臣・奴・僕・官奴(読み)やつこ

精選版 日本国語大辞典 「臣・奴・僕・官奴」の意味・読み・例文・類語

や‐つ‐こ【臣・奴・僕・官奴】

[1] 〘名〙 (「家つ子」の意)
① 人に使われる身分の低い者。奴婢(ぬひ)
(イ) 古代の賤民のうち、最下級の奴隷。売買・贈与・譲渡の対象となり、人格は認められず、家族も形成しない。令制では、官有の公奴婢(くぬひ)私有の私奴婢に大別される。やつこらま。つぶね。
万葉(8C後)七・一二七五「住吉小田を刈らす子賤(やつこ)かも無き 奴(やつこ)あれど妹が御為と私田刈る」
(ロ) (「やつご」とも) 身分の低い召し使い。奴僕。
※天草本伊曾保(1593)イソポの生涯の事「カノ ノウニンニ ワガ yatçuconi(ヤツコニ) トエト イワルレバ」
※仮名草子・悔草(1647)中「恩なき主君のくせとして、声たかにいかりつかひて、やつごの飢をもしらず」
② 神、君、主人などに仕える者。従者。忠実な家来。臣下。郎等。
書紀(720)雄略二三年八月(前田本訓)「義(ことわり)においては、君臣(ヤツコ)(〈別訓〉やつこらま)なり」
③ (「やつご」とも) 人などをののしっていう語。また、親しさをこめたり、ふざけた気持で故意に用いたりすることも多い。やつ。
※書紀(720)雄略一三年九月(前田本訓)「天皇因て嘖譲(せ)めて曰く、何処(いつこ)にありし奴(ヤツコ)そ」
平家(13C前)一「其家に乱入し、資材雑具を追捕し、其奴(ヤツゴ)(高良本ルビ)を搦とて」
④ ある事に執着して身心の自由を奪われることをたとえていう。
※万葉(8C後)一二・二九〇七「大夫(ますらを)の聰き心も今は無し恋の奴(やつこ)に吾れは死ぬべし」
⑤ (官奴) 「やつこ(官奴)のつかさ」の略。
[2] 〘代名〙 自称。自分をへりくだっていう。男女ともに用いる。やつがれ。
※書紀(720)雄略即位前(前田本訓)「疋夫(いやしきひと)の志も、奪ふ可きこと難しといへるは、方に臣(ヤツコ)に属(あた)れり」
[語誌]「つ」は(一)①(ロ)の挙例「天草本伊曾保」のつづりで明らかなように、中世までは直音であった。また、「こ」が連濁して「やつご」となった例の存在(①(ロ)の「悔草」など)も「つ」が促音でなかったことを裏付ける。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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