硝酸水銀(読み)しょうさんすいぎん(英語表記)mercury nitrate

改訂新版 世界大百科事典 「硝酸水銀」の意味・わかりやすい解説

硝酸水銀 (しょうさんすいぎん)
mercury nitrate

酸化数ⅠおよびⅡの化合物が知られている。

化学式Hg2(NO32。金属水銀にあまり濃くない不足量の硝酸を数日間作用させると,無色,柱状のHg2(NO32・2H2Oが得られる。単斜晶系。風解性がある。比重4.78。結晶中ではH2O-Hg-Hg-OH2の直線構造をなし,水銀の二量体になっている。原子間距離Hg-Hg2.54Å。水溶液中でもこの二量体構造は保たれる。加熱すると70℃で爆発的に分解する。水に対する溶解度30g/100g(25℃),水溶液加水分解して酸性となる。空気酸化を防ぐためには金属水銀を加えておく。

化学式Hg(NO32酸化水銀を硝酸に溶かしてつくる。結晶水は0.5と1のものがあるが,ふつうの形は0.5水和物である。融点79℃(一部分解),比重4.3。脱水しようとすると塩基性塩に変化する。無水和物を得るにはHgOにN2O4を作用させる。白色潮解性固体。水溶液中で加水分解を起こしやすく,[Hg(OH)]⁺,[Hg2(OH)]3⁺などを生成する。放置すると塩基性塩Hg3O2(NO32・2H2Oを沈殿する。これを煮沸するとHgOになる。

 硝酸水銀(Ⅰ),(Ⅱ)とも有毒で,密栓,遮光して保存する。
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化学辞典 第2版 「硝酸水銀」の解説

硝酸水銀
ショウサンスイギン
mercury nitrate

】硝酸水銀(Ⅰ):Hg2(NO3)2(525.19).過剰の水銀を冷希硝酸に溶かすと得られる.水溶液からは二水和物(単斜晶系)を晶出する.密度4.8 g cm-3.水に易溶.水溶液は加水分解して淡黄色のHg(NO3)OHを析出する.空気による酸化を防ぐには水銀と共存させる.分析試薬,タンパク質の分析に用いる.有毒.[CAS 7782-86-7:HgNO3・H2O][CAS 14836-60-3:Hg2(NO3)2・2H2O]【】硝酸水銀(Ⅱ):Hg(NO3)2(324.60).水銀に過剰の熱硝酸を反応させて,溶液を濃縮すると0.5水和物が得られる.融点79 ℃.密度4.3 g cm-3.潮解性で,水で十分に希釈すると完全に酸化水銀と水銀に分解する.水溶液での保存は硝酸酸性とする必要がある.医薬品,有機化合物のニトロ化,酸化剤,フェルト製造に用いられる.有毒.[CAS 10045-94-0:Hg(NO3)2][CAS 7783-34-8:Hg(NO3)2・H2O][CAS 10045-94-0:Hg(NO3)2nH2O]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「硝酸水銀」の意味・わかりやすい解説

硝酸水銀
しょうさんすいぎん
mercury nitrate

水銀の硝酸塩。一価および二価水銀の化合物が知られている。

(1)硝酸水銀(Ⅰ) 冷希硝酸に水銀を過剰に溶かし、濃縮すると得られる無色の結晶。強く熱すると爆発する。水によく溶けるが、熱水では分解する。加水分解しやすく、水溶液は酸性。有毒。冷暗所に貯蔵。タンパク分析に用いられる。

(2)硝酸水銀(Ⅱ) 水銀に過剰の濃硝酸を加えて熱し、蒸発させると一(半)水和物が得られる。無色潮解性結晶。水によく溶け、熱水では分解する。アンモニア水アセトンに溶け、エタノールエチルアルコール)に不溶。有毒。冷暗所に密栓して貯蔵。触媒、酸化剤としての用途がある。

[中原勝儼]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「硝酸水銀」の意味・わかりやすい解説

硝酸水銀
しょうさんすいぎん
mercury nitrate

(1) 硝酸水銀 (I) ,硝酸第一水銀  Hg2(NO3)2 。冷希硝酸に水銀過剰量を溶かした溶液を濃縮すると,2水和物結晶として析出する。融点 70℃ (一部分解) 。この結晶に光を当てるか,その水溶液を煮沸すると Hg(NO3)2 と Hg に変る。 (2) 硝酸水銀 (II) ,硝酸第二水銀  Hg(NO3)2 。水銀に過剰の濃硝酸を加えて熱し,得られる水溶液を蒸発すれば,無色の1水和物結晶が生成する。潮解性。融点 79℃。多量の水に溶解したり,加熱すると加水分解し,不溶性の塩基性塩を生じる。希酸に可溶。密栓,暗所に保存することが必要。有毒。雷酸水銀 (雷汞) の製造,殺虫剤に用いられる。

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