脊椎・脊髄の病気〈総論〉

六訂版 家庭医学大全科 の解説

脊椎・脊髄の病気〈総論〉

(運動器系の病気(外傷を含む))

 ヒトの脊椎(せきつい)は、2足歩行開始に伴い重力の垂直負荷という環境の元に進化してきました。その主な機能は、「脊柱(せきちゅう)」と呼ばれるように体の柱として機能する「支持性」、さまざまな姿勢と運動を可能にする「可動性」、そして脊髄(せきずい)をはじめとする「神経組織の保護」の3点です。

 脊柱椎骨(ついこつ)と呼ばれる小さな骨が24個集まって構成され、頭に近いほうから頸椎(けいつい)胸椎(きょうつい)腰椎(ようつい)仙骨(せんこつ)の4つの部分から成り立っています(図66)。

 頸椎は、頭を自由な方向へ向けるために各方向への可動域が最も大きい部分です。胸椎は肋骨と連結して胸郭を形成しており、可動性はほとんどありません。腰椎は5個の椎骨からなり、胸椎と骨盤の一部でもある仙骨を連結することで上半身を支持しており、最も大きな過重がかかるとともに大きな可動性をもつ部分です。仙骨は骨盤の中心で腰椎と両側の腸骨を連結する要石の役割を果たしています。

 一方、隣り合う椎骨同士は、前方部分である椎体間に存在する円盤状の軟骨である椎間板(ついかんばん)と、後方に左右1対存在する椎間関節の計3カ所で主に連結しています(図67)。椎間板は、椎骨と椎骨の間のクッションのような働きをします。

 椎間板は、中心部の髄核(ずいかく)と呼ばれるゼリー状の軟骨を、線維輪(せんいりん)と呼ばれる丈夫な線維組織が取り囲むような構造をしており、車のタイヤにたとえると髄核が空気、線維輪がタイヤの役割をしており、内部の陽圧により椎骨間の衝撃を吸収しつつ動きを可能にしています。一方、椎間関節は、手や足の関節同様動きをスムーズにするとともに動きの方向をガイドしています。このように、椎骨間は主に荷重を伝達する椎間板と、動きを制御する椎間関節により相互につながっています。

 また脊柱は、多くの靭帯(じんたい)と呼ばれる線維組織により補強されています。椎体の前面には前縦(ぜんじゅう)靭帯、後面には後縦(こうじゅう)靭帯が脊柱全体を連続的につないでいます(図67)。さらに、椎弓(ついきゅう)間には黄色(おうしょく)靭帯と呼ばれるゴムのように伸縮性のある靭帯があります。

 そして、このような構造で荷重に耐えつつなめらかな動きを可能とする脊柱は、まわりの(ぼう)脊柱筋や腸腰筋などの筋肉組織の働きが加わることでその機能を発揮しています。

 一方、脊椎脊髄・馬尾神経といった重要な神経組織の通り道でもあります。神経組織の存在する空間は管状になっているため「脊柱管」と呼ばれます。これらの神経組織は極めて脆弱(ぜいじゃく)であり、ある程度以上の障害を受けると回復は極めて困難であるという厄介な性質をもっています。

 そのため、体の中心にある骨組織のなかで厳重に保護されてるわけですが、いったん脊柱管自体が狭くなったり、脊柱管内部に靭帯の骨化や腫瘍などが発症すると、神経組織の逃げ場はなく、容易に圧迫されてしまう弱点を併せもっています。こうなると、脊椎とはかけ離れた部位である手足のしびれ・痛みや運動麻痺症状などがさまざまな程度で起こってきます。しかも肩こりや腰痛などの極めて一般的な症状が先行する場合が多いため、脊髄麻痺を来す重大な疾患の早期診断は必ずしも容易ではありません。

 くわえて、脊椎の加齢変化が原因となる症状が最も多いという特徴があります。椎間板組織の老化現象は10代後半から始まるとされ、椎間板の機能低下に伴う椎間関節などの老化(医学的には変性といいます)は、同時に椎間板の脊柱管側への膨隆(ぼうりゅう)・椎間関節や黄色靭帯の肥厚をもたらし、徐々に脊柱管や椎間孔などが狭くなっていくことになります。それゆえ、脊椎の変性による肩こり・腰痛などの局所の症状とともに、特定の原因がなくても人によっては手足の痛みやしびれなどの神経圧迫症状がさまざまな程度で出現することになります。

久保紳一郎


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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