漢方の診断法(漢方の基礎知識)

六訂版 家庭医学大全科 の解説

漢方の基礎知識
漢方の診断法
(健康生活の基礎知識)

●「()(けつ)(すい)

 漢方では、人の体を健康に保っている体内のバランスを、「気・血・水」という要素に分けてとらえています。

 「()」とは、生命活動を維持する活力、エネルギーのことで、「気」が正常の時は“元気”ということになります。「気」は呼吸や食べ物の消化吸収により得られ、各臓器や器官の活動をコントロールしています。したがって栄養の偏りや不摂生、疲労、ストレスなどにより不足すると抵抗力が低下し、まず「未病(みびょう)」の状態になり、さらにさまざまな自覚症状が現れるようになります。

 漢方ではそのような状態を「気虚(ききょ)」といいます。具体的には、食欲がない、疲れやすい、気力が低下している、日中眠くなる、かぜを引きやすいなどといった症状です。

 「(けつ)」とは体液のことで、西洋医学的にいえば循環系のはたらきをします。血液やホルモンを全身に運び、栄養素をすべての細胞に供給したり体内の調子を整えたりします。

 「血」の循環が異常を来し、停滞したり偏在したりした状態を「瘀血(おけつ)」といいますが、栄養素が行き渡らないわけですから、全身にさまざまな症状が出ます。

 「(すい)」は体の水分の総称なので「血」も含まれますが、西洋医学的には白血球リンパ球のような役割をするものと考えてください。つまり、外部から侵入した病原微生物を直接、食べたり破壊したり、新たに侵入した病原体に対する抗体をつくったりする免疫系をいいます。

 「水」が停滞した状態を「水毒(すいどく)」といい、むくんだり関節痛が出たり、しびれや口渇(こうかつ)、おなかが鳴ったり、ほかにもいろいろな症状が出ます。

 この3つは当然のことながらお互い持ちつ持たれつの関係にあるので、どれかに異常を来すとほかも影響を受け、体内バランスが崩れます。そしてまず「未病」の状態になり、放っておくといずれ発病します。したがって、何となく体の具合がよくないといった時に漢方医にかかるか、あとでお話しする「相談薬局」を訪れるとよいでしょう。

 この「気・血・水」の変調と、次に解説する「(しょう)」を判定することで、「未病」や病気の診断をします。

●「(しょう)

 西洋医学では基本的に病気を個々の臓器や器官、組織の異常としてとらえます。診断は、患者さんの状態を見、話を聞いたり体に触れたりして、それらの異常を推定します。そして必要があればそれを確認するために検査をし、その異常を数値化したり画像化したりして「病名」を決めます。

 一方、漢方では病気の原因=きっかけを個々の組織の異常ではなく、体内バランスの乱れと考えます。そして「病名」ではなく「(しょう)」という概念で、その「証」を診断することによって病気の状況を判断します。したがって、症状の現れた個々の臓器などを検査で調べることはしません。

 「証」というのは、診察した時点での患者さんの多角的な状態を表す用語で、症状や異常の内容と程度、体型、「()(けつ)(すい)」の乱れなどを診ます。したがって複数の「証」を判定し、その時の患者さんの全身状態を把握します。つまり体内バランスの乱れをマトリクス(多角的)にとらえるのです。

 「証」は患者さん固有の状態で、次のような要素により影響を受けます。

・証に影響する要素……年齢、性別、基礎体力、体質、生活環境、生活習慣、食習慣、性習慣、嗜好(しこう)病歴、遺伝的要素、気候など。

 判定される「証」には、(いん)証・(よう)証、(きょ)証・(じつ)証、(ひょう)証・()証、(かん)証・(ねつ)証、気虚(ききょ)証、瘀血(おけつ)証、水毒(すいどく)証などという判定の目安がありますが、実際にはこれらが複雑に絡み合っています。

 漢方ではこの「証」を治める、元にもどすために、それぞれの「証」に合った漢方薬処方組み合わせることで治療します。したがって同じ症状でも「証」の内容が違えば、処方の組み合わせはまったく違ってきます。また逆に、まったく違う症状でも、体内バランスの乱れである「証」が同じであれば、同じ処方となることもあります。

 もし「証」に合わない処方を服用した場合、いつまで経ってもよくならないばかりか、逆に副作用が出る場合もあります。漢方薬を服用し始めて2カ月ほど経っても変化がない場合、処方の組み直しが必要になる可能性があるので、処方医か調剤した薬剤師に相談しましょう。

 また「証」は日々、変化します。なぜなら、生活習慣や環境要素などにより体の状態が変化しますし、また、漢方薬が効いてくると「証」も変化(改善)するからです。したがって基本的に、漢方では同じ処方は短期間(数日から数週間)しか出しません。

 そこで、漢方医による診察時、あるいは薬剤師との相談時の重要なポイントは、前記の「証」に影響を及ぼす要素について、ご本人のありとあらゆる情報を包み隠さず、忘れることなく伝えることです。逆にそれらについて、こと細かに聞かれても正直に答えなければ、誤った「証」の診断が下されることになります。

 そのため漢方医による診察、あるいは漢方薬局における相談は、とても時間がかかる(長い場合2~3時間)のです。

四診(ししん)

 「証」を多角的に判定するには、診察あるいは相談が必要になるわけですが、その手段には「四診」と呼ばれる方法が用いられます。それには文字通り4つの方法があり、おのおの「望診(ぼうしん)」、「聞診(ぶんしん)」、「問診(もんしん)」、「切診(せっしん)」といいます。

 「望診」:体格や体型、皮膚、舌、挙動や目つきなどを観察します。

 「聞診」:声や呼吸音、咳の音、おなかの音、それに体臭や口臭など臭いを観察します。

 「問診」:全身的な自覚症状や慢性的な症状、「証に影響する要素」を詳しく聞きます。

 「切診」:体に触れますが、さらに「脈診(みゃくしん)」と「腹診(ふくしん)」に分かれます。

 「脈診」は脈の速さや強さなどを診ます。

 「腹診」はおなかの上から指で押さえて内臓の状態を診ます。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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