猩々(能)(読み)しょうじょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「猩々(能)」の意味・わかりやすい解説

猩々(能)
しょうじょう

能の曲目。五番目物。五流現行曲。作者不明。『石橋(しゃっきょう)』とともに、1日の催しの終わりをめでたく祝福するフィナーレ用の能。中国の孝子・高風(こうふう)(ワキ)が登場し、毎日やってきて酒を飲む不思議な童子のことを語り、猩々と名のって水中に消えたので、酒壺(さかつぼ)を持ち、水のほとりで彼を待とうという。猩々が酒を買いに出る前段は現在の脚本から省略されている。のびやかな登場の囃子(はやし)にひかれ、浮かび出た酒好きな妖精(ようせい)猩々(シテ)は、芦(あし)の葉風を笛に、波の音を鼓として舞を舞い、酌めども尽きることのない酒壺を与える。猩々というにこやかに赤い独自の能面、すべて赤い装束で祝言性を強調している。舞が「乱(みだれ)」という特殊なものになると、曲名も『乱』と変わり、至難な技術の秘曲となる。各流ともにさまざまな演出を伝えている。宝生(ほうしょう)流の『七人(しちにん)猩々』は、曲名も変わった「乱」のバリエーション。観世流の『大瓶(たいへい)猩々』は別個の能。大きな壺の作り物が舞台に出され、大ぜいの猩々の乱舞となる。なお『大瓶猩々』の場合は、童子姿の前シテが登場する。本曲からとられた邦楽舞踊は古くから多くあったが、今日伝わるものは少なく、長唄(ながうた)『二人(ににん)猩々』、地歌(じうた)『女猩々』、一中節『猩々』などが行われている。

増田正造

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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