腸管出血性大腸菌(読み)チョウカンシュッケツセイダイチョウキン

デジタル大辞泉 「腸管出血性大腸菌」の意味・読み・例文・類語

ちょうかんしゅっけつせい‐だいちょうきん〔チヤウクワンシユツケツセイダイチヤウキン〕【腸管出血性大腸菌】

大腸菌のうち、下痢合併症を引き起こす病原性大腸菌一種。毒力の強いベロ毒素(志賀毒素群毒素)を産生し、激しい下痢や腹痛、血便などの諸症状を引き起こす。子供や高齢者では溶血性尿毒症などの合併症を起こしやすい。菌の細胞壁鞭毛にある抗原の種類によって分類され、O157O111などがある。食品摂取による感染や動物との接触による感染などが確認されているが、十分な加熱消毒による予防が有効とされる。ベロ毒素産生性大腸菌EHEC(enterohaemorrhagic Escherichia coli)。

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知恵蔵 「腸管出血性大腸菌」の解説

腸管出血性大腸菌

大腸菌のうち、毒素を発生して出血を伴う腸炎を引き起こす種類のものをいう。夏冬の区別はあまりなく、一年中発生する食中毒の原因となる細菌の一種。
大腸菌には多くの種類があり、大半は無害で、家畜や人間などの体内に生息しているが、腸管出血性大腸菌は、家畜にはほとんど症状が出ず、それを食べた人間に強い症状が出る。特に、乳幼児、高齢者、抵抗力のない人が感染すると、重症化するリスクが高まり、時には死に至ることもある。感染症予防法では、3類感染症に指定されており、診断した医師は直ちに所轄の保健所に届け出ることが義務づけられている。
1次感染は、菌の付いた食べ物を摂取することで起こる。何の症状も出ないこともあるが、軽度の場合は軽い下痢を催す。重症になると、激しい腹痛や水様便、血便をみる。潜伏期間はだいたい3~5日で、軽症でも重症でも発熱は軽く、だいたい37度台である。血便などの症状が出た患者のうち6~7%に溶血性尿毒症症候群や脳症といった深刻な合併症が発現するとされ、その場合の致死率は1~5%と言われている。取り込んだ菌の数が少なくても感染が成立しやすいため、人から人への2次感染が起こりやすい。
このような特性を持つ大腸菌に、O(オー)157、O(オー)26、O(オー)111、O(オー)128、O(オー)145、O(オー)8がある。Oは細胞壁に由来する抗原で、数字は発見された順番を意味する記号である。
予防の基本は、菌を取り込まないことである。酸に強く、熱に弱いので、肉などは十分に加熱してから食べることで予防できる。いったん口に入ると胃酸では死なずに腸まで到達する。2次感染予防には、発症した家族の便を処理した後などに、手洗いと消毒を徹底する必要がある。
日本では、1990年に井戸水がO157に汚染されていたことが原因で保育園児2名が死亡したほか、2011年4月に焼き肉チェーン店で、ユッケが原因とみられるO111集団感染が発生し、有症者168人、重症者17人、死亡4人が確認されている。

(石川れい子  ライター / 2011年)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「腸管出血性大腸菌」の意味・わかりやすい解説

腸管出血性大腸菌
ちょうかんしゅっけつせいだいちょうきん
Enterohemorrhagic Escherichia coli

下痢や腹痛および潜血便などのほか、重篤な合併症を引き起こす大腸菌の一種。EHECと略称される。ベロ細胞に致死的な強い作用を示すベロ毒素(シガトキシン)を産生する。日本ではO157血清型に属する大腸菌による感染が多くを占め、ほかにO111などの血清型菌によるものもある。この菌はウシをはじめとする家畜やヒトなどの糞便(ふんべん)中に存在し、生肉などの汚染された飲食物を介して経口感染し、多くは3~5日の潜伏期間を経て毒素を産生するEHEC感染症を発症する。初期症状として水様性下痢がみられ、嘔吐(おうと)、発熱(多くは37度台)を伴うこともある。進行すると鮮血を伴う下痢や激しい腹痛を伴う出血性大腸炎に移行する。さらに重症化すると頻回に潜血便を呈するようになり、赤血球が破壊される溶血性貧血や溶血性尿毒症症候群(HUS:hemolytic uremic syndrome)および脳炎を合併し、ときに意識障害や昏睡(こんすい)に陥って死に至ることもある。EHECによる感染症は小児や高齢者に好発し、日本では1996年(平成8)に岡山県や大阪府で学校給食による感染がおき、多くの患者と数名の死者が出た。夏に発症することが多く、その後も感染例が多く報告されている。

[編集部 2016年9月16日]

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百科事典マイペディア 「腸管出血性大腸菌」の意味・わかりやすい解説

腸管出血性大腸菌【ちょうかんしゅっけつせいだいちょうきん】

O-157

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