されている。また、光学素子としてファイバー通信用光スイッチなどにも応用できるとの報告もある。液晶は応答速度が遅いという難点があるにもかかわらず、低電圧駆動、低消費電力という利点に大きな特徴をもっている。

 電場あるいは磁場による液晶分子の配向性を利用した分光学的研究や、化学反応への異方性溶媒としての液晶の利用もある。分析化学面では、おもに分子の形の違いを分離要因とする液晶固定相のガスクロマトグラフィー、超臨界流体クロマトグラフィー高速液体クロマトグラフィーがある。さらに極微量の光学活性化合物をネマチック液晶に加えて誘起させる円二色性スペクトルにより液晶構造の絶対配置の決定ができる。当然、核磁気共鳴(NMR)、電子そして赤外スペクトル測定用の配向性溶媒としても、分子構造の決定に有力な情報を提供してくれる。一方、化学反応で、液晶を異方性溶媒としてその配向性を溶質分子に反映させて化学反応を行うことも、数多く検討されている。

[吉田俊久]

『立花太郎ほか著『液晶』(1972・共立出版)』『松本正一・角田市良著『液晶の最新技術』(1983・工業調査会)』『艸林成和編『液晶材料』(1991・講談社)』『日本化学会編『液晶の化学』(1994・学会出版センター)』『S・チャンドラセカール著、木村初男・山下護訳『液晶の物理学』(1995・吉岡書店)』『那野比古著『わかりやすい液晶のはなし』(1998・日本実業出版社)』『液晶便覧編集委員会編『液晶便覧』(2000・丸善)』『苗村省平著『液晶がわかる本――Q&Aファイル101』(2001・工業調査会)』


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改訂新版 世界大百科事典 「液晶」の意味・わかりやすい解説

液晶 (えきしょう)
liquid crystal

一般に物質の存在のしかたとして,固体,液体および気体の3相があることはよく知られているが,液晶はこの固体(結晶)と液体の中間的な相ということができる。すなわち通常,液体の特徴は流動性を示し,それを構成している分子は無秩序に並んでいて,その属性としての物理的性質はすべての方向で同じ(等方的)である。また,固体(結晶)を構成する原子や分子の配列には規則性があり,結晶体が単結晶ならば方向によって物理的性質が異なる(異方性)。これに対して液晶では,それを構成する分子がある方向では規則性をもって並び,光学的性質などに異方性を示すが,また柔軟性や流動性などの液体としての性質ももっている。

 液晶は,液晶相となる条件から,ある温度範囲で液晶となるサーモトロピック液晶thermotropic liquid crystalと,水やその他の極性溶媒と混合した状態で液晶となるリオトロピック液晶lyotropic liquid crystalとに分類される。前者では,温度を上げていくと固体(結晶)→液晶→通常液体→気体へと変化し,後者では溶媒の量を増していくと,固体→液晶→通常液体という変化を示す。サーモトロピック液晶の発見は,1888年にオーストリアの植物学者ライニッツァーFriedrich Reinitzerがコレステロールのエステルの性質を研究している際,コレステリル安息香酸が,温度を上げていくと145.5℃で完全にとけるが,その外観は通常の液体とは異なり不透明で,さらに178.5℃まで温度を上げると初めて通常の透明な液体となることを見いだしたのが最初である。また,リオトロピック液晶は,1854年ドイツのR.フィルヒョーが生体の神経組織であるミエリンと水を接触させることによって得ている。現在までに知られている液晶となる物質は,天然および人工的合成物を含めて数千種類にのぼるが,すべて有機物分子から構成されている。また,そのほとんどはサーモトロピック液晶であり,各種の分野に応用されているのもこれである。

