絞・搾(読み)しぼる

精選版 日本国語大辞典 「絞・搾」の意味・読み・例文・類語

しぼ・る【絞・搾】

[1] 〘他ラ五(四)〙
① 締めつけて中の液を出す。また、そのような動作をする。
(イ) 濡れた布類を強くにぎったりねじったりして水分を出す。「袖・袂をしぼる」の形で、泣くさまにいう。
古今(905‐914)恋三・五七六「いつはりの涙なりせば唐衣しのびに袖はしぼらざらまし〈藤原忠房〉」
源氏(1001‐14頃)東屋「いとどしぼるばかり尼君の袖も泣き濡らすを」
(ロ) 強く押しつけたりねじったりして中の液を出す。
※石山寺本法華経玄賛平安中期点(950頃)三「其の乳を搆(シホリ)て之を一処に致すに及びては」
※交隣須知(18C中か)三「酒 フネニ イレテ シボッタ サケコソ 清酒
(ハ) まぶたを閉じ合わせて涙を出す。
※源氏(1001‐14頃)葵「目をおししぼりつつ見給ふを」
(ニ) 相撲で、相手がはず押しにしている手、または下手に差している手の関節を上手から強く握りつけ、内側に圧力を加えるようにして相手を無力化する。
② むりに出すようにする。
(イ) 取れるだけのものをむりに取り立てる。搾取する。
※玉塵抄(1563)二五「いわれぬことを云て、民をしぼりかがめて」
※海に生くる人々(1926)〈葉山嘉樹〉「労働者は働けば働くほど、自分を搾る資本に、それだけ多くの余剰労働は搾取され」
(ロ) 能力などをむりして出す。
※新浦島(1895)〈幸田露伴〉二一「身を揉んで智慧を絞りけるが」
(ハ) 出にくい声などをむりに出す。→しぼりいだすしぼりだす
※わらんべ草(1660)二「しぼるとは、竹などをたはめたるやうに、筒よりしぼる也。〈略〉名人八郎殿の謡はさはなかりし」
③ (「油をしぼる」の略) 失敗や悪事などを指摘して油汗が出るような思いをさせる。苦しめ困らせる。
街道の際(1972)〈古井由吉〉「教師にしぼられた餓鬼大将たちが」
④ まわりから中心に向かって一様に圧力を加える。
(イ) きつく締めくくる。
(ロ) 布などをひきまとめてくくる。
浄瑠璃・天神記(1714)一「御だい所の花見の酒えん、すみれかた敷く花莚〈略〉幕しぼらせて御だい所」
⑤ 絞り染めをする。
※京極大草紙(室町後)馬に付て式法之事「赤根にも染べし。〈略〉梅にしほるもあり」
⑥ 弦(つる)を引いて弓を強くたわめる。
曾我物語(南北朝頃)一「二の矢をつがひ、しぼり返して」
⑦ 小さくする。
(イ) カメラのレンズの開口面を小さくする。
(ロ) スピーカー音量を小さくする。
※妻隠(1970)〈古井由吉〉「遠慮深く音量をしぼっているのだが」
(ハ) 問題として取り上げる範囲を小さく限定する。「的をしぼる」
古典と現代文学(1955)〈山本健吉源氏物語戦後、国文学者たちの『源氏物語』研究は、その成立論にしぼられて来ているらしい」
[2] 〘自ラ四〙
① 激しく便意を催しながら大便が通じないでいる。
日葡辞書(1603‐04)「ハラガ xiboru(シボル)
② きつく締めつけられる。
※花物語(1908)〈寺田寅彦〉二「寝汗が出て居て胸がしぼる様な心持であった」
[補注](1)(一)①の「袖・袂をしぼる」の用例と見なされてきたものの中に、「しぼる」ではなく「しほる(霑)」(涙で袖・袂を濡らす)の用例であると指摘されるものがある。たとえば「泰時も鎧の袖をしほる」〔増鏡‐二〕は、「鎧の袖」であるから「しぼる」と見るのは難しい。
(2)(一)⑥について、「運歩色葉集」(一五四八)には「彎絞」を「ヒキシヲル」と訓んだ例があり、従来「(弓を)ひきしぼる(絞)」と見られてきたものの中に「引きしほる」の例が含まれている可能性がある。

しぼり【絞・搾】

〘名〙 (動詞「しぼる(絞)」の連用形の名詞化)
① 絞ること。
※浮世草子・諸道聴耳世間猿(1766)三「油やの絞(シボ)りを働く男」
② 「しぼりぞめ(絞染)」の略。
※四河入海(17C前)三「纈は、日本に云ふしほりと云ふ染物の色ぞ」
※滑稽本・東海道中膝栗毛(1802‐09)四「名にしおふ絞(シボリ)の名物、いろいろの染地家ごとにつるし」
※浮世草子・男色大鑑(1687)六「干(ひ)かたき袖をしぼりのたばこ入仕出し」
④ 花弁などの紅白入りまじったもの。〔改正増補和英語林集成(1886)〕
⑤ 光学器械で、レンズや鏡の前に置かれ、機械的に開口部の面積を加減して入射光線の量を制限する装置。カメラでは小羽根を組み合わせて、穴の大きさを自由に変え、適当な露光量を得るほか、焦点深度を変えて、鮮明な像を得る働きもする。
※銀二郎の片腕(1917)〈里見弴〉「或は暗箱のしぼりといふ機械を取付けたやうに」
⑥ 囲碁の手筋の一つ。欠け目になる断点に捨て石を打って相手の石をダンゴにさせる手段。シメツケと関連することが多い。
⑦ 顔や手をふくための、湯や水でしめして絞ったタオルや手拭い。お絞り。

しも・る【絞・搾】

〘他ラ四〙 =しぼる(絞)
※大智度論平安初期点(850頃か)一六「熱鉄の臼の中に搗きて之を砕けしむること、蒲陶を迮(シモル)がごとく、亦油を圧(シモる)がごとく」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android