焚書(読み)フンショ

デジタル大辞泉 「焚書」の意味・読み・例文・類語

ふんしょ【焚書】[書名]

中国、明末の思想李贄りし著書。6巻。1590年刊。人間にとって最も本来的なものとして童心を主張し、特異な人間肯定論を展開

ふん‐しょ【×焚書】

学問・思想を権力によって弾圧するための手段として、書物を焼き捨てること。

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精選版 日本国語大辞典 「焚書」の意味・読み・例文・類語

ふん‐しょ【焚書】

〘名〙 学問や言論圧迫の手段として書物を焼きすてること。→焚書坑儒
フランスの百科辞典について(1950)〈渡辺一夫〉五「告発されて、焚書(フンショ)に処せられるという事件も起った」 〔史記‐儒林伝〕

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改訂新版 世界大百科事典 「焚書」の意味・わかりやすい解説

焚書 (ふんしょ)

政治権力による思想・言論統制策の一つで,書物にもられた思想を禁圧し,その流通伝播を防止するために,公開の場で当該の書物を焼き捨てる行為,儀式をいう。秦の始皇帝が行ったと伝える〈焚書坑儒〉は史上名高い。思想の生産者とその生産物(手写本)とを併せて物理的に消去する試みは,思想の伝達が師から弟子へと〈語り〉によって行われ,また手写によって〈本〉の再生産が行われていた時代にあっては,焚書は最も徹底した思想統制の手段であった。いわゆる大航海時代以降,中南米でヨーロッパの征服者,植民者が数多く行った現地記録の焼却も,この系譜に属するといってよい。

 〈異端〉の本を焼くこと(しばしば著者の焚刑と併せて)は中世末から18世紀にかけて,全ヨーロッパ的規模で慣行化していた。教皇インノケンティウス8世は1487年の教書で,〈異端,不敬,中傷誹謗〉の本の流通禁止,著者の処罰を求め,罰則として破門,罰金,焚書をあげている。しかし,焚書を民衆教戒の熱狂的な儀式として組織したのは,ごく短期間(1494-98)フィレンツェを支配した改革者サボナローラである。しかし,この時期になると,活版印刷術の普及により本の生産は容易かつ大量に行われるようになっていたので,焚書によって絶滅できるものではなく,それはむしろ権力の意志を示威し,民衆に実物教育を行う象徴的行為としての意味合いをもっていた。イギリスでは18世紀まで,禁圧された本の著者を首枷をかけて広場にさらし,その前で絞刑吏がその本を焼く儀式がしばしば行われた。〈本〉には書いた人間の魂がのり移っており,一種〈人格〉に類するものだという観念が背後にあったためである。現代では,1933年5月10日,政権獲得後のナチスが,〈ユダヤ人〉,共産主義,社会主義者などの本を〈焚書〉にする儀式を大規模に展開して,〈野蛮〉の復活として世界の指弾を浴びたことがよく知られている。
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普及版 字通 「焚書」の読み・字形・画数・意味

【焚書】ふんしよ

典籍を焼く。漢・孔安国〔尚書の序〕秦の始皇、先代の典を滅ぼし、書を焚き儒を坑(あな)にするにんで、天下の學士、れて解散す。~我が先人、用(もつ)て其の家書を屋壁にす。

字通「焚」の項目を見る

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図書館情報学用語辞典 第5版 「焚書」の解説

焚書

書物を焼却すること.特に,書物に記された思想を禁圧し,その流通,伝播を抑止する目的で,為政者,権力者が公開の場で当該書物を焼却する行為,儀式.秦の始皇帝の焚書坑儒(前213)以来,ナチスドイツの焚書(1933),中国文化大革命の焚書(1966)にも見られるように,歴史的にほとんど途絶えることなく続いている思想・言論の弾圧・統制手段であり検閲・禁書の極端な形態である.書物が大量に安価に生産される時代にあってはすべてを焼却することは不可能であるが,弾圧・統制の象徴的な意味を持って行われる.

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世界大百科事典(旧版)内の焚書の言及

【禁書】より

…秦の孝公の下で変法を実施した商鞅(しようおう)は,古聖の書を引証しては変法に攻撃を加える守旧派に対抗するため《詩経》《書経》を焚(た)いた。韓非子も古書と儒者を除くことを主張しているが,有名な秦の始皇帝による焚書(ふんしよ)はこの流れを受けたものである(焚書坑儒)。前213年,古の封建制を賛美し,郡県の新制を批判する声があがると,始皇帝は宰相李斯(りし)の提言を入れ,秦の史料以外のすべての歴史書および《詩経》《書経》,諸子百家の書はいっさい民間に所蔵することを禁じ,焼棄せしめた。…

【始皇帝】より

…度量衡を統一して基準の量器を全国に配布し,車軌を一定し,標準となるべき文字(篆書(てんしよ))や貨幣(半両銭)を制定した。 制度文物の統一とともに焚書(ふんしよ)と坑儒(こうじゆ)を強行して思想および言論の統制を図った。史官は秦史以外の列国の歴史を焼却処分し,民間が所蔵する詩書諸子百家の類はことごとく守・尉に提出して焼却させた。…

【焚書坑儒】より

…これに違反する者,また儒教の経典を読んで議論したり,政治を非難する者は,すべて極刑に処する〉と定めた。これが焚書である。坑儒は,方士(神仙術の体得者)の説く神仙思想に熱中し,あらゆる手段を講じて不老不死の霊薬をさがし求めた始皇帝が,やがて彼らに欺かれていたことを知り,焚書の翌年に方士のみならず諸生(学者)も同類とみなして捕らえて訊問したところ,互いに罪をきせあってのがれようとしたため,禁令を犯して妖言をまきちらしたという理由で460余人を穴埋めにして殺した事件である。…

※「焚書」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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