糖原病I型 (von Gierke病)

内科学 第10版 の解説

糖原病I型 (von Gierke病)(糖原病(グリコーゲン病))

(1)糖原病Ⅰ型(von Gierke病)
病因
 グルコース-6-ホスファターゼ(G6Pase)の活性低下により,グルコース-6-リン酸(G6P)をグルコース(ブドウ糖)に転換することができず,低血糖をきたすとともに,肝臓腎臓に多量のグリコーゲンが蓄積する.G6PaseをコードするG6PC遺伝子そのものに異常をもつものを糖原病Ia型とよぶ.また,G6Paseの活性部位は小胞体の内腔面に存在するため,その基質であるグルコース-6-リン酸を細胞質から小胞体膜を通過して小胞体内へ移動する輸送系(G6Pトランスロカーゼ)が存在する.この輸送系をコードするSLC37A4遺伝子に異常をもつものを糖原病Ib型とよぶ(図13-2-36).Ia型の頻度が圧倒的に高く,約90%を占める.過去には別の部位に障害をもつとするIc型やId型も報告されたが,のちにいずれもIb型であることが判明した.
病態生理
 生体内でのグルコースのほとんどは,グリコーゲンの分解や糖新生で産生されたG6Pの加水分解により生じている.本症では,G6Pからグルコースへの転換ができないため,血糖維持は経口摂取したグルコースやそのポリマーの分解に依存する.このため,食後数時間で低血糖が生じる.低血糖時,グリコーゲンの分解と糖新生が亢進して多くのG6Pが産生されるが,患者ではグルコースに分解されず解糖系に流れて乳酸が生じるため,高乳酸血症が起こる.慢性的な低血糖により血中インスリン/グルカゴン比が低下するため脂肪組織からの脂肪酸の遊離が生じ,高脂血症となり,肝臓で脂肪酸がトリグリセリドとして蓄積し脂肪肝となる.また,高乳酸血症のために腎からの尿酸排泄が阻害され,さらに過剰なG6Pがペントースリン酸経路によりプリン産生亢進を引き起こすため,高尿酸血症に至る.
臨床症状
 低血糖発作,肝腫大,低身長を呈する.低血糖の程度はさまざまで,新生児期より痙攣発作を頻繁に起こす症例から,無症状で経過する症例まで存在する.乳幼児期には肝腫大とそれに伴う腹部膨満がみられる.低身長で,体幹や頬部には皮下脂肪が多く“人形様顔貌”を呈する.重篤な低血糖発作を繰り返した場合,知能障害を生じることもある.
 血小板粘着能や凝集能の低下の結果と考えられる鼻出血がしばしば認められる.脂質異常症が持続すると四肢伸側に黄色腫を認め,また,膵炎を伴う例もある.高尿酸血症による痛風,尿路結石を認める例がある.成人期以降,肝腺腫や肝癌,腎不全が問題となる.このほか,骨粗鬆症,思春期発育遅延,肺高血圧,多囊胞性卵巣,月経過多なども報告されている.
検査成績
 空腹時の低血糖に加えて,血清の乳酸,トリグリセリド,コレステロール,尿酸,肝トランスアミナーゼの高値を認める.Ib型では,好中球の減少や機能障害がみられ,これによる易感染性を伴う.
診断
 末梢血DNAを用いた遺伝子診断が有用である.日本人Ia型ではmRNAのスプライス異常を引き起こすc.648G>T変異(過去には727G>T変異と記載された)を高頻度に(>90%),日本人Ib型ではp.Trp118Arg変異(118番目のアミノ酸であるトリプトファンアルギニン置換)を約半数に認める.生検肝組織を用いた酵素活性測定が必要な症例はまれ.
 ブドウ糖負荷試験では乳酸値が低下する.
経過・予後
 小児期は,低血糖を防止すれば予後良好であるが.成人期には,腎不全や肝腺腫およびその癌化が生命予後を決定する主要因となる.
治療
 低血糖を防ぎ,血糖を維持することが治療の目標である.高炭水化物の頻回食が基本となる.ガラクトース,ラクトース(乳糖),フルクトース(果糖),スクロース(ショ糖)などは,グルコースとして利用できず,高乳酸血症を悪化させるため避ける.脂質異常症を改善するため脂肪の摂取も制限する.この目的に沿った糖原病治療用ミルクが市販されている.乳幼児では,夜間持続鼻注栄養法が必要になることが多い.幼児や学童ではコーンスターチ療法を用いる.未調理のコーンスターチはアミラーゼにより消化管内で徐々に分解,吸収されグルコースを供給するため,血糖の維持に効果的である.高尿酸血症に対してはアロプリノールを用いる.Ib型の好中球減少にはGM-CSFを投与する.[松原洋一]
■文献
Kishnani PS, Koeberl D, et al: Glycogen storage diseases. In: The Online Metabolic and molecular Bases of Inherited Disease, (Valle D, Beaudet AL, et al eds). http://www.ommbid.com/OMMBID/the_online_metabolic_and_molecular_bases_of_inherited_disease/b/abstract/part7/ch71

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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