渡・済・渉・亙(読み)わたる

精選版 日本国語大辞典「渡・済・渉・亙」の解説

わた・る【渡・済・渉・亙】

〘自ラ五(四)〙
[一] ある経路を通って一方から他方へ行く。
① 船や馬などに乗って、また、泳いだり浅瀬を歩いたり、橋を使ったりして、海や川の一方の岸から他方の岸へ行く。
※書紀(720)斉明四年一〇月・歌謡「山越えて 海倭(ワタル)とも おもしろき 今城のうちは 忘らゆましじ」
※古今(905‐914)秋下・二八三「龍田河紅葉乱れてながるめりわたらば錦中やたえなむ〈よみ人しらず〉」
② 船や航空機で他国へ行く。また、他国から来る。渡航する。物が渡来することにもいう。
※万葉(8C後)一五・三六八八「すめろきの 遠の朝廷(みかど)と 韓国に 和多流(ワタル)わが背は」
※平家(13C前)三「宋朝より勝れたる名医わたれり」
③ 鳥が空中を飛び過ぎる。
※万葉(8C後)一八・四〇九〇「行方なくあり渡るともほととぎす鳴きし和多良(ワタラ)ばかくやしのはむ」
④ 日や月が空を移動して行く。
※万葉(8C後)二〇・四四六九「和多流(ワタル)日の影にきほひて尋ねてな清きその道またもあはむため」
⑤ 風などが吹き過ぎる。
※新古今(1205)秋下・四四二「み山べの松の梢をわたるなり嵐にやどすさをしかの声〈惟明親王〉」
※俳諧・続猿蓑(1698)上「平畦に菜を蒔立(まきたて)したばこ跡〈支考〉 秋風わたる門の居風呂〈惟然〉」
⑥ ある所へ移動して行く。また、ある所へやって来る。
※竹取(9C末‐10C初)「かくや姫のみ御心にかかりて、ただひとりずみし給ふ。よしなく御かたがたにもわたり給はず」
※宇治拾遺(1221頃)一五「今一度北へわたれと仰ありければ、又北へわたりぬ」
⑦ ある場所を通り過ぎる。また、橋・道・廊下などを通って行く。
※伊勢物語(10C前)一〇〇「後涼殿のはさまをわたりければ」
※抱擁家族(1965)〈小島信夫〉一「往来をわたって向う側の医院へ入って行った」
[二] 一方から他方へつながる。また、広がりおよぶ。
① 一方から他方へずっと続きつらなる。
※源氏(1001‐14頃)薄雲「雲のうすくわたれるが、にび色なるを」
② 現象や行為などが、ある範囲や年月に広がりおよぶ。
※大慈恩寺三蔵法師伝永久四年点(1116)六「之を大きにすれば則ち宇宙に彌(ワタリ)
※徒然草(1331頃)九二「このいましめ、万事にわたるべし」
③ 金銭、品物、憑き物、役目などがある人から他の人へ移る。
※源氏(1001‐14頃)若菜上「朱雀院よりわたりまゐれる琵琶、琴(きん)
※たまきはる(1219)「からうじて、御もののけ、わたるべきに申しなしたるに」
※破戒(1906)〈島崎藤村〉一「月給は明後日でなければ渡らないとすると」
④ 話をつける。両者の間がうまくいくように交渉する。
※洒落本・其あんか(1786)其ほのう「このあまもこのあまだ。なぜおれにわたらずにでた」
⑤ (転じて、他動詞的に) 心付けなどを与える。
※歌舞伎・網模様燈籠菊桐(小猿七之助)(1857)序幕「おい与ス公、席料を渡りやせう。ト金を包んでやる」
⑥ 囲碁で、低位の石と石とを連絡させるように、石を打つ。ふつう、三線以下に打つことをいう。
※浄瑠璃・右大将鎌倉実記(1724)三「定石知らぬ力碁に、先手も後手も打乱れ、渡り兼ねてぞこすみける」
⑦ 相撲で、相方互角に組む。
[三] 時間が経過する。
① 月日が過ぎて行く。
※万葉(8C後)一五・三七五六「向ひゐて一日もおちず見しかども厭はぬ妹を月和多流(ワタル)まで」
② 日を送る。世を生きて行く。
※万葉(8C後)五・八九二「此の時は 如何にしつつか 汝が世は和多流(ワタル)
※大和(947‐957頃)一五七「ふねも往ぬまかぢもみえじ今日よりはうき世中をいかでわたらむ」
[四] 「あり」「をり」の尊敬語。おありになる。「給ふ」「せ給ふ」を添えて用いることが多い。
※平家(13C前)三「乱逆打つづいて、君やすい御心もわたらせ給はざりしに」
[五] 補助動詞として用いる。
① (動詞の連用形に付く) あたり一面に…する。
※古事記(712)中・歌謡「狭井河よ 雲立ち和多理(ワタリ) 畝火山 木の葉さやぎぬ 風吹かむとす」
※徒然草(1331頃)一〇四「梢も庭もめづらしく青みわたりたる卯月ばかりのあけぼの」
② (動詞の連用形に付く) ある期間ずっと…しつづける。
※万葉(8C後)二〇・四四七六「奥山の樒(しきみ)が花の名のごとやしくしく君に恋ひ和多利(ワタリ)なむ」
③ (形容詞、形容動詞の連用形および断定の助動詞の連用形、または、それに助詞「て」を添えた形に付く) …でいらっしゃる。…でおいでになる。
※平家(13C前)一「さきのきさいの宮にて、幽なる御ありさまにてわたらせ給しかば」
※曾我物語(南北朝頃)三「おろかにわたらせたまふ物かな」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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