災害犠牲者身元確認作業(読み)さいがいぎせいしゃみもとかくにんさぎょう(英語表記)disaster victim identification

日本大百科全書(ニッポニカ) 「災害犠牲者身元確認作業」の意味・わかりやすい解説

災害犠牲者身元確認作業
さいがいぎせいしゃみもとかくにんさぎょう
disaster victim identification

地震や台風、津波といった大規模災害、飛行機事故、戦争やテロ事件などによって犠牲になった多くの遺体身元を確認する作業。略称DVI。通常5段階の作業に分けられ、遺体の損傷状態などに応じ、DNA検査や全身のCT検査などの詳細な情報収集が行われる。具体的には、(1)災害現場における検査や分析のための材料採集、(2)遺体の状態や死因の確認、試料などの情報収集、(3)行方不明者の生前情報や試料の収集、(4)遺体の情報と生前の情報のマッチング、(5)追跡調査、などが行われる。法的にも、人道的な面からも、犠牲者の遺体や遺留品が速やかに回収され、身元の究明がなされることは、遺族にとっても、また災害や事件を収束させるうえでもきわめて重要である。

 身元を確認するうえで重要な点が、(2)の段階において行われる、外表検査、解剖、指紋検査、歯科検査、生体試料の採取である。遺体の損傷が激しい場合には、歯科検査、生体試料によるDNA検査が有用である。DNA検査では、照合に要する時間が短縮されたシステムが開発されている。家族から提供された肉親のDNAとの間接的照合も可能になりつつある。また、火災により遺体の外表が激しい焼損状態にある場合などには、体形の特徴、けがや手術の痕(あと)などの情報が速やかに得られる全身CT検査が有効である。

 一方、このような情報収集、マッチングと同様に、個人識別のうえで重要となる生前の身体的特徴を、国際的な統一様式で記録する基準も必要である。今日の国際社会では、災害時に検死官が犠牲者の身元を確認する際には、国際刑事警察機構(インターポール)が発行するDVIについてのマニュアル(Disaster Victim Identification Guide)が用いられている。今後は、遺体のナンバリングシステム、DNA検体の採取、歯科鑑定、指紋鑑定、身体鑑定、複数の情報鑑定などにおける情報の標準化が求められている。ただし、医療データとそれに相関する個人情報は、国ごとに仕様や取り扱いが異なるなどの課題が残されている。

[編集部]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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