液晶を特徴づけているのは,主としてそれを構成する分子の形とその並び方である。それらの大半は棒状の低分子(長さ数十Å,幅数Å)であり,変種として,円板状分子や高分子(ふつう長いひも状)も液晶となる。それらの分子式を図1に示す。また,これらの分子の並び方から約20種類の相が知られているが,その基本形はスメクティックsmectic,ネマティックnematic,コレステリックcholesteric,ディスコティックdiscoticである。スメクティックはセッケン状という意味のギリシア語に由来している。身近なスメクティック液晶の例としてはセッケン水があり,これはリオトロピック液晶に属する。なお,現在までスメクティックには11種の異なる相があることが知られており,A,B,C,……などと区分されている。ネマティックは糸状というギリシア語に由来し,分子の並び方の不連続線(欠陥の一種でディスクリネーションと呼ばれる)が黒い糸のように見えることから名づけられたものである。またコレステリックの名は,この液晶がコレステロールの化合物に多く見られることに由来している。これら3種類の基本型は20世紀の初めころから知られていたが,ディスコティックは最近発見されたもので,構成する分子が円板(ディスク)状であることから名づけられた。これらの分子配列の模型を図2に示した。スメクティック液晶は棒状の分子が層状をなしており,層内で分子が規則正しく並んでいればそれは分子結晶の一種であるが,事実それに近いものもある(スメクティックBなど)。ネマティックでは棒状分子はほぼ方向をそろえて並んでいるが,一つ一つの分子の重心を見るとその位置は不規則である。コレステリック液晶はネマティック液晶の層を回転させながら重ねた形をしている。ちょうど360度回転した層までの厚さ(ピッチ)は,通常,可視光の波長(400~800nm)くらいであるため,白色光をよく回折し美しい干渉色を示す。ディスコティック液晶は図2-eに示したように,円板が重なって円柱状になることから,円柱状(カラムナー)液晶とも呼ばれている。

 一般に,サーモトロピック液晶では低温から温度を上げていくと,結晶→スメクティック(またはコレステリック)→ネマティック→等方性液体と順次相転移を起こす。コレステリック液晶では分子を重ねると右または左にねじれていくが,このような現象は分子の非対称性に由来するものであり,ねじれを与える原子団があるためである。そのような分子をカイラル分子と呼ぶ。ネマティック液晶にコレステリック液晶をわずかに混合すると,ピッチが数μmのカイラルネマティックと呼ぶ状態を作り出すことができる。またスメクティック液晶の構成分子にカイラル原子団をつけてやるとカイラルスメクティック液晶となる。

容器に液晶を入れて観察すれば,ネマティック液晶は強い光散乱を示して白濁しており,軽油なみの流動性を示す。スメクティックやコレステリックははちみつくらいの柔らかさで外観は白濁している。このような状態の液晶は研究や応用にはほとんど使うことはできず,実用のためには単結晶としなければならない。通常,2枚のガラス(プラスチックでもよい)板の間に液晶を入れ,そのガラス板の内側が適度に処理されていると,そのようなサンドイッチ構造の中で,単結晶液晶膜を得ることができる。ガラス板の面積にはあまり限界はないが,単結晶を得るためのその間隙(かんげき),すなわち液晶の厚さは1~500μmくらいである。図3にも単結晶液晶での分子配列をサンドイッチ構造の断面図で示す。図3-fは欠陥の一例を示したもので,図で1対の点は分子配向の不連続,したがって屈折率の不連続線(ネマティック線)の断面を示す。図3-a~eのような単結晶液晶では,屈折率,誘電率,透磁率,導電率,超音波伝播(でんぱ)速度,弾性率などあらゆるマクロ的物理量が異方性を示し,またeの場合には旋光性を示す。このような異方性の原因は,例えば図1に示した分子a~eにおいて,透磁率や屈折率は分子の長軸方向で大きく,誘電率はcでは長軸方向で,dでは短軸方向で大きくなるためである。これら単結晶液晶に電界や磁界を印加すると,分子配列が変わり,マクロ的物理量も変化する。そのとき,ふつうの結晶に比べてきわめてわずかな外力(数千分の1)で物理的性質が変化し,例えば消費電力では100万分の1程度である。

液晶を技術的に応用するときは,液晶がきわめて弱い外力(電磁力,圧力など)や環境の変化(温度,化学物質との接触など)に敏感に応答する性質が利用される。液晶の応用としては情報表示(主としてネマティック,少数例としてスメクティック。液晶表示はLCD(liquid crystal displayの略)と呼ばれている),情報蓄積(主としてスメクティックとコレステリック),温度,音波や外力に対するセンサー(コレステリック,ネマティック),光伝送路部品(ネマティックなど),生体細胞膜のモデル(スメクティック)などがある。

