日本大百科全書(ニッポニカ) 「聖家族(キリスト教)」の意味・わかりやすい解説
聖家族(キリスト教)
せいかぞく
holy family 英語
Sainte famille フランス語
Heilige Familie ドイツ語
幼児イエスとその母マリア、養父ヨセフの家族。『新約聖書』によれば、聖霊によってマリアはイエスを懐胎したが、ヨセフは夢に現れた天使の勧めに従いマリアを妻として迎え入れた。そのころローマ皇帝が戸籍登録の勅令を出したので、ヨセフはマリアを連れて本籍地ベツレヘムに行き、そこでマリアは初子(ういご)イエスを産んだ。ヘロデ王がこの幼児の命をねらったので、ヨセフはマリアとイエスを連れてエジプトへ逃れた。ヘロデの死後ガリラヤのナザレの町に行き、そこで神の愛に満ちた平和な家庭を築いた。キリスト教信者はこれを聖家族とよび、すべての家族生活の模範と仰ぐ。なおカトリック教会では、主の御降誕祭(クリスマス)後の最初の日曜日を「聖家族の祝日」としている。
[門脇佳吉]
美術
キリスト教美術の図像の一つ。幼児イエスと母マリア、および養父ヨセフの慈愛に満ちた家族図。ヨセフのかわりにマリアの母アンナを加えた表現も聖家族図であるが、この場合は家系図の要素が強い。いずれにせよ、幼児イエスを中心に3人物像によって構成され、地上の聖三位(さんみ)一体を象徴する。この表現形式は14世紀に登場するが、とくに15、16世紀にイタリアをはじめ、ドイツ、スペインなどで流行した。聖アンナのいる聖家族図では、レオナルド・ダ・ビンチの『聖アンナと聖母子』(ルーブル美術館)がもっとも有名である。ヨセフのいる聖家族図としては「エジプト逃避」の途中の休息の場面も含まれるが、家庭におけるだんらんの表現が一般的で、ミケランジェロやラファエッロなどの作品がある。また、聖エリザベトやその幼児バプテスマのヨハネを加える場合もある。
[名取四郎]