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着床前診断 ちゃくしょうぜんしんだん Preimplantation Genetic Diagnosis (PGD)

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知恵蔵2015の解説

着床前診断

受精卵診断」のページをご覧ください。

着床前診断

生まれてくる子供に重い遺伝病や染色体異常があるかどうかを調べるため、体外受精をして、染色体あるいは遺伝子の検査を行うこと。受精卵診断。体外受精させた胚を4〜8細胞期まで発育させ、1〜2個の割球を採取する胚生検を行い、染色体や遺伝子の異常の有無を検出する。出生前診断が、妊娠してから、つまり胎児の段階で遺伝病の有無を検査するのに対し、より前段階の妊娠成立前に体外受精技術を使って検査する点が大きく異なる。体外受精の一環として実施でき、人工妊娠中絶の負担がない。日本産科婦人科学会は1998年6月、原則として重篤な遺伝性疾患の遺伝子診断に対してのみ条件付きPGDを認めることを決め、2006年8月現在までにデュシェンヌ筋ジストロフィーの数例及び筋強直性ジストロフィーの1例が申請され、承認された。なお、現在学会は両親のどちらかが相互転座型の染色体異常を持つ習慣性流産症例にPGDを容認するか審議中である。PGDに対しては、「障害の有無による命の選別だ」という生命倫理上の批判や、親が望む性質を備えたデザイナーベビーにつながるという懸念なども出ている。

(安達知子 愛育病院産婦人科部長 / 2007年)

出典|(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵2015」
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デジタル大辞泉の解説

ちゃくしょうぜん‐しんだん〔チヤクシヤウゼン‐〕【着床前診断】

卵子体外受精した受精卵を検査し、遺伝子染色体の異常などを調べること。受精卵診断。
[補説]胎児の細胞を検査する出生前診断と違い、妊娠前に診断できるが、生命の選別が行われるとして倫理的に問題視されている。日本産科婦人科学会では、成人までに発病して生命に関わる重い遺伝病に限り、実施の可否を個別に審査している。

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百科事典マイペディアの解説

着床前診断【ちゃくしょうまえしんだん】

生まれてくる子どもの遺伝病の有無を調べるために,体外受精卵の段階で遺伝子を検査すること。受精卵診断ともいう。1989年に英国のハマースミス病院で初めて成功した。
→関連項目ダウン症候群

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

着床前診断
ちゃくしょうまえしんだん

受精卵遺伝子診断とも呼ばれる。体外受精で得られた受精卵の遺伝子を検査して,着床前に遺伝病の有無を調べること。胎児の段階で調べる出生前診断よりさらに前の妊娠成立前段階で行われる。受精卵が4細胞,8細胞と分裂する時期に細胞 (割球) の1つを取出してその DNAを診断し,遺伝病のおそれがないと診断されれば母体に戻して着床させる。

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出典|ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典
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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

着床前診断
ちゃくしょうぜんしんだん
preimplantation genetic diagnosis

子宮に移植する胚(はい)、あるいは体外受精により胚の作成に適した卵子を選択する目的で、受精卵または卵子の遺伝子や染色体に遺伝学的異常がないかを検査・診断すること。略称PGD。着床前スクリーニング(preimplantation genetic screening:PGS)との区別から、狭義には、遺伝性疾患を有するカップルに対して行われる、当該疾患に関係する遺伝子や染色体の異常の有無に関する検査・診断をさす。[神里彩子]

方法

体外受精で作成した受精卵が4~8細胞に分割した時点(受精後2~3日目)で1~2個の胚細胞(割球)を採取し、これを用いて検査・診断する(割球診断法)。なお、卵母細胞が減数分裂する際に囲卵腔(いらんくう)に放出される極体(第1極体または/および第2極体)を用いる方法(極体診断法)もあり、また診断精度を上げるために受精後5日の胚盤胞の栄養外胚葉から採取した10個程度の胚細胞を用いた検査・診断も行われている(胚盤胞診断法)。
 これらを用いた遺伝子異常の診断には、nested PCR(polymerase chain reaction)法(ポリメラーゼ連鎖反応法)が一般に用いられている。これは細胞から抽出した微量なDNAを用いて診断するために、必要な遺伝子を増幅するPCRを2回行う方法である。
 また、染色体異常に対しては、従来、間期細胞に対するFISH(fluorescence in situ hybridization)法が用いられてきた。FISH法は、特定の染色体の部位のDNA配列にだけ結合する蛍光色素標識をつけたDNA断片を用いて、蛍光顕微鏡で染色体の異常を識別する方法である。しかし、aCGH法(array comparative genomic hybridization、アレイCGH法とも)による全染色体の構造異常を含めた網羅的解析法へ移行しつつある。aCGH法は、細胞から抽出したDNAと比較対照とする正常なDNAをそれぞれ異なる蛍光色素で標識し、DNAアレイ上に固定化されたDNA断片に対してハイブリダイズhybridize(交雑)を行い、蛍光強度を比較することで全染色体について網羅的に解析する方法である。[神里彩子]

