犬筑波集(読み)いぬつくばしゅう

精選版 日本国語大辞典 「犬筑波集」の意味・読み・例文・類語

いぬつくばしゅう いぬつくばシフ【犬筑波集】

室町後期の俳諧集。一巻山崎宗鑑編。天文元年(一五三二)頃成る。宗鑑、宗祇、宗長などの句三七〇を収める。卑俗でこっけいな表現を打ち出し、俳諧が連歌から独立する機運を作った。日本初の俳諧撰集。俳諧連歌抄。新撰犬筑波集

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デジタル大辞泉 「犬筑波集」の意味・読み・例文・類語

いぬつくばしゅう〔いぬつくばシフ〕【犬筑波集】

室町後期の俳諧集。1冊。山崎宗鑑編。享禄(1528~1532)末から天文(1532~1555)初年前後の成立か。卑俗でこっけいな表現を打ち出し、俳諧連歌から独立する契機となった。俳諧連歌抄。新撰犬筑波集。

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改訂新版 世界大百科事典 「犬筑波集」の意味・わかりやすい解説

犬筑波集 (いぬつくばしゅう)

俳諧撰集。宗鑑そうかん)編。慶長(1596-1615)ころ刊。1冊。《新撰犬筑波集》の略称で,《菟玖波集(つくばしゆう)》などの連歌撰集に対して卑俗な俳諧の連歌の撰集の意。宗鑑編纂当時の書名は《誹諧連歌抄》《誹諧連歌》であったことが確実で,1524年(大永4)ころから40年(天文9)ころまでの間に編纂されたと推定される。逐次改編増補されたらしく,古写本は伝本によって内容の異同がはなはだしい。収録句の作者名はすべて無記名で,なかには宗祇,宗長,宗碩そうせき),兼載などの著名な連歌師の作品や,守武(もりたけ)および編者宗鑑自身の作品も含まれているが,大半は作者不明のままであり,《新撰菟玖波集》成立(1495)後まもない当時の俳諧の盛行ぶりを推察するに足る。俳諧の撰集としては1499年(明応8)成立の《竹馬(ちくば)狂吟集》(編者不明)に次ぐが,一般に流布して俳諧の独立に寄与するとともに表現の題材や技法の面で後世に大きな影響を与えた点については《守武千句》とともに筆頭にあげられ,たとえば貞徳は批評書《新増(しんぞう)犬筑波集》を刊行している。部立は勅撰集以来の四季・恋・雑を踏襲しているが,雑の部が過半を占めることは,この書物における人事重視の傾向の一端を示しており,〈忍ぶとすれど声のたかさよ 春日野の若紫のすりこ鉢〉〈今朝のお汁の鳥はものかは いつ食ふも飽かぬはかれの鱠(なます)にて〉のような和歌のもじりや縁語仕立てによる転換の妙,〈内はあかくて外はまつくろ 知らねども女のもてる物に似て〉のような放埒さ,〈夫婦ながらや夜を待つらん まことにはまだうちとけぬ中直り〉〈切りたくもあり切りたくもなし ぬす人をとらへてみればわが子なり〉のような一種のうがちなど,のちの貞門俳諧から談林俳諧を経て川柳に至るまでの近世笑いの多くが,すでにここに胚胎しているといえよう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「犬筑波集」の意味・わかりやすい解説

犬筑波集
いぬつくばしゅう

室町後期の俳諧(はいかい)集。宗鑑(そうかん)編。1530年前後(享禄・天文初年)に成る。書名は、宗鑑自筆本や古写本には「誹諧連歌抄(れんがしょう)」などとあり、江戸初期の刊本に至って『新撰(しんせん)犬筑波集』と題された。主として編者と同時代人の発句(ほっく)、付句(つけく)を収録した撰集で、室町時代の俳諧を知る文献として『守武(もりたけ)千句』と双璧(そうへき)をなす。編者は卑俗、滑稽(こっけい)という俳諧の本質にかなった傑作を精選したらしく、そこには、技法的にみれば縁語、掛詞(かけことば)、もじり、比喩(ひゆ)見立て、非論理反常識などの言語機知による笑いがあり、素材的にみれば卑俗語の自由な使用や、卑猥(ひわい)、不道徳による闊達(かったつ)な笑いが満ちて、日本語による滑稽表現のあらゆる可能性がすでに出尽くしている観さえある。

[今 栄蔵]

『鈴木棠三校注『犬つくば集』(角川文庫)』

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百科事典マイペディア 「犬筑波集」の意味・わかりやすい解説

犬筑波集【いぬつくばしゅう】

室町後期の俳諧(はいかい)撰集。1冊。《新撰犬筑波集》《俳諧連歌抄》とも。山崎宗鑑の撰とされる。1524年―1540年の間に成立か。異本が多く,句数の異同が激しいが,多いものでは付句約330,発句約50。当時の俳諧連歌の秀作を収集したもので,《守武千句》とともに後代の俳諧に大きな影響を与えた。作者名は記されていないが,宗祇宗長,猪苗代兼載,荒木田守武ら,および宗鑑の作と判明するものがある。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「犬筑波集」の意味・わかりやすい解説

犬筑波集
いぬつくばしゅう

室町時代の「俳諧之連歌」集。山崎宗鑑編。1冊。天文年間 (1532~55) 成立。古写本には『誹諧連歌』『誹諧連歌抄』,近世になって出版された版本には『新撰犬筑波集』とあり,『犬筑波集』と通称されている。四季,恋,雑の付句および発句の部から成る。当時世間に流布した句を採録,編集したもので,作者は無記名で大部分は作者不明だが,まれに宗祇,宗長,兼載,宗碩,守武,宗鑑など作者の知られるものもある。作風は自由奔放,哄笑の声が聞えてきそうなおおどかさで,談林俳諧の展開に大きな影響を与えた。『竹馬狂吟集 (ちくばきょうぎんしゅう) 』とともに,初期俳諧を知るうえに最も重要な資料。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「犬筑波集」の解説

犬筑波集
いぬつくばしゅう

室町時代の俳諧句集。宗鑑(そうかん)撰。1530年(享禄3)前後の成立。書名は「新撰犬筑波集」の略称で,古写本には「誹諧連歌抄」などとみえる。「犬」は連歌の「新撰菟玖波集(しんせんつくばしゅう)」に対する俳諧としての卑称。俳諧撰集としては1499年(明応8)成立の「竹馬狂吟集」についで古く,写本・古活字本・整版本として広く流布。諸本によって句数や本文に異同が多い。大部分の句の作者は不明だが,他の史料により宗祇(そうぎ)・宗長・兼載・宗鑑らの作と知られる句もある。作風は和歌的優美さを付句(つけく)で卑俗に逆転したり,卑猥な描写をよみこんだ句が多い。「古典俳文学大系」所収。

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旺文社日本史事典 三訂版 「犬筑波集」の解説

犬筑波集
いぬつくばしゅう

室町後期の俳諧連歌選集
『俳諧連歌抄』『新撰犬筑波集』ともいう。16世紀前半の成立。撰者は山崎宗鑑。滑稽味をねらった笑いの連歌で,正風連歌のもつ貴族性に対して,庶民的な自由卑俗な笑いを,言葉の機智・駄洒落によって表現している。近世俳諧の源流。

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