知る者は言わず、言う者は知らず(読み)しるものはいわず、いうものはしらず

故事成語を知る辞典 の解説

知る者は言わず、言う者は知らず

ものごとを深く知っている人は、みだりにそれを口に出したりはしないし、逆にやたらと話したがる人は、実はよく知らないものだ、ということ。

[使用例] 先哲いわく、知る者は言わず、言う者は知らずと。すうを言う者は数を知らずして、数を言わざる者はあるいく数を知らん[幸田露伴運命|1925]

[使用例] 「知る者は言わず、言う者は知らず」という皮肉をおたがいに別なところで無関心に経験し合っているの奇観を、おたがいに知らない[中里介山大菩薩峠|1913~41]

[由来] 「老子―五六」のことば。「知る者は言わず、言う者は知らず(本当に知恵のある人はそれを口にはしない、口にする人は、本当は知恵がない)」は、その冒頭。そのあと、本当に知恵がある人の生き方として、目や耳、鼻や舌などの感覚に訴えてくるものを相手にせず、欲望が刺激されないようにすること、自己主張するのをやめて、争いごとを引き起こさないようにすること、目立ったことをしないで、まわりの人と同化して暮らすことを挙げています。

[解説] ❶このことばの背後には、禅にも通じる、本当の知恵とはことばでは表現できないものだ、という「老子」の思想があります。「おしゃべり」を戒めたことばは「老子」には多く、ほかにも「信言は美ならず、美言は信ならず多言なればしばしば窮す不言の教えなどが、故事成語として知られています。❷一方、むやみに知恵を発揮することを嫌うのも、「老子」の重要な主張の一つ。このことばも、単なる「おしゃべり」に対する戒めではなく、「こざかしい振る舞い」全般を戒めたものとして、心にとめておくべきでしょう。

出典 故事成語を知る辞典故事成語を知る辞典について 情報

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