滑・辷(読み)すべる

精選版 日本国語大辞典 「滑・辷」の意味・読み・例文・類語

すべ・る【滑・辷】

[1] 〘自ラ五(四)〙
① 物の上をなめらかに移り動く。物と物との間をするりと通る。物の面に接しつつ抵抗なく移動する。
※狭衣物語(1069‐77頃か)四「取る手もすべるやうなる筋のうつくしさなど、斎院の御ぐしにいとよう似給へり」
幻影の盾(1905)〈夏目漱石〉「舟は油の如く平なる海を滑って難なく岸に近づいて来る」
② すわったままにじり動く。いざる。また、にじり動いて下座に移る。
※保元(1220頃か)上「いそぎ御座をすべらせ給ひて、御手をあはせ」
③ そっと座をはずす。静かに退座する。退出する。
源氏(1001‐14頃)玉鬘「御使にかづけたる物を、いと、わびしく、かたはら痛しとおぼして、御気色あしければすべりまかでぬ」
④ のがれて移動する。逃げる。
浄瑠璃出世太平記(1707)四「後だいごの天王、ほうきへすべらせ給ふ時」
⑤ 足がなめらかに動いて止まらなくなる。足を空にとられる。足もとがつるつるする。
古今著聞集(1254)一六「あはてまどひて出づとて、そのくだ小竹にすべりてまろびにけり」
※エオンタ(1968)〈金井美恵子〉一一「坂道は凍っていて、長靴の踵がすべり」
⑥ 位を去る。位をおりる。退位する。
平家(13C前)三「花山法皇の十禅万乗の帝位をすべらせ給ひしは」
⑦ (「口がすべる」の形で) 言ってはいけないことを不用意に言ってしまう。思わず口外する。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※異端者の悲しみ(1917)〈谷崎潤一郎〉一「此の言葉がうっかり口からすべったら、どんなに其の人はびっくりするだらう」
⑧ 膳などがとりかたづけられる。さげられる。
※日葡辞書(1603‐04)「ゴゼンガ suberu(スベル)〈訳〉食後に食膳を下げる」
⑨ 生まれ落ちる。
※浮世草子・傾城禁短気(1711)四「どこの牛の骨やらしれぬ女の腹からすべったがきを」
⑩ 言いたい放題に言う。言いすぎる。〔新撰大阪詞大全(1841)〕
⑪ 入学試験などに落ちることをいう、俗語
※六白金星(1946)〈織田作之助〉「高等学校の入学試験にすべり」
⑫ 取引相場で、値が急に上がったり下がったりする。〔取引所用語字彙(1917)〕
[2] 〘他ラ四〙 なめらかに簾(すだれ)や戸を動かす。
弁内侍(1278頃)寛元五年七月一五日「月いとおもしろきに〈略〉御格子もすべらず、御帳のもとにて御覧ぜさせおはします」

すべり【滑・辷】

〘名〙 (動詞「すべる(滑)」の連用形の名詞化)
① すべること。すべりぐあい。
※俳諧・曠野(1689)二「いくすべり骨おる岸のかはづ哉〈去来〉」
※抱擁(1973)〈瀬戸内晴美〉二「夫は靴べらのすべりが悪いのは、安物のせいではないかと文句をいい」
② 退出すること。辞すること。
※仮名草子・恨の介(1609‐17頃)上「この君のじゅらくを御すべり、高野へ入らせ給ふ時」
③ ふとん。おすべり。〔和訓栞(1777‐1862)〕
④ 和船の船底に二本並べて打ちつける樫の材で、船のあげおろしの際のすべりをよくするもの。ふつう小船にだけあって大船には設けない。〔席船諸名集図解〕
⑤ 江戸後期の大型荷船の表垣立上縁につけて伝馬船の積みおろしの際のすべりをよくする材。樫の木で作る。〔菱垣廻船歓晃丸図解略説(1911)〕
⑥ 誘導電動機や整流子電動機で、同期速度と実際の回転速度との差を同期速度で割った値。スリップ。
⑦ 囲碁で、三線の石から二線へ、または二線の石から一線へ、桂馬(けいま)または大桂馬に打った形。
⑧ 舞台で、張り物や切出しの下部の端につけて、床面との摩擦を少なくする小さな木片。ねこ。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android