燕子花・杜若(読み)かきつばた

精選版 日本国語大辞典 「燕子花・杜若」の意味・読み・例文・類語

かきつばた【燕子花・杜若】

[1] 〘名〙 (古くは「かきつはた」)
① (和名は書付花(かきつけばな)の変化したもので、昔は、その花の汁で布を染めたところからいう。ふつう「燕子花・杜若」と書くが、漢名としてはいずれも誤用) アヤメ科の多年草。東シベリア、中国北部、朝鮮、日本各地の池沼、水辺などの湿地に生え、観賞用に栽培もされる。高さ四〇~八〇センチメートルで、茎は分枝せず直立する。葉は多く根生し、アヤメの葉(幅五~一〇ミリメートル)より広く、幅一~三センチメートル、長さ三〇~九〇センチメートルの剣状で、中肋はなく先はとがり基部はさやとなって茎をはさむ。五~六月頃、茎頂の苞(ほう)の間から濃紫色の花を二~三個次々に開く。外花被片基部中央の黄色部に紫色の横線がないのがアヤメと異なる。内花被片は小さく直立する。栽培品種には白色のものもある。かおよぐさ。かおよばな。かきつ。かいつばた。《季・夏》
万葉(8C後)一七・三九二一「加吉都播多(カキツハタ)(きぬ)に摺りつけ大夫(ますらを)のきそひ猟(かり)する月は来にけり」
※俳諧・犬子集(1633)三「見る人や何の用事もかきつばた〈重頼〉」
狩衣の襲(かさね)の色目の名。表は二藍(ふたあい)、裏は萌葱(もえぎ)(物具装束鈔(1412頃か))。一説に、表は薄萌葱、裏は薄紅梅(胡曹抄(1480頃))。女房の五衣には、上の三つは薄色を匂わせ、次の二つは青の濃淡。単は紅(満佐須計装束抄(1184))。四月に用いる。かいつばた。
※栄花(1028‐92頃)根合「皇后宮のは、昌蒲・楝(あふち)瞿麦(なでしこ)・かきつばたなど、かねして花鳥を造り、口置き、いみじき事どもを尽させ給へり」
④ 紋所の名。主に公家の紋として用いられ、燕子花の花、二つ追い燕子花、抱き燕子花、丸に向燕子花などがある。
人形浄瑠璃の人形の手の称。親指と別に、他の四本の指がまとまって一つに動き、その開いた形が燕子花の花に似ているところからいう。
※楽屋図会拾遺(1802)下「杜若(カキツバタ)。親ゆび残り跡の四本一つにうごく也」
⑥ 植物「やぶみょうが(藪茗荷)」の古名。〔大和本草(1709)〕
⑦ 香木の名。分類は羅国(らこく)。二百種名香の一つ。
[2]
① 燕子花の花のように美しい意から、美しい意の「につらふ」「にほふ」にかかる。
※万葉(8C後)一〇・一九八六「吾れのみや斯く恋すらむ垣津旗(かきつはた)(に)つらふ妹は如何(いか)にかあるらむ」
② 燕子花が咲くというところから、「さく(咲)」の連用形「さき」と同音の地名佐紀」にかかる。
※万葉(8C後)一一・二八一八「垣津旗(かきつはた)佐紀沼(ぬ)の菅を笠に縫ひ着む日を待つに年そ経(へ)にける」
[3] (杜若) 謡曲。三番目物。各流。作者不詳。「伊勢物語」による。三河国八橋(やつはし)で、燕子花の精が初冠(ういこうぶり)、唐衣姿で現われて、「伊勢物語」の話をし、舞を舞い、業平の詠歌の功徳で成仏したことを語る。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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