総論(薬物中毒・依存症)

内科学 第10版 の解説

総論(薬物中毒・依存症)

(1)総論
 中毒(poisoning)という概念は,「毒物(化学物質のなかで生物系に有害反応を引き起こしてその機能を大幅に損傷させ,ときには死を招くことさえあるもの)によって引き起こされる有害な事象」と定義することができる.中毒は急性中毒慢性中毒に分類されるが,医療の場で緊急の診断・治療を要するのは急性中毒である.厚生労働省人口動態統計によれば,中毒による死亡件数は年間6000~7000件である.起因別頻度をみると,一酸化炭素およびガス類による中毒が全体の約70%を占めており,次に医薬品,農薬と続く.
 社会的にはよく用いられる「アルコール中毒」「覚醒剤中毒」という表現は,厳密には「依存症(depend­ence)」という言葉に置き換えるべきであり,医療従事者は両者を区別して取り扱う必要がある.依存症とは「生体薬物の相互作用から生ずる精神状態および身体症状で,薬物の精神効果を再び体験したいとか,あるいは薬物の投薬中止によって生ずる苦痛状態を取り除くために,薬物を強迫的に欲求すること」(WHO,1969)と定義され,その状態や程度により,精神依存と身体依存に分類される.麻薬,覚醒剤以外に依存性を有する薬物の多くは向精神薬に分類される.依存症は慢性中毒や薬物乱用(drug abuse)に関連しており,その離脱や社会復帰のためには長期間の治療や支援が必要となる.[福本真理子]
■文献
福本真理子:アセトアミノフェン中毒の治療にノモグラムは有用か.中毒研究,23: 111-115,2010.
上條吉人:臨床中毒学(相馬一亥監修),pp1-38,医学書院,東京,2009.
Kearney TE: Therapeutic Drugs and Antidotes. In : Poisoning & Drug Overdose, 4th ed (Olson KR ed), pp404-509, McGraw-Hill, New York, 2004.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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