異所性ホルモン産生腫瘍の総論

内科学 第10版 の解説

異所性ホルモン産生腫瘍の総論(異所性ホルモン産生腫瘍)

(1)異所性ホルモン産生腫瘍の総論
定義・概念
 異所性ホルモン産生腫瘍とは,その臓器では産生されないホルモンを産生,分泌する腫瘍を指す.しかし,高感度ホルモン測定法や遺伝子発現の研究により,本来,産生されている内分泌腺以外の多くの正常組織でも,ホルモンは微量に産生,分泌されていることが判明し,異所性と正所性のホルモン産生腫瘍は厳密に区別することが困難になってきている.そのため,腫瘍が生物活性のあるホルモンを過剰に産生し,それに基づく症状や生化学的検査値の異常がみられる場合,異所性ホルモン症候群(ectopic hormonal syndrome)という.異所性ホルモン症候群は腫瘍随伴症候群(paraneoplastic syndrome)の1つでもある.
分類
 おもな産生腫瘍,症状および検査所見をホルモン別に表12-11-1に示す.異所性ホルモン産生症候群で産生されるホルモンの大部分ペプチドである.LH,FSH,TSHのように糖鎖修飾を受け,2つのサブユニットからなる複雑な構造をもつ蛋白の異所性産生はまれである.非ペプチド性のホルモンとして,1,25-ジヒドロキシビタミンD3を産生するリンパ腫を除いて,ステロイド甲状腺ホルモンは,生合成に多くの酵素が必要であり,奇形腫の一部に産生が認められるのみである.
病因
 ペプチドホルモンを産生する異所性ホルモン症候群の一部は,胎生期神経外胚葉:神経堤(neural crest)に由来し,アミン前駆体(amine precursor)を取り込み(uptake),脱炭酸(decarboxylation)し,活性アミンにするという生化学的特徴をもつ.各頭文字をとりAPUD系細胞とよばれる.内胚葉器官にAPUD系細胞が移動し,腫瘍化(APUDoma)した小細胞肺癌,膵島癌や気管支カルチノイドなどが異所性ホルモン産生腫瘍に変異しやすいと考えられる.
 神経堤由来以外の腫瘍細胞におけるホルモン産生のメカニズムとして,腫瘍化の過程で脱分化や異分化をきたし,胎児蛋白質を産生することが考えられる.ホルモン遺伝子が発現されないか微量しか発現されない遺伝子上流のプロモーター領域は,エピジェネティックな変化としてシトシンがメチル化されていることがあり,遺伝子発現を抑制している.腫瘍化に伴い脱メチル化されると遺伝子発現が出現または亢進する.
病態生理
 正常の内分泌腺からのホルモン分泌に比べて,異所性腫瘍からのホルモン産生や分泌には大きな特徴がある.
1)ホルモン分泌の非抑制性:
腫瘍からの異所性ホルモン産生や分泌は抑制されにくい.
2)ホルモン産生の非効率性:
ホルモン産生効率が低いため,異所性ホルモン産生症候群は進行癌で発症することが多い.
3)成熟ホルモン産生能の不全:
腫瘍は生理活性のない前駆ホルモンや断片ホルモンを放出し,成熟ホルモン産生能が低下している(例:異所性ACTH産生腫瘍による大分子量ACTHの分泌).
4)関連ホルモンの産生:
ホルモン過剰症状が関連ホルモン(例:PTHrPによる高カルシウム血症やIGF-Ⅱによる低血糖)によることがある.
診断
 ホルモン過剰の症状や検査値異常を呈する患者で,画像検査で腫瘍が正所性に検出されない場合は,異所性ホルモン産生腫瘍を考慮する.確実なホルモン産生腫瘍の証明は以下のような手法をとる.①腫瘍組織中に免疫学的なホルモン産生やmRNAを確認する.②腫瘍を栄養する動脈静脈のホルモン濃度較差を確認する.③摘出した腫瘍組織からのホルモン分泌を証明する.④腫瘍摘出後,血中や尿中ホルモン値の低下と臨床徴候の改善を認める.
治療
 原因腫瘍に対する手術,放射線および化学療法による治療とホルモン過剰症に対する対症療法がある.[中里雅光]
■文献
Brownlee M, Aiello LP, et al: Complications of Diabetes Mellitus. In: Williams Textbook of Endocrinology, 12th ed (Melmed S, Polonsky KS, et al), pp1462-1551, Saunders, Philadelphia, 2011.
Gagel RF: Endocrine manifestations of tumors: ectopic hormone production. In: Cecil Textbook of Medicine, 23rd ed, pp1047-1050, WB Saunders, Philadelphia, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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