突・衝・撞・搗・舂・築・吐(読み)つく

精選版 日本国語大辞典 の解説

つ・く【突・衝・撞・搗・舂・築・吐】

〘他カ五(四)〙
[一] (突・衝・撞)
① 先の鋭い物で、勢いよく刺し通す。
古事記(712)下・歌謡「大魚(おふを)よし(しび)都久(ツク)海人(あま)よ 其(し)が離(あ)れば うらこほしけむ 鮪都久(ツク)志毘(しび)
徒然草(1331頃)一八三「人つく牛をば角を切り、人くふ馬をば耳を切りて、そのしるしとす」
② 腕や棒状の物などで強く押す。
万葉(8C後)一三・三二四二「吾が行く道の おきそ山 美濃の山 靡けと 人は踏めども かく寄れと 人は衝(つけ)ども」
※家(1910‐11)〈島崎藤村〉下「叔父三吉にも身元保証の判を捺(ツ)かせ」
③ (撞) 棒などの先端をうち当てて鳴らす。
源氏(1001‐14頃)末摘花「かねつきてとぢめむことはさすがにてこたへま憂きぞかつはあやなき」
※龍光院本妙法蓮華経平安後期点(1050頃)「鐘を搥(ツイ)四方に告ぐらく」
④ 細長い物を押し立ててささえとする。
※万葉(8C後)三・四二〇「杖つきも 衝(つか)ずも行きて 夕占(ゆふけ)問ひ」
古今(905‐914)賀・三四八「ちはやぶる神やきりけんつくからに千年の坂も越えぬべら也〈遍昭〉」
⑤ 頭、額、膝、手などを、地面や床に着ける。特に、ぬかずく。うやうやしく拝む。
蜻蛉(974頃)下「かしらついて『これくはぬ人は、思ことならざるか』といふ」
※俳諧・曠野(1689)二「手をついて哥申あぐる蛙かな〈宗鑑〉」
羽子板の羽根やまりをつよく打つ。
※仮名草子・浮世物語(1665頃)二「しな玉をとり、手鞠をつく、みなこれ煉なり」
⑦ (①②などの比喩的用法)
(イ) 障害や悪条件を物ともせず進む。また、ものごとの本質などに達する。
※そめちがへ(1897)〈森鴎外〉「朝倉より雨を衝(ツ)いての迎に、お客はと尋ぬれば」
※朝の悲しみ(1969)〈清岡卓行〉一「もし、これらの解釈のいずれかが真実を衝いているとしたら」
(ロ) 心や感覚を強く刺激する。
※源おぢ(1897)〈国木田独歩〉下「怒とも悲とも恥とも将(は)た喜ともいひわけ難き情(こころ)胸を衝(ツ)きつ
※行人(1912‐13)〈夏目漱石〉帰ってから「一種厭ふべき空気の匂ひも容赦なく自分の鼻を衝(ツ)いた」
⑧ 将棋で、盤上にある歩を前に一つ進める。
※浄瑠璃・山崎与次兵衛寿の門松(1718)中「先飛車先の歩をつきませう」
⑨ 突銭(つきぜに)をする。
※雑俳・寄太鼓(1701)「餠くふた盆に則ち銭をつく」
⑩ (男子の性器を槍にたとえていう) 交接する。
※咄本・軽口あられ酒(1705)三「それ、いわん事かの。つねに若(わかい)しうにつかしゃんなとゆうに、つかしてとまった」
⑪ 富突(とみつき)で当たりくじの番号を決める。
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)八「コリャ座摩の宮の札じゃ。しかもけふつく日じゃわいな」
[二] (搗・舂) きねなどの先で強く打っておしつぶしたり、穀物のからなどを除いたり、精白したりする。
※古事記(712)上・歌謡「山県に 蒔きし 藍蓼(あたて)都岐(ツキ) 染木が 汁に 染衣を」
※万葉(8C後)一四・三四五九「稲都気(ツケ)ばかかる我が手を今夜(こよひ)もか殿の若子(わくこ)が取りて歎かむ」
[三] (築) 土や石を積み重ね、固めてつくる。きずく。
※古事記(712)下・歌謡「御諸に 都久(ツク)や玉垣 斎(つ)き余し 誰にかも寄らむ 神の宮人」
※古本説話集(1130頃か)六〇「やまをつき、いけをほりて」
[四] (吐)
① 細い所から急に強く出す。息をはく。嘔吐する。また、排泄する。
※竹取(9C末‐10C初)「かくたのもしげなく申ぞとあをへどをつきての給ふ」
※古活字本荘子抄(1620頃)六「大息をつきて歎息す」
② 好ましくないことを口にする。言う。
※日葡辞書(1603‐04)「ウソヲ tçuqu(ツク)
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「『ばか』顔に似合はぬ悪体を吐(ツ)きながら」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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