社会(生物学)(読み)しゃかい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会(生物学)」の意味・わかりやすい解説

社会(生物学)
しゃかい

生物学では同種生物個体およびその相互関係のすべてを含んだまとまりのことをいう。その空間的な広がりについては、個体どうしが相互に関係しあう特定の場所についていうこともあるし、種の分布域のすべてをさすこともある。後者の場合には、とくに種社会(スペシアspecia)といわれることもある。いかなる生物の個体も、同種の他個体と特有の関係をなして生活することから、すべての生物種に認めることが普通である。ただし動物では種によって個体の組織される程度が違うことから、とくに個体間の誘引に基づく集団や、個体どうしが互いに協力しあう集団だけを社会的集団とみなす考え方もある。また、すべての生物は他種生物とかかわり合って生活していることから、他種生物をも含めて「生物社会」という用語を使うこともある。とくに植物社会学では、すべての植物は互いに限られた資源を分け合ったり競争したりして共存していると考え、ある環境下で相互に関連しあって存続する生物集団を「生物社会」もしくは「生物共同体」として規定している。

 社会には、それぞれ独自の空間構造と季節周期がある。動物でみられる縄張りテリトリー)や群れ、植物でみられる群落などは、古くから知られた空間構造の例である。また、社会のあり方は、季節の違いによって一定の変化のパターンを示すことが普通であり、とくに繁殖期には集団の構成や相互関係に大きな変化がみられる場合がある。個体間の関係には、光、養分、空間や食物などを取り合う形のもの、愛撫(あいぶ)したり攻撃したりするような行動を介したもの、さらにはサル順位の高い個体に心理的圧迫を感じるような心理的なものなどがある。社会を構成する個体は、互いに協力したり共同生活することもある反面、よく似た生活要求をもつことから敵対したり競争することも多い。社会は、ときに個体や集団の対立や環境の変動によって大きく変化したり崩壊することもあるが、普通は安定的である。

[片野 修]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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