空・虚(読み)うつけ

  • うつせ
  • うつ・く
  • うつ・ける
  • から
  • そら
  • むな
  • むなし
  • むなし・い

精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 (動詞「うつける(空)」の連用形の名詞化)
① 中がからっぽなこと。から。〔文明本節用集(室町中)〕
※談義本・当世下手談義(1752)四「跡かたなきそら事を信じて、こころ空虚(ウツケ)となり」
② ぼんやりしていること。また、そのような者。まぬけ。おろか者。
※玉塵抄(1563)八「学者にりこんにこざかしうみえて大うつけのあはうなことあると云心ぞ」
※咄本・醒睡笑(1628)七「うつけには薬がないと笑ひし時」
〘自カ下一〙 うつ・く 〘自カ下二〙 (「うつ(空)」を活用させた語)
① 中がからになる。また、内容が空疎になる。
※書紀(720)神功摂政前(北野本訓)「今(いま)御孫尊(みまごのみこと)の望(をせ)る国は譬(たとへ)ば鹿角(しかのつの)の如く無実(ウツケタル)国なり」
② 気分、体力などが衰える。
※南海寄帰内法伝平安後期点(1050頃)二「衣は纔かに体(み)を蔽(かく)すばかり、食は但だ懸(ウツケ)たるを支ふばかり」
③ 心が身体からぬけてしまったような状態になる。ぼんやりする。また、まがぬける。ばかげる。
※書紀(720)顕宗二年九月(図書寮本訓)「気力(いきちから)(おとろ)へ邁(すぎ)て老い耄(ほれ)(ウツケ)(つか)れたり」
※天理本狂言・骨皮(室町末‐近世初)「やれやれうつけた事を云人じゃ」
〘名〙
① 「うつせがい(空貝)①」の略。
※源氏(1001‐14頃)蜻蛉「からをだに尋ねず、あさましくてもやみぬるかな。いかなる様にて、いづれの底のうつせにまじりけむ」
② 空虚。から。
※浄瑠璃・聖徳太子絵伝記(1717)三「手を通さねば便なき袖はうつせのうちかけ姿」
[1] 〘名〙 (「から(殻)」と同語源)
① 内部に本来ならあるべき物が、ないこと。中が充実していないこと。うつろ。
※当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉一「空虚(カラ)になった菰被樽(こもかぶり)
② 何も携帯していないこと。てぶら。
③ 乗り物などで、客を乗せていないこと。空車。
※俳諧・飛梅千句(1679)賦何公誹諧「めして御され五条あたりの月〈友雪〉 とうしてからてかへる雁金〈満平〉」
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉二「もう一両の立になったから軽車(カラ)でけへらうとすると」
[2] 〘接頭〙 (名詞に付いて)
① 何も持っていないこと、また、他のものを伴わないことの意を表わす。「から手」「から脛(すね)
② 実質的なものの伴わないこと、また、伴うはずのものが伴わないことの意を表わす。「から元気」「から威張り」「から世辞」「から手水(ちょうず)」「から荼毘(だび)」など。
[1] 〘名〙
[一] 空間・場所・位置などの上の方をいう。
① 地上の上方で、神の世界と想像した天より下の空間。虚空。中天。転じて、地上の上方に広がる空間全体をさしていう。古くは、「あめ(天)」が天上の神々の生活する世界を想定しているのに対して、より現実的な空間をいうと考えられる。
※古事記(712)中・歌謡「浅小竹原(あさじのはら) 腰泥(なづ)む 蘇良(ソラ)は行かず 足よ行くな」
② ①の様子。天候や、時に寒暖などの気候をあらわすものとして用いる。空模様。時節。→そらの色そらの乱れ
※後撰(951‐953頃)秋下・四二三「おほかたの秋のそらだにわびしきに物思ひそふる君にもある哉〈右近〉」
③ ある物の上部、高い所をさしていう。
(イ) 屋根・天井・梢(こずえ)などの高い所をいう。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「屋(や)のそらところどころ朽(く)ちあきたりしかう、月の光にしらてゐ給へりしほどを見つけ給へりしこと」
(ロ) 物の表面。
※正倉院文書‐天平一二年(740)越前国江沼郡山背郷計帳「母江沼臣族西田女年伍拾捌 正女 右手蘇良灸」
(ハ) 上手(かみて)。上座(かみざ・じょうざ)
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)二「そしてがいに、あとへさがりやることよ。もっとそらへつん出なさろ」
(ニ) (「くびより空」の形で) 首から上だけで真心がこもっていないこと。
※説経節・さんせう太夫(与七郎正本)(1640頃)中「御身がなみだのこぼれやうは〈略〉、くびよりそらの、よろこびなきとみてあるぞ」
④ 方角。場所。また、境遇。心境。本拠たるべき地を離れて、異なる境遇に身を置いていることを示すとともに、その境遇や心境などが不安定で、心配・悲しみ・憂いに満ちたさまであることをも含める。→そらがない
※竹取(9C末‐10C初)「旅のそらに助け給ふべき人もなき所に」
⑤ (④から転じて) 物事の途中。中途。
※梁塵秘抄(1179頃)二「思ひは陸奥に、恋は駿河に通ふ也、見初(そ)めざりせばなかなかに、そらに忘れて已(や)みなまし」
[二] 比喩的に、精神状態などについて用いる。
① (形動) 心が空虚であること。また、そのさま。魂が抜けたようで、しっかりした意識のないこと。また、そのさま。うつろ。うわのそら。