 液晶の電子情報表示および情報蓄積への応用動作の原理と物質とを表に示した。この中ではねじれたネマティックが電卓や腕時計,あるいはマイクロコンピューターなどにもっとも多く用いられているので,これについてやや詳しく説明する。ねじれたネマティックを用いる場合,1対の偏光板を利用するが,それは図4に示すように相互に回転することにより光の透過,遮断の制御ができるようになっている。その偏光板の間にねじれたネマティックを入れる。図5は偏光板を平行にしたときである(図4-aに相当する)。両偏光板の間に90度のねじれたネマティックが入ると光の偏光面を90度回転させるので,電界が0のとき(図5-a)は光を遮断する。逆に電界が加わった状態では(図5-b),液晶層の内部では液晶分子は電界に平行になるので液晶媒質は旋光性を失い光を透過する。ただし図5-bに示すように透明電極がないところでは電界が加わらないので分子は元のままであり,その部分だけ光を通さない。このようにして透明導電膜にパターンをつければそれに従って表示できる。偏光板に透過波長特性があって特定の波長の光のみを通すと,その波長の色のカラー表示ができる。

 液晶のもう一つの身近な応用例として液晶温度計がある。これはコレステリック,あるいはねじれたネマティックのピッチが温度によって変化し,それに応じてもっとも強く散乱される光の波長が変わることによって特定の色を呈することを利用したものである。液晶の利用は現在ますます拡大しつつあり,液晶表示では従来は数字8文字程度の表示であったのが,現在は200字表示や,さらにテレビ画面も作られており,このほか,液晶状態から紡糸を行う液晶紡糸の研究も進められている。

 なお,これは応用ではないが,液晶は生体機能の解明にも関連をもっている。水を含んだリン脂質の二重層(一種のリオトロピック液晶)とタンパク質からなる細胞膜モデルはその例で,このような系の相は水分や塩,イオンなどに敏感に依存し,生体膜の働きの研究に役だてることができる。
細胞膜
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化学辞典 第2版 「液晶」の解説

液晶
エキショウ
liquid crystal

ある種の有機化合物は,狭い温度範囲で粘ちゅうな白濁した液体になる.この液体は,分子の規則的な配向秩序を一部維持すると同時に液体のような流動性をもち,光学的異方性を示す.このように結晶のような秩序をもつ液体を液晶(液状結晶)という.細長い棒状あるいは平板状の形状をもち,分子の配列を維持するための適度な大きさの分子間相互作用をもつ化合物で,以下のような構造をもつものに多くみられる.
(1)分子の形状は非対称で,
(2)大きな電気的双極子をもち,
(3)-CCl,-COC-,-CH=N-,-OCOO-のような活性な基を末端近くにもっている.
分子配向の形によって分子の長軸が互いに平行で,それ以外には秩序配列をもたないネマチック液晶,分子の長軸が平行に配列した分子層が長軸方向に積層した構造のスメクチック液晶,長軸を平行に配列した単分子層が長軸と垂直方向に積層し,しかも各層での分子の方向がある角度ずつ規則的に回転した構造のコレステリック液晶に分類される.同一物質が異なる温度範囲で別の液晶形態をとることもある.このほかにも,円盤状の分子が円柱状に配列したディスコチック液晶がある.液晶の歴史は古く,1888年にオーストリアの植物学者F. Reinitzerは,安息香酸エチルが145.5 ℃ で結晶から白濁した液状にかわり,178.5 ℃ で透明な液体にかわることを観察した.翌年,ドイツの物理学者O. Lehmannは,この白濁した液状物質を偏光顕微鏡で観察して結晶のような複屈折効果を示すことを見いだし,液晶の名を提案した.このように物質を加熱,冷却したときにある温度範囲だけで液晶状態になるものをサーモトロピック液晶という.これに対して,ある物質を適当な濃度で溶媒に溶かしたときに液晶となるものもあり,これをリオトロピック液晶という.液晶の分子配向性は,磁場,電場,温度,圧力などによって変化する.ネマチック液晶に電場を加えると,分子集団のはげしい運動によって白濁が生じる動的散乱(dynamic scattering)を利用したものは,早くから実用化された.また,液晶分子の配向が2枚の電極基板上で90°ねじれた液晶セルと偏光板を組み合わせ,電圧のON/OFFによって光透過を制御するディスプレイも広く用いられている.

