漢方とは(漢方の基礎知識)

六訂版 家庭医学大全科 の解説

漢方の基礎知識
漢方とは
(健康生活の基礎知識)

●なぜ最近、漢方が注目されるのか

 現在、日本の70%以上の医師漢方薬を処方するまでになっています。その背景には、西洋医学ではなかなかよくならない症状や病気の割合が増えているということがあります。

 たとえば、何となく体の調子が悪いとか疲れやすい、食欲がない、頭痛や肩こり冷え性などがひどい、眠れない、でもいろいろな検査をしても異常は見つからない、といった人が増えています。

 また、生活習慣病やアレルギー、ストレスによる心身症など、薬だけではなかなか完治しないものが多くなっています。そういった、西洋薬が苦手とする病気や症状に関して、漢方薬に対する期待が高まってきました。

 そのような背景から、大学医学部においては2003年から、漢方がコア・カリキュラム(必須科目)として入ってきました。現在ではほとんどの医学部がそうなっています。医学部は6年制なので漢方を学んだ医師が卒業し、研修を積んだ現在では、さらに漢方処方が増えていると思われます。

 さらに2006年から薬学部が6年制となって、医療薬学分野の教育が大幅に取り入れられました。たとえば薬学部の生薬実習のなかに漢方薬が盛んに取り入れられ、実際に(せん)じ薬をつくり、飲ませたり、匂いや味をみさせたり、成分を分析したりしています。漢方薬メーカーの「エキス製剤」(後述)の分析比較などもしています。

●漢方の歴史

 漢方(医学)は、6世紀ころに大陸から伝わった中国医学がその元になっています。中国医学そのものは2000年以上の歴史がありますが、難解な理論が中心だったため、江戸時代に入り日本では、理論より臨床上の効率化 ――診断と処方設計のしやすさに目を向ける方向に変化しました。

 すなわち診断方法や処方(生薬の組み合わせと配分量)を、日本の環境や日本人の体質に合わせる形で変化させたのです。

 そして江戸時代に伝えられたオランダ医学蘭学(らんがく)蘭方(らんぽう))に対して「漢方」と呼ばれるようになったのは、明治時代以降です。現在の中国医学は「中医(ちゅうい)」といい、したがって「漢方」という言葉は日本独自のものです。

 しかし明治時代に西洋医学が伝えられ、その合理的な考え方が広く受け入れられたことから、今では西洋医学が主流になっています。医師法も、西洋医学を修得した者を対象とされました。

 そして公的な医療保険である社会保険制度が西洋医学の考え方を基につくられているので、根本的に異なる漢方医学の考え方に対する理解が広まることにはなりませんでした。

 それが最近になって見直されるようになったのです。

●これからの医療は「洋漢混合」で

 「洋漢混合」とは、西洋医学と漢方(医学)のどちらか一方に固執するのではなく、両方の優れたところを巧く組み合わせましょう、ということです。

 西洋医学は人の体を個々の臓器や組織の集合体としてとらえ、病気はそれらの異変であると考えられています。そして臓器ごとの異変を種々の検査によって確認し、その異変に対応する治療法を考えます。

 一方、漢方では人の体をひとつのバランスのとれた個性的な生命体ととらえ、個々の臓器はお互いに影響し合っており、病気はその体内バランスの乱れによるものと考えられています。そしてそのバランスは、精神的な原因や環境因子、生活習慣、遺伝的要素などにも影響されると考えます。また、はっきりした症状もなく検査結果も異常が認められないけれど調子が思わしくない、という状態を漢方では「未病(みびょう)」といい、治療の対象としています。それが西洋医学との大きな違いです。

 治療方法を比較すると、西洋医療では緊急時を除き、病気の症状を抑えたり感じなくさせたりする「対症療法」を主体とし、漢方は体内バランスの乱れを元にもどすのを助けることに主眼を置いています。

 したがって両者が相反する治療を選択することがあります。

 たとえば、かぜはウイルスの感染による病気ですが、ウイルスは熱に弱いことから、身体が発熱して駆逐しようとします。西洋医療では症状を和らげるために解熱剤が含まれる薬を使用することが多いのですが、漢方ではかぜの初期には、反対に体を暖めて防御反応を助けるような処方をします。

 したがって西洋医療は、外科的処置が必要な病気や病原菌による重度の感染症、外傷など急を要する場合に適しており、漢方は時間をかけて体全体を健康な状態にもどすことに長けています。

 しかし実は漢方にも、急性期に対応できる場合が多くあります。西洋薬のように対症療法として処方する場合で、たとえば喘息(ぜんそく)発作を鎮めたり、虫垂炎を抑えたりすることもできます。

 基本的に漢方は体全体の体内バランスの乱れを対象としているので、ほとんどの病気に対応することができます。

 しかしそれでは間に合わない時に、西洋医療を選択することになります。そして西洋医療の必要性が低くなったところで、漢方によって自然治癒力を助け、健康を取りもどすということが理想的といえます。

 最近になって「統合医療」という考え方を実践する人たちが増えてきています。これは、医師をはじめ薬剤師やアロマテラピストなどを取り込んで広がってきた動きで、西洋医療に限らず、それを必ずしも必要としない人には、香りなどに効果がある、飲まなくてもよいハーブを施したりして、なるべく体への負担を少なくし、総合的に体を元の健康な状態にもどそう、という考え方です。

 このようなことを実践するクリニックもあります。ハーブもアロマテラピーも生薬の世界ですが、こういったものを治療に利用するのはむしろ、アメリカ的な発想です。こういった動きが徐々に広がっていくと予想されます。

 いま薬学部では、アロマテラピーの実習をカリキュラムに取り入れたり、ハーブガーデンをつくってアロマテラピーの研究に取り組んだりしている大学もあります。

 またアロマテラピーを、末期がんで、もう薬も飲めないような患者さんに薬剤師が施しているケースもあります。何も口から入れる薬に限らず、お風呂に入れたり、塗ったり、匂いを嗅いだりという薬もあるわけです。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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