※万葉(8C後)一一・二五四一「たもとほり往箕(ゆきみ)の里に妹を置きて心空(そら)なり土は踏めども」
※枕(10C終)二三「目はそらにて、ただおはしますをのみ見たてまつれば」
② (形動) 明確な基準・根拠・原因・理由などがないことをあらわす。多く、助詞「に」を伴って、副詞的に用いる。
(イ) はっきりした原因や意図のないこと。また、そのさま。偶然。自然。
※今昔(1120頃か)一「此を聞て貴しと思ひ成て礼拝し奉る時に、頭(かしら)の髪空に落て羅漢と成ぬ」
(ロ) これという理由のないこと。また、そのさま。
※山家集(12C後)上「そらにいでて何処(いづく)ともなく尋ぬれば雲とは花の見ゆる成けり」
(ハ) 根拠が不確実であること。また、そのさま。
※海道記(1223頃)蒲原より木瀬川「富士の山を見れば、都にて空に聞きししるしに、半天にかかりて群山に越えたり」
(ニ) 足もとがおぼつかないこと。また、そのさま。
※落窪(10C後)二「足をそらにてまどひ倒れて」
(ホ) 特に、「知る」などを修飾して、とりたてて意図したり教えられたりせず、自然に推量して知ることをいう。→そらに知る
※白氏文集天永四年点(1113)三「闇(ソラ)に君が心を測り、閑かに独り語る」
(ヘ) 助詞「に」(後には「で」)を伴い、「読む」「覚える」などの語を修飾して、文字を見ることなく記憶に頼るだけであることをいう。
※観智院本三宝絵(984)中「七歳よりさきに法華経八巻花厳経八十巻をみなそらによむ」
③ うそ。いつわり。→そらを使うそら吐(つ)く
※人さまざま(1921)〈正宗白鳥〉「『お前だっておらと盃事した時にゃ俯向いとったでねえか』『空(ソラ)云ふでねえよ』」
④ 心。気持。下に否定の表現を伴って、その行為に伴う不安な心境やうつろな心を表わす。または、その行為や方角・場所などにむかう漠然とした意志などをさす。
※万葉(8C後)一七・三九六九「悲しけく ここに思ひ出 いらなけく そこに思ひ出 嘆く蘇良(ソラ) 安けなくに 思ふ蘇良(ソラ) 苦しきものを あしひきの 山き隔(へな)りて」
※平家(13C前)三「御あり様を見をき奉るに、行べき空も覚えず」
[2] 〘語素〙 主として名詞、その他の語の上に付いて、実体のないことである意などを示す。
① 実体のないもの、間違ったことなどの意を表わす。「そらね(空音)」「そらめ(空目)」「そらみみ(空耳)」など。
② 本心はそうでなく、うわべだけであることを表わす。「そらごと(空言)」「そらなさけ(空情)」「そらね(空寝)」「そらなき(空泣)」など。
③ かいがない、無駄であるの意を表わす。「そらだのめ(空頼)」など。
④ いいかげんである、でたらめであることを表わす。「そらうた(空歌)」「そらのみこみ(空飲込)」など。
⑤ 自然に、の意を表わす。「そらおぼえ(空覚)」「そらどけ(空解)」など。
⑥ 名詞、または動詞の上に付いて、わざと、承知の上で、の意を表わす。「そらとぼけ(空惚)」「そらとぼける(空惚)」など。
[3] 〘接頭〙
① 動詞の上に付いて、むやみに、やたらに、の意を表わす。「そらからくる(空絡繰)」「そらうそぶく(空嘯)」「そらっぷく(空吹)」など。
② 形容詞の上に付いて、はっきりした結果、または事情は不明であるが、その気持のはなはだしいことを表わす。「そらおそろしい(空恐)」「そらはずかし(空恥)」など。
[語誌](1)((一)(二)について) 形容動詞的用法は、中古和文では、特に、男性から女性への恋愛情緒を表わす場面に多く見られ「心そらなり」の形で使われている。あることに心がとらわれ、目の前のことに気持が向かないことを意味し、現代語の「うわのそら」に類似する。
(2)((二)(三)について) 「そら」は、広い空間であり、実体として把握しづらいものであるところから、「実」に対する「虚」の意味になり、質を伴わない、表向きだけである等の意となる。(三)②の用法も、そこから生じたと考えられる。
〘語素〙 内容のないさま、からっぽであるさま、むなしいさまを表わす。「むなしい」の形で用いられるほか、名詞と熟して用いられる。「むな手」「むなごと」「むな車」「むなばせ」など。
〘形口〙 むなし 〘形シク〙
① 中に物がない。そこにあるべきものがない。空虚である。内容がない。→空しくする
※続日本紀‐天平宝字四年(760)正月四日・宣命「乾政官の大臣には敢て仕へ奉るべき人無き時は、空(むなしク)置きてある官にあり」
② 事実無根である。根拠がない。
※源氏(1001‐14頃)乙女「むなしき事にて、人の御名やけがれん」
③ 頼るに足る確かなものではない。かりそめである。はかない。
※万葉(8C後)五・七九三「世の中は牟奈之伎(ムナシキ)ものと知る時しいよよますます悲しかりけり」
④ いたずらに経過する。ある行為や事柄の効果が現われない。かいがない。
※万葉(8C後)一九・四一六四「大夫(ますらを)や 无奈之久(ムナシク)あるべき」
⑤ 死んで魂がなくなっている。命がない。→空しくする空しくなる
※源氏(1001‐14頃)桐壺「むなしき御骸(から)を見る見る、猶おはする物と思ふがいとかひなければ」
むなし‐さ
〘名〙
〘自カ下二〙 ⇒うつける(空)
〘形シク〙 ⇒むなしい(空)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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