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百科事典マイペディア 「液晶」の意味・わかりやすい解説

液晶【えきしょう】

一定の温度域内で,分子の配列がある方向については規則的であるが,他の方向については不規則な液体。異方性液体ともいい,流動性をもつ点では液体に,複屈折を示すなど光学的な点では結晶に似ている。分子は棒状か板状のものが多い。分子の長軸が一定方向を向いているが相互の位置が不規則なものをネマティック状態,分子が長軸方向をそろえて互いにくっつき板状をなし,これが不規則に重なった状態をスメクティック状態,多数の層の重なりよりなるが,一つの層に注目すれば分子が長軸方向にそろって層に平行に配列し,これらの層がらせん構造になったものをコレステリック状態という。ネマティック液晶は電圧の印加により乳白色化し,光散乱をするので,平面ディスプレーとして情報表示装置などに利用され,また光記憶効果のある液晶の開発や,生体膜細胞モデルへの応用も試みられている。近年,液晶ディスプレーを用いた液晶テレビが急成長している。
→関連項目強誘電性液晶デジタルクロック電卓ページプリンター

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「液晶」の意味・わかりやすい解説

液晶
えきしょう
liquid crystal

分子の占める位置および分子軸の方向が固体結晶にみられるような完全な規則性をもつ状態と,通常の等方性液体にみられる不規則な状態との中間状態を示す物質をいう。物質のこうした相を液晶相または中間相という。したがって液晶はその様態が液体と同様に流動するが,光学的性質は方向によって異にし,結晶体に似た性質を示す。液晶にはこのような性質をある温度範囲で示すサーモトロピック thermotropic液晶と,水あるいは有機溶媒との混合によって示すリオトロピック lyotropic液晶とがある。腕時計,電卓,パーソナルコンピュータ,テレビなどの液晶表示装置 LCDに関係あるのが前者で,生体組織に関係あるのが後者である。また液晶は,分子配列により3種類に分類され,それぞれネマティック nematic (ギリシア語で threadの意) ,コレステリック cholesteric (ギリシア語で bile+solidの意) ,スメクティック smectic (ギリシア語で soapの意) 液晶という名で呼んでいる。液晶の性質を示す物質は,ほとんど有機物質で,現存する有機物質のうち,約1/200の割合で存在する。特にネマティック液晶は外部から加える電圧によって,その分子軸方向が非常に容易に変化し,それに伴って液晶の光学的性質が変化する。この性質が液晶表示装置に利用されている。またコレステリック液晶では,温度が変わるとそのねじれのピッチが変わり,そのため液晶の色が変化する。この性質が温度計に利用されている。

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知恵蔵 「液晶」の解説

液晶

結晶のような配列の秩序を持ちつつ、液体の流動性を持つ物質。棒状の液晶分子は長軸方向に規則性を持って並んでおり、配向膜(微細な溝を持つ膜)に接触させると、分子は溝に沿って並ぶ。光は液晶分子の並びに沿って進み、電圧をかけると液晶分子は直立する。これらの性質を利用し、配向膜の角度を変える、偏光フィルム(一方向の波しか通過できない膜)で分子の並びを変える、電圧をかけるなどで、画面の色や光の強弱を変化させる。ディスプレーに使われている液晶自体は光らないので、光源が必要。反射光を利用するものとバックライトを利用するものの2種類がある。カラーフィルターを用いると表示色は数十万色を超え、薄型ディスプレーとして広く使用されている。

(市村禎二郎 東京工業大学教授 / 2007年)

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とっさの日本語便利帳 「液晶」の解説

液晶

液体と固体の両方の性質を持つ材質。熱や電圧を加えると結晶の配列が変わり、光の透過、反射、散乱の状態が変わる。この原理を映像形成に応用した液晶テレビが大人気で、四〇型という超大型液晶テレビも出現した。

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「液晶」の解説

液晶

液体と固体の両方の性質を持つ物質。電圧をかけると分子の向きが変化し、液晶を透かす光の波長が変化する。液晶ディスプレイでは、この性質を利用して画像や文字などを表示する。

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