甘粛(省)(読み)かんしゅく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「甘粛(省)」の意味・わかりやすい解説

甘粛(省)
かんしゅく / カンスー

中国北西部の省。中国東部から西域(せいいき)への門戸となる位置にあり、省内をシルク・ロードや万里長城が縦断する。面積約45万平方キロメートル、人口2533万6508(2000)。回族、チベット族、トンシャン族、モンゴル族、ハザク族、ユーグ族、サラール族などの少数民族が7~8%を占める。省政府は蘭州(らんしゅう/ランチョウ)市に置かれ、金昌(きんしょう)市、嘉峪関(かよくかん)市、白銀市、天水市が地区級市である。ほかは7地区、2自治州(甘南ツァン族、臨夏(りんか)回族)に分かれる。

 省域は南東より北西に細長く、南東部は黄土(こうど)高原と、青蔵(せいぞう)高原につながる険しい山地からなり、その間に渭河(いが/ウェイホー)や黄河(こうが/ホワンホー)の上流が盆地を形成している。北西部は祁連(きれん/チーリエン)山脈の北麓(ほくろく)に沿う河西(かせい)回廊と、その北の内モンゴル高原の一部を含む。気候は両地域で大きく異なり、南東部は比較的降水量も多いのに対し、北西部は大陸性の乾燥気候で砂漠に近い。もっとも南部の白竜江(はくりゅうこう/パイロンチヤン)地区は揚子江(ようすこう/ヤンツーチヤン)流域に属し、温暖多湿である。

 耕地は、南東部では盆地や黄土高原上の平坦(へいたん)面に、北西部では河西回廊のオアシスに分布し、その約4分の1は人工的に灌漑(かんがい)されている。作物の大部分は小麦、雑穀で、経済作物としてはラッカセイサトウダイコンが多い。蘭州付近の果物も有名である。丘陵や山地では牧畜も盛んで、青海(せいかい/チンハイ)省に近い山地で飼育される河曲馬や欧拉(おうら)羊は名高い。しかし黄土地帯での水土保持、砂漠周辺の耕地の砂漠化防止など、これからの開発へ問題も多い。天然資源としては、古くから開発された玉門(ぎょくもん/ユイメン)油田のほか、鉄、石炭もあるが、有色金属や非金属資源にみるべきものが多い。また蘭州付近の黄河上流部には、劉家峡(りゅうかきょう/リウチヤシヤ)をはじめとして大型ダムが建設され、電力開発のみならず、下流の水害防止、農業灌漑にも利用される総合的ダムとなっている。蘭州にはこのような資源に基づいて石油化学工業基地が設けられ、西北地区で有数の工業都市となっているが、それ以外は玉門などに資源立地型の工業があるほかは全体に遅れている。交通も蘭州を中心に鉄道が発達し、とくに河西回廊は新疆(しんきょう/シンチヤン)と結ぶ大動脈であるが、南西部の山地との交通は進んでいない。

 この地域は春秋戦国時代には異民族の居住地であったが、漢代に河西地域の開発が進み、漢民族と北方異民族の接触地帯となった。甘粛の名も、河西に設けられた甘州(張掖(ちょうえき))と粛州(酒泉(しゅせん))からとられている。また省域の大部分が隴山(ろうざん/ロンシャン)の西にあるところから隴西、隴右ともよばれた。省内には西域との交渉にちなむ文化遺産が多く、敦煌(とんこう)、炳霊(へいれい)寺(永靖(えいせい))、嘉峪関などはとくに有名である。

[秋山元秀]

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