航法(読み)コウホウ(英語表記)navigation

翻訳|navigation

デジタル大辞泉 「航法」の意味・読み・例文・類語

こう‐ほう〔カウハフ〕【航法】

船舶または航空機が、所定の二地点間を、所定の時間内に正確かつ安全に航行するための技術・方法。地文ちもん航法天文航法電波航法などがある。
船舶が他船との衝突を避けるため、または危険な海域や狭い水路での安全航行のために、操縦・航路などを定めた方法。

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精選版 日本国語大辞典 「航法」の意味・読み・例文・類語

こう‐ほう カウハフ【航法】

〘名〙
① 船舶または航空機などが、目的地点に最も正確に到着するための技術、方法。地上の目標を見て行なう地文航法、天体を観測して行なう天文航法、レーダーなどを利用して行なう電波航法などがある。
② 船舶が互いに接近して衝突する恐れのあるとき、一方の船が他方の船の航路を避ける方法。航方。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「航法」の意味・わかりやすい解説

航法
こうほう
navigation

船舶、航空機、自動車などの乗り物を、目的地まで安全かつ経済的に導く方法。広義には、海上または空域の交通安全のために、法律や規則によって定められた船舶、航空機の操縦法も含まれる。

 航法は経路によって陸上航法、海上航法、水中航法、航空航法、宇宙航法に分けられる。陸上航法ということばはあまり使われないが、太古、シカやウサギの生息地や木の実の実る森と住居との往復程度の行動にも、距離・方向・位置など航法の知識が必要であった。現在でも砂漠や原野を走行するラリーなどでは航法が必要である。しかし陸上では、繰り返し往来しているうちに、自然に道や見覚えのある目標ができ、それらが相当期間変わらずに残っていて、改めて航法の知識を必要とすることもなくなることが多い。

 これに対し海上では、沿岸航海を除き、洋上では陸上のような道、目印、景色などがなく、何度も航海した航路でも、そのつど各種の航法を組み合わせて利用せざるをえない。大航海時代を経て大洋の航海が盛んに行われるようになるとともに航法は進歩・発達し、19世紀末には位置の線航法がほぼ理論的に完成された。航法とは航海に関する用語であると一般に考えられがちな理由はここにある。その後、空中・水中・宇宙などに人類が進出する時代になったが、航法の原理は海上とそれほど変わらない。位置の二次元的表示と三次元的表示に根本的差異があるようにいわれるが、厳密には海上・陸上でも三次元表示が必要である。しかし、地心からの距離が一定な仮想の地球表面に山岳や海溝を投射して位置を示し、高さや深さを別に扱って、方向のみによる緯度・経度で示す。こうすることによって数学的扱いがきわめて簡単になる利点がある。

[川本文彦・青木享起・仲村宸一郎]

海上

海上航法は、自船の状況、気象、海象、海陸の分布などを考慮したうえでの安全で経済的、能率的な航路の選定、目的地までの距離の算定、現在位置の推測および測定、針路の決定、目的地までの残航程と所要時間の算出などがおもなもので、狭義の航海はこれらの繰り返しによって実施される。

 光学を主とした従来の地文・天文航法に加えて、電子工学の発達によるレーダー、ロラン、デッカ、オメガ、航行衛星などの新たな航行援助方式が相次いで用いられるようになったが、航法ということばが不統一に用いられて混乱しているのが現状である。本項では一般の慣習に従った。

 研究の進歩により、波高と船に対する波の相対的な方向によって船の速度が低下する割合が算出できるようになり、他方、1週間程度の天気予報が発表されて、海域ごとの風向、風速、吹送時間、吹送距離から波浪予測ができることから、これも算入して、目的地まで最短時間または最少燃料消費で達する航路を選定できるようになった。天候に支配される経済運航重視のこのような航路選定法を最適航法または天気航法といい、この方法で選んだ航路を最適航路という。各国の気象機関からの情報を集めて解析し、最適航路を選定して契約船舶に通報する会社も営業している。

 また、定義に述べたように、他船との衝突を避けるための国際海上衝突予防規則(国内法では海上衝突予防法)、船舶の輻輳(ふくそう)する海域での危険防止のための海上交通安全法、港内における船舶交通の安全のために港則法などの法規で定められた船舶操縦法、航路通行法などを航法という場合もある。

[川本文彦・青木享起・仲村宸一郎]

航空

原理的には海上航法と大差はなく、初期にはほとんど同じ方法が用いられた。しかし、航空機は船舶に比べて速度がはるかに速く、三次元の空間を移動し、空中で停止できず、滞空時間が短いなど、異なった条件が多いので、航空機独特の航法が考えられるようになった。しかし航法装置の近代化に伴い、航空機と船舶(潜水艦を含む)との間にふたたび共通する面が多くなってきたので、航空を主とし他を包含して解説する。

〔1〕地文航法(pilotage navigation) 船舶の地文航法(geo-navigation)中の沿岸航法(coastal or pilotting navigation)にあたる。空中から操縦士が地上の道路や顕著な目標を視認して飛行する方法である。初期はこの方法のみが用いられていたが、これのみでは、夜間、視界のないとき、物標のない場所では飛行できない。

〔2〕推測航法(dead reckoning navigation) 空中における航空機の位置誤差の大きな要因は風向と風速に関係する。そこで、予測した風のベクトルと航空機の機首方位と対気速度のベクトルを合成することによって、あらかじめ確認した位置から針路と距離を算出し、自機の推定位置を得て飛行する推測航法が考えられ、基本的な航法となった。

〔3〕天測航法(celestial navigation) 航法の精度をあげる方法の一つである。六分儀により天体の高度と方位を測定して現在位置を知る方法で、高い精度が得られる。しかし、専門の航空士が乗り組む必要があり、悪天候のとき利用できない欠点がある。慣性航法装置を利用した航法が発達するにつれほとんどなくなっている。

〔4〕無線航法(radio navigation) 従来の航法の欠点を克服するために、第二次世界大戦を契機として急速に発達した。地上に設置された航法援助無線標識からの電波を機上の受信機でとらえ、これらの無線標識からの距離や方位を測定して位置を求める。次のような種類がある。

(1)NDB(無指向性無線標識施設 non-directional beaconの略称) 地上局から無指向性の中波または長波の電波を発信する。この電波を機上のADF(自動方向探知機 automatic direction finderの略称)で受信してNDBの方向を知る。有効距離は昼間100~500キロメートルであるