胃・十二指腸憩室(読み)い・じゅうにしちょうけいしつ

六訂版 家庭医学大全科 「胃・十二指腸憩室」の解説

胃・十二指腸憩室
い・じゅうにしちょうけいしつ
Diverticula of stomach and duodenum
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 胃・十二指腸憩室は、胃壁や十二指腸壁の一部が袋状に拡張して突出したものです。単発であることが多く、大きさは胃憩室は1~7㎝程度、十二指腸憩室は1~3㎝程度です。胃憩室は、その他の消化管憩室に比べて頻度が低い(0.03~0.3%)のですが、十二指腸憩室は胃憩室よりも頻度が高く(5~10%)、加齢とともに増え、増大する傾向があります。

原因は何か

 胃憩室の好発部位は、噴門部後壁(ふんもんぶこうへき)(75~80%)と幽門前庭部(ゆうもんぜんていぶ)(15~18%)です(図20)。噴門部では先天的なものが多く、幽門部には後天的なものが多くみられます。噴門部は、胃の筋層が薄く解剖学的に弱いうえに圧力がかかりやすい部位なので、胃憩室が発生しやすいといわれています。幽門部は、胆嚢(たんのう)膵臓(すいぞう)などの周囲の臓器の炎症や癒着による牽引(けんいん)迷入膵(めいにゅうすい)(異所性に発生して膵臓に似た組織)の陥凹(かんおう)などによって胃憩室が発生します。

 十二指腸憩室の好発部位は十二指腸下行脚(かこうきゃく)で(70~80%)、ほとんどは十二指腸壁が脆弱(ぜいじゃく)なファーター乳頭付近に発生します(傍乳頭憩室(ぼうにゅうとうけいしつ))。多くが腸管外に突出した管腔外型十二指腸憩室ですが、まれに十二指腸腔内に袋状に下垂する先天性の管腔内型十二指腸憩室があります。

症状の現れ方

 小さな胃憩室は多くが無症状ですが、大きな憩室では食後の心窩部膨満感(しんかぶぼうまんかん)、胸部痛、嘔吐胸やけや、まれに憩室炎、胃潰瘍穿孔(せんこう)(あな)があく)、出血などが起こることがあります。

 十二指腸憩室も多くが無症状ですが、まれに腹痛発熱、出血、穿孔を伴う急性憩室炎、閉塞黄疸(おうだん)胆管炎(たんかんえん)膵炎(すいえん)などが起こることがあります。

検査と診断

 胃・十二指腸憩室はほとんど症状がないために、胃のX線造影検査や内視鏡検査で偶然発見されることが多い病気です。十二指腸憩室の精密検査で、低緊張性十二指腸造影検査が行われることがあります。

治療の方法

 胃憩室の多くは予後が良好なので、とくに治療する必要はありません。しかし、胃憩室炎、胃潰瘍、出血などの合併がみられた場合は、まず保存的治療を行います。保存的治療で改善がみられなかったり、がんの合併、穿孔などが疑われた場合には手術を行います。

 十二指腸憩室も多くは予後が良好なので、とくに治療する必要はありません。憩室炎、レンメル症候群(憩室が胆管を圧迫することによって起こる閉塞性黄疸)などの合併がみられた場合には手術を行います。

病気に気づいたらどうする

 症状がなければ様子をみていいでしょう。何らかの症状が現れた場合には、内科もしくは外科診察を受けてください。

千葉 勉, 伊藤 俊之


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「胃・十二指腸憩室」の解説

胃・十二指腸憩室(胃・十二指腸疾患)

概念
 胃・十二指腸憩室は,胃や十二指腸の壁の一部が限局性に囊状に拡張・突出したものである.消化管憩室のなかでは,大腸憩室(colon diverticulum)や十二指腸憩室(duodenal diverticulum)の頻度が比較的高い.
病因
 一般に,消化管憩室は発生時期により先天性憩室と後天性憩室に分類される.また,組織学的所見に基づき,筋層を伴う真性憩室と筋層を欠く仮性憩室に分けられる.成因として内圧亢進に伴う圧出性憩室と,周囲癒着などによる牽引性憩室に分類される.胃憩室の多くは後天性であり,真性憩室である.十二指腸憩室は管腔外型と極めてまれな管腔内型に分類される.通常みられる管腔外型憩室は圧出性憩室である.【⇨8-8】
病態
 上部消化管憩室のなかでは,十二指腸や食道と比較して胃憩室の頻度はかなり少ない.胃憩室は噴門部に好発し,幽門前庭部に発生することはまれである.噴門部憩室の原因は局所的な筋層の脆弱性による圧出であることが多く,幽門部憩室の原因は胆囊や膵臓などの周辺臓器の炎症・癒着による牽引であることが多い.幽門前庭部にみられる迷入膵により陥凹形成することもある.十二指腸憩室は,ほかの消化管と比較して頻度が高い.十二指腸憩室の発生原因については明らかではないが,十二指腸壁の脆弱部において蠕動,収縮を繰り返した結果生じるものと考えられる.十二指腸憩室の好発部位は十二指腸下行脚の内側に圧倒的に多く,特にVater乳頭部に多くみられる.ついで水平脚に認める.十二指腸下行脚の内側,Vater乳頭部は発生学的に腹側膵と背側膵が融合するため腸管壁が脆弱であることが,十二指腸憩室が好発する原因であると推察されている.
臨床症状
 胃憩室は一般に無症状である.ときに心窩部痛,悪心の原因となる場合もある.潰瘍,憩室炎,憩室穿孔などの合併症も報告されている.十二指腸憩室は一般に無症状であるが,ときに上腹部痛の原因となる.傍乳頭憩室は解剖学的に胆管,膵管の走行に隣接するため,ときに胆汁,膵液の排出障害をきたし,慢性胆汁うっ滞や膵炎を併発することがある(Lemmel症候群).憩室炎や,憩室出血,カプセル内視鏡の滞留などの報告もある.
検査成績
 無症状であることが多いため,上部消化管造影検査や上部消化管内視鏡で偶然発見されることが多い.上部消化管造影検査では,胃や十二指腸に辺縁平滑で円形あるいは卵円形の突出像として描出される.上部消化管内視鏡では,周辺粘膜と同様の粘膜で覆われた円形,卵円形の陥凹部として描出される.
鑑別診断
 上部消化管造影検査にて胃潰瘍を胃憩室と誤診しないよう注意すべきである.上部内視鏡検査では,通常診断は容易である,胃憩室や十二指腸憩室に憩室炎や憩室出血などの合併症を伴った場合には,同疾患を念頭においた慎重な診断が必要である.
経過・予後
 胃憩室の予後は一般に良好であり,通常は治療対象とならない.外科手術を含めた治療を検討すべきものとし,悪性疾患の合併,幽門狭窄,憩室内潰瘍,憩室穿孔の可能性などがあげられる.十二指腸憩室も大部分が無症状であり,治療対象にならない.十二指腸閉塞,胆管や膵管の閉塞,憩室炎,憩室穿孔などの合併症は治療対象となる.おもに外科治療であるが,十二指腸憩室圧排による総胆管閉塞に対する内視鏡的ステント挿入や,十二指腸憩室出血に対する内視鏡治療も報告されている.[喜多宏人]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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