玉櫛笥・玉匣(読み)たまくしげ

精選版 日本国語大辞典 「玉櫛笥・玉匣」の意味・読み・例文・類語

たま‐くしげ【玉櫛笥・玉匣】

[1] (「たま」は美称) 美しいくしげ。
万葉(8C後)四・五二二「をとめらが珠篋(たまくしげ)なる玉櫛の神さびけむも妹(いも)に逢はずあれば」
源氏(1001‐14頃)行幸「ふた方に言ひもてゆけば玉くしけ我が身離れぬかけごなりけり」
[2]
① くしげを開く意で、
(イ) 「ひらく」「あく」にかかる。
※万葉(8C後)四・五九一「吾が思ひを人に知るれや玉匣(たまくしげ)開きあけつと夢(いめ)にし見ゆる」
(ロ) 「開(あく)」の「あ」と同音を含む地名「あしき」にかかる。
※万葉(8C後)八・一五三一「珠匣(たまくしげ)蘆城の河を今日見ては万代(よろづよ)までに忘らえめやも」
② くしげの蓋(ふた)をする意で、「おほふ」にかかる。
※万葉(8C後)二・九三「玉匣(たまくしげ)覆ふをやすみ明けていなば君が名はあれど吾が名し惜しも」
③ くしげの蓋の意で、「ふた」と同音を含む語にかかる。
(イ) 地名「二上山」「二見」「二村山」などにかかる。
※万葉(8C後)一七・三九五五「ぬばたまの夜はふけぬらし多末久之気(タマクシゲ)二上山に月傾きぬ」
(ロ) 「二年(ふたとせ)」「二声」「二尋(ふたひろ)」「二つ」などにかかる。
大和(947‐957頃)四「たまくしげ二年逢はぬ君が身をあけながらやはあらんと思ひし
※新勅撰(1235)夏・一四九「ほととぎす鳴くや五月(さつき)のたまくしげ二声聞きて明くる夜もがな〈藤原雅経〉」
④ くしげの身の意で、「身」と同音を含む「三諸(みもろ)」「三室戸(みむろと)」「恨み」にかかる。一説に、くしげを開けて見る意で、「見」と同音を含む語にかかるともいう。→補注
※万葉(8C後)二・九四「玉匣(たまくしげ)みもろの山のさなかづらさ寝ずは遂にありかつましじ」
今昔(1120頃か)二四「たまくしげうらみうつせるうつせがいきみがかたみとひろふばかりぞ」
⑤ くしげの箱の意で、「箱」と同音または同音を含む地名「箱根」、または「箱」などにかかる。
※土左(935頃)承平五年二月一日「たまくしげ箱の浦波立たぬ日は海を鏡と誰か見ざらん」
⑥ くしげと縁の深いものとして「掛子(かけご)」にかかり、また、鏡と同音の地名「鏡の山」にかかる。
※二度本金葉(1124‐25)雑下「たまくしげかけごに塵もすゑざりし二親ながらなき身とを知れ〈よみ人しらず〉」
⑦ 大切なものの意で「奥に思ふ」にかかる。
※万葉(8C後)三・三七六「あきづはの袖振る妹を珠匣(たまくしげ)奥に思ふを見給へ吾が君」
⑧ くしげが美しいの意で、「輝く」にかかる。
※播磨風土記逸文(釈日本紀所載)(1274‐1301)「玉匣かがやく国、苫枕(こもまくら)宝ある国」
[3] (玉くしげ) 江戸中期の国学書。一冊。本居宣長著。寛政元年(一七八九)刊。天明七年(一七八七)紀伊藩主徳川治貞に奉られた、古道による政治論「秘本玉くしげ」の別巻として添えられた書。為政者の立場の政治論で、「秘本」の総論的な内容である。
[補注]上代において(二)④のかかる語の音は、「身」の「み」は乙類音、「三諸」の「み」は甲類音で、別音。また、「見」の「み」は甲類音で「三」と同音。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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