空売り・空買い(読み)からうりからがい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「空売り・空買い」の意味・わかりやすい解説

空売り・空買い
からうりからがい

株式などの現物をもたないで、あるいはもっていてもそれを使わないで、他から株券を借りて、それを売り付けることを空売り(関西ではハタ売り)という。これとは逆に、資金を十分もたないで、一定の担保を提供して融資を受け、株式を買うことを空買いという。ともに株価変動により生ずる差金獲得を目的とした投機的なものであるが、空売りには手持ち株式の株価下落による損失を防ぐためのつなぎ売り(保険つなぎ)の場合もある。第二次世界大戦前は、空売り・空買いによる清算取引が行われていたが、現在は信用取引や商品取引所の先物取引などにみられる。ただし取引所会員(証券業者)が行う空売りについては、証券取引所の規則による制限が設けられている。空売りの場合は通常売り方日歩(金利)がもらえ、空買いの場合は買い方日歩を払わされる。信用取引による空売り・空買いは、あわせて仮需給とよばれ、現物のみでは不足がちな市場の需給関係を補完して、取引を活発化させるなどの利点もある。しかし、とくに近年、「空売り」についてはIT(情報技術)バブル崩壊や2007年夏のサブプライムローン問題に伴う下落、および、リーマン・ショック(アメリカの大手投資銀行リーマン・ブラザーズ経営破綻(はたん))の暴落時など大きな下落のたびに「下落相場を先導した」として問題視され、規制が強化されている。実際、空売りという手法により、必要以上に需給が悪化するとともに市場の攪乱(かくらん)につながる可能性があることは否めない。とはいえ、証券監督者国際機構(IOSCO)でも空売りには「より効率的な価格発見」「市場バブルの低減」「流動性の増加」「ヘッジや他のリスク管理行為の円滑化」などさまざまな理由により、資本市場において重要な役割を果たすものであると認めている。その意味で、単に「空売りを極端な形で規制する」だけではなく、空売りの潜在的な利点の実現と、極端に投機的な空売りがもたらしうる金融市場に対する悪影響の軽減との間のバランスをとった規制を考える必要がある。

[桶田 篤・前田拓生]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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