砕・摧(読み)くだく

精選版 日本国語大辞典 「砕・摧」の意味・読み・例文・類語

くだ・く【砕・摧】

[1] 〘他カ五(四)〙
① 物に衝撃的な力を加えてこなごなにする。破壊する。
※霊異記(810‐824)上「流頭の粟の粒を粉(クダキ)て糠を啖(は)むよりも甚だし〈興福寺本訓釈 粉 久大支〉」
たけくらべ(1895‐96)〈樋口一葉〉六「流石に錠前くだくもあらざりき」
勢力を弱らせる。勢力をうち破る。ひしぐ。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)六「豈に復兵戈をもちて相ひ罸(クタク)こと有ることは得むや」
※正法眼蔵(1231‐53)袈裟功徳「そのとき、邪をくだき正をたてずば」
③ (「心をくだく」の形で) あれこれと心をなやます。心を痛める。
万葉(8C後)一〇・二三〇八「雨ふれば激(たき)つ山川岩に触れ君が摧(くだか)む情(こころ)は持たじ」
源氏(1001‐14頃)須磨「人しれぬ心をくだき給ふ人ぞおほかりける」
④ (「身をくだく」などの形で) ある限りの力を尽くす。力をふるう。
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「身をくだきて、山林にまじり給ふ人なん、うらやましくおぼゆる」
⑤ こまかく分ける。細別する。細分する。
※虎明本狂言・鼻取相撲(室町末‐近世初)「惣じてすまふの手は、四十八手とはいへ共、くだけば百手にも三百手にもとる」
金銭をこまかくする。小銭にかえる。くずす。
※浮世草子・新可笑記(1688)五「路銀のうち十両当分入用につかひ給へと渡せば〈略〉人疑へば是をくだきてつかふべき才覚なし」
⑦ 事実をありのままにうちあける。事情を話す。
歌舞伎・𢅻雑石尊贐(1823)序幕「『コレ、砕けば斯うサ』と囁く」
⑧ 内容を分解してわかりやすくする。かみくだく。
史記抄(1477)一七「坡詩をくわしく砕て観る事は」
※善心悪心(1916)〈里見弴〉「『人格的意識』、もっと砕(クダ)いて云ふなら『自然な心』『素な心』」
⑨ うちとけた態度、親しみやすい雰囲気(ふんいき)にする。
江戸から東京へ(1921)〈矢田挿雲〉三「能の狂言を砕(クダ)いて役者舞子とで今で云へば男女優合同劇と云った者を始めた」
[2] 〘自カ下二〙 ⇒くだける(砕)

くだ・ける【砕・摧】

〘自カ下一〙 くだ・く 〘自カ下二〙
① 物に力が加わって小さくこわれる。割れてこなごなになる。
※霊異記(810‐824)下「空より落ちて死ぬ。彼(そ)の身摧(クダケ)損ふこと、笇(さん)の嚢に入れるが如し〈真福寺本訓釈 摧 クタケ〉」
※金槐集(1213)雑「おほうみのいそもとどろによするなみわれてくたけてさけてちるかも」
② 勢力がなくなる。勢力が弱まる。
※新訳華厳経音義私記(794)「摧殄 音最 訓久太久、下徒典反、病也、尽也、滅也」
※石山寺本法華経玄賛平安中期点(950頃)六「身命を摧き残ひ、盛壮なるを衰へ折(クタケ)しむるぞ」
③ あれこれ思い悩む。さまざまに思いみだれる。気がよわる。心がよわる。
※万葉(8C後)四・七二〇「むらきもの情(こころ)(くだけ)てかくばかり我(あ)が恋ふらくを知らずかあるらむ」
※伊勢集(11C後)「風吹ばいはうつなみのおのれのみくだけてものをおもふころかな」
④ 形や姿がきちんと整わなくなる。しまりがなくなる。散漫になる。
無名抄(1211頃)「まれまれ得たれども昔をへつらへる心ことなれば、いやしくくだけたる様なり」
落書露顕(1413頃)「歌姿のあまりにくだけて侍る故か」
⑤ うちとけた態度、雰囲気(ふんいき)になる。うちとける。親しみやすくなる。
※歌舞伎・幼稚子敵討(1753)六「是は改った儀でござる。それなれば又くだけてはいられませぬ」
湯葉(1960)〈芝木好子〉「そのあと座はくだけて」
⑥ 事情が説明される。
※歌舞伎・𢅻雑石尊贐(1823)序幕「して、この始末はどう砕ける」
⑦ 話などがわかりやすくなる。よくわかるようになる。
※明暗(1916)〈夏目漱石〉一一一「この心理状態をもっと砕(クダ)けた言葉で云ひ直すと」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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