沿革

1970年代末に人の体外受精が世界で初めて成功した。これにより、受精卵を母体の外で存在させることが可能となり、人の受精卵を対象とする発生学研究も進展した。また、1980年代には遺伝子解析技術の進歩とともに疾患原因遺伝子の解明も進んだ。これら生命科学の進展を基盤として、着床前診断法が1990年に誕生する。世界で最初の成功例は、伴性劣性遺伝性疾患(男児の発症率50%)の児をもつ可能性のあるカップルに対する、発症率の低い女児の受精卵を選別する着床前診断であった。その2年後には、単一遺伝性疾患(嚢胞(のうほう)性線維)の着床前診断成功例が報告された。このように、着床前診断は、遺伝性疾患の罹患(りかん)または保因カップルが、遺伝性疾患に罹患した児をもつことを回避するための一手段として登場したのである。
 しかしながら、疾患原因遺伝子の解明、また、遺伝子や染色体の診断技術が進展するにつれ、診断可能な遺伝性疾患の範囲のみならず、着床前診断の利用目的も拡大した。現在は、主として、次の五つの目的での着床前診断が技術的には可能である。すなわち、(1)遺伝性疾患または遺伝性ではない疾患に罹患した児の出生を回避する目的、(2)遺伝学的理由による死産や流産の回避目的、(3)白血病等に罹患した児に骨髄または臍帯(さいたい)血を提供できる、換言すればその児とHLA(human leukocyte antigen、白血球表面抗原)が合致する受精卵を選別する目的、(4)ファミリーバランスをとることなど非医学的理由でいずれかの性別の受精卵を選び出す目的、(5)染色体の数的異常に対するスクリーニング検査の目的、である。(5)については、着床前スクリーニング(PGS)ともよばれている。[神里彩子]

倫理的問題

着床前診断は胎児診断と異なり、女性の心身への負担の大きい人工妊娠中絶によることなく、疾患に罹患した児等の出産を回避できる、という点でメリットがある。しかし、他方で、「適切でない」と判断された受精卵や卵子は廃棄されるため、「着床前診断の対象とされた疾患の罹患者やその家族に対する差別の助長」「生きるに値する/しないという生命の選別」「優生思想」につながりかねないという危惧(きぐ)もある。また、そもそも、診断目的で受精卵を体外で多く作り出すことや、「適切でない」受精卵の廃棄を前提に受精卵を多く作り出すことは倫理的に許されるのか、という問題もある。[神里彩子]

諸外国における規制状況

前述のような倫理的問題により、着床前診断について公的な規制を設けている国は多い。
 オーストリア、スイスでは、受精卵の尊厳性を理由として、その廃棄を前提とする着床前診断を法律で禁止している。一方、イギリスやフランスでは法的規制のもとで実施が許容されている。すなわち、イギリスでは、重篤な遺伝性疾患に罹患した児の出生を回避する目的、染色体の数的異常による非遺伝性疾患に罹患した児の出生を回避する目的、妊娠率・出産率を上げる目的、レシピエントとHLAが合致する受精卵を選別する目的、での着床前診断の実施が認められている。フランスでは、不治の重篤な遺伝性疾患に罹患した児の出生を回避する目的、そして、レシピエントとHLAが合致する受精卵を選別する目的、での着床前診断の実施が認められている。また、ドイツでは着床前診断は禁止されていたが、2011年の法改正により、重篤な遺伝性疾患に罹患した児の出生を回避する目的、遺伝学的理由による死産や流産の回避目的での診断を認めた。もっとも、いずれの国においても、生殖補助技術を管轄する国家機関の認可を得た施設以外での実施は許されない。アメリカには着床前診断を直接的に規制する連邦法および州法はないため、幅広い目的で着床前診断が利用されている。[神里彩子]

今後の課題

日本には着床前診断に関する公的規制はなく、日本産科婦人科学会の会告『「着床前診断」に関する見解』が事実上唯一の規制となっている(1998年制定、2006年改定、2010年改定)。同会告では、着床前診断を臨床研究と位置づけたうえで、「重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある、遺伝子変異ならびに染色体異常を保因する場合」および「均衡型染色体構造異常に起因すると考えられる習慣流産(反復流産を含む)」の場合に限って着床前診断の実施を認め、その実施にあたっては、当該医療機関における倫理審査委員会の承認を得たうえで、同学会に申請し、前記条件に該当するか学会による個別の審査を受けなければならないとしている。2004年(平成16)7月に初めてデュシェンヌ型筋ジストロフィーについての申請例が承認されて以降、筋強直性ジストロフィー、副腎(じん)白質ジストロフィー、ミトコンドリア遺伝子変異によるリー脳症、オルニチン・トランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症、ピルビン酸脱水素酵素欠損症、福山(ふくやま)型先天性筋ジストロフィー、そして習慣流産(習慣性流産)の均衡型転座保因者についての申請例も承認された。もっとも、同学会の会員でない医師に前記会告の遵守義務はなく、現に会員でない医師によって着床前診断が相当数実施されている。
 着床前診断の利用可能な範囲・目的は拡大しており、それは今後も続くであろう。前述の倫理的懸念事項に配慮しながら、着床前診断をどこまで許容するかについて社会として判断していくことが必要である。[神里彩子]
『末岡浩「着床前診断のいま」(『医学のあゆみ Vol.246 No.2』所収・2013・医歯薬出版)』

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