畏・恐(読み)かしこまる

精選版 日本国語大辞典 「畏・恐」の意味・読み・例文・類語

かしこま・る【畏・恐】

〘自ラ五(四)〙
① 相手の威厳に押されたり、自分に弱点があったりして、おそれ入る。おそれつつしむ。
書紀(720)推古三一年四月(岩崎本訓)「是以て諸の僧尼惶懼(カシコマリ)て所如(せむすべ)を知らず」
② 高貴な人が自分に対して示した行為を、もったいないと思う。恐縮する。また、礼を述べる。
※書紀(720)継体一〇年九月(前田本訓)「物部連に副へて来、己汶(こもん)の地賜ることを謝(カシコマリ)申す」
③ 申しわけなく思うようすをする。また、わびをいう。
源氏(1001‐14頃)初音「心まどはし給ひし世のむくいなどを、仏にかしこまり聞ゆるこそ苦しけれ」
目上の人の怒りを受けて謹慎する。
※能因本枕(10C終)七「めのとかてん、いとうしろめたしと仰らるれば、かしこまりて御前にも出でず」
⑤ つつしみを表わして、居ずまいを正したり、平伏したりする。
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「君のおり給ふ所に五位六位ひざまづきかしこまる」
日葡辞書(1603‐04)「Caxicomatte(カシコマッテ) イル〈訳〉地面に手をつくなどして、ある人の前に恐れ入っている」
⑥ つつしんで命令を受ける。つつしんで承諾するの気持を表わす。→かしこまって候かしこまりました
※源氏(1001‐14頃)浮舟「わが言はん事はたばかりてんやなどのたまふ。かしこまりてさぶらふ」
史記抄(1477)三「鄭に滑を伐つ事をやめよと請れたれは、かしこまりたとは云わいで、結句王の使を囚たぞ」
⑦ (助動詞「た」を伴って) 堅苦しくて、きゅうくつな感じがする。
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「学問などといふ正坐(カシコマッ)た事は虫が好かぬが」

かしこまり【畏・恐】

〘名〙 (動詞「かしこまる(畏)」の連用形の名詞化)
① 相手の威厳に押されたり、自分に弱点があったりして恐れつつしむこと。遠慮すること。
※宇津保(970‐999頃)内侍督「仲忠、なほ身の数ならず、よの心にもかなはねば、なほかしこまりをだにこそあれ」
※枕(10C終)三「けふは皆みだれてかしこまりなし」
② 高貴な人が自分に対して示した行為を、もったいないと思うこと。ありがたいこと。恐縮すべきこと。
※竹取(9C末‐10C初)「きたなげ成る所に年月を経て物し給ふ事、きはまりたるかしこまりと申す」
③ お礼のことば。謝辞
落窪(10C後)三「参り侍て、又々かしこまりも啓すべき」
④ おわびのことば。申しわけ。
※宇津保(970‐999頃)嵯峨院「久しくさぶらはぬかしこまり聞こえん、とてなんさぶらひつる」
⑤ 目上の人の怒りにふれて、謹慎すること。
※枕(10C終)九「さて、かしこまり許されて、もとのやうになりにき」
⑥ つつしんでことばをうかがうこと。うけたまわること。
※枕(10C終)八六「『いみじうめでたからんとこそ思ひたりしか』など仰せられたる、御返りに、かしこまりのよし申して」

かしこ・む【畏・恐】

〘自マ四〙
① 恐ろしいと思う。
古事記(712)下「其の大后の嫉(ねた)みを畏(かしこみ)て、本つ国に逃げ下りき」
② おそれ多いと思う。
※書紀(720)推古二〇年正月・歌謡「訶志胡瀰(カシコミ)て 仕へまつらむ 拝(をろが)みて 仕へまつらむ」
※続日本紀‐慶雲四年(707)七月一七日・宣命「遍(たび)(まね)く日重ねて譲り賜へば労(いとは)しみ威(かしこミ)
③ つつしみ深くする。
※竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生富士を観る「自分より数等価値が高くして自分より一倍不幸な境涯にゐた者に自分を比してかしこむ方が利口だ」
[補注]連用形「かしこみ」は、形容詞の語幹に「み」の付いたものと考えられる場合もある。→かしこみ

かしくま・る【畏・恐】

〘自ラ四〙 =かしこまる(畏)
※大唐三蔵玄奘法師表啓平安初期点(850頃)「玄奘誠に惶(をののき)誠に恐(カシクマリ)ぬ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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