病膏肓に入る(読み)やまいこうこうにいる

精選版 日本国語大辞典 「病膏肓に入る」の意味・読み・例文・類語

やまい【病】 膏肓(こうこう)に入(い)

(「膏」は胸の下の方、「肓」は胸部腹部との間の薄い膜。ともに治療しにくいところとされる。中国春秋時代、晉の厲公が病気になり、秦から名医を呼んだところ、病気が二童子となって、名医が来るから肓の上と膏の下にかくれようと話している夢を見、医者が到着して診察すると、病根が肓の上と膏の下にはいってしまっているから治療できないと言ったという「春秋左伝‐成公一〇年」に見える故事による。→膏肓(こうこう)に入る)
不治の病気にかかる。また、病気が重くなって治る見込みがなくなる。
※本朝文粋(1060頃)四・入道大相国公重上表〈大江匡衡〉「病入膏肓、命在旦暮
② ある物事に極端に熱中して、手のつけられないほどになる。
泥人形(1911)〈正宗白鳥〉三「君なんか病膏肓に入ってるんだから駄目だね」
[補注]「肓」を「盲」と誤って「やまいこうもうにいる」と読み誤ることがある。

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デジタル大辞泉 「病膏肓に入る」の意味・読み・例文・類語

やまい膏肓こうこう・る

《「膏」も「肓」も、病気がそこに入ると、治療しにくい所。中国、春秋時代、晋の景公が病気になったとき、病気の精が二人子供となって膏と肓に逃げこんだので、病気が治らなかったという「春秋左伝」成公一〇年の故事による》
病気がひどくなり、治療しようもない状態となる。
物事に熱中して抜け出られないほどになる。「付き合いで始めたゴルフが今や―・ってしまった」
[補説]この句の場合、「入る」を「はいる」とは読まない。

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故事成語を知る辞典 「病膏肓に入る」の解説

病膏肓に入る

病気が重くなって、治る見込みがなくなること。転じて、あるものごとに極端に熱中して、手のつけられないほどになることのたとえ。

[使用例] 道楽はじめただ色をぎょする、膏肓に入ると、段々ぜいたくになって、唯色を漁するのでは面白くなくなる[二葉亭四迷*平凡|1907]

[使用例] 池内さんの、太郎に対するより、むしろ草田さん夫婦への憎みは、云ってみればやまい膏肓に入っている[榊山潤*街の物語|1934]

[由来] 「春秋左氏伝―成公一〇年」に見える話から。紀元前六世紀、春秋時代の中国でのこと。しんという国の君主、景公は、病気が重くなったので、隣国から医師を呼ぶことにしました。すると、景公の夢に、病気が二人の子どもになって出て来ました。一人が「名医から逃れるには、どこに隠れればいいかな」と言うと、もう一人は「こうの上、こうの下にらば、我を若何いかんせん(横隔膜の上、心臓の下に入れば、おれたちをどうにもできないよ)」と返事していました。その後の医師の診断は、「病気の原因が横隔膜の上と心臓の下に入ってしまっているから、治療できない」とのこと。景公は、「彼は名医だ」と言って、謝礼をたくさん与えて帰らせたのでした。

[解説] ❶夢のお告げと名医の診断がぴったり一致したという、不思議な話。原文ではこのあと、病床の景公は新麦を食べたくなって取り寄せますが、口を付ける前におなかが張ってかわやに行き、厠の中に落ちて死んでしまいます。死の直接の原因がグルメであったことから、「ものごとに極端に熱中する」という意味合いが生じたのかもしれません。❷「肓」を「盲」と誤って、「こうもうに入る」と言われることもあります。

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ことわざを知る辞典 「病膏肓に入る」の解説

病膏肓に入る

不治の病気にかかる。また、病気が重くなって治る見込みがなくなる。また、ある物事に極端に熱中して、手のつけられないほどになること。

[使用例] 池内さんの、太郎に対するより、むしろ草田さん夫婦への憎しみは、言ってみれば病膏肓に入っている[榊山潤*街の物語|1934]

[解説] 中国春秋時代、晋の景公が病気になり、秦から名医を呼んだところ、病気が二童子となって、名医が来るから肓の上と膏の下にかくれようと話している夢を見た。その後医者が到着して診察すると、病根が肓の上と膏の下にはいってしまっているから治療できないといったので、公は名医として医者を厚くもてなしたという「春秋左伝―成公一〇年」に見える故事によることば。「膏」は、胸の下のほう、「肓」は、胸部と腹部との間の薄い膜。ともに治療しにくいところとされます。また、「肓」を「盲」と誤って「こうもうに入る」とも言われます。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「病膏肓に入る」の意味・わかりやすい解説

病膏肓に入る
やまいこうこうにいる

「膏」は心臓の下、「肓」は横隔膜の上をいい、俗に「こうもう」と読む。ともに内臓の奥深く位置し、針も灸(きゅう)もその力が及ばないところから、病気が不治の状態になることをいい、転じて悪癖や弊害などが手のつけられないほどになることをいう。

 中国、晋(しん)の景侯が重病にかかり、秦(しん)の国から名医を招いたが、その医者が到着する前に、侯の夢に病魔が二人の童子の姿で現れ、「彼は良医だから、痛めつけられるだろう。どこに逃げたらよいだろう」といい、「肓の上、膏の下にいたならば、なにもできないだろう」と話すのを聞いた。やがてやってきた医者は「これでは処置なし」と診断した、と伝える『春秋左氏伝』「成公十年」の故事による。

[田所義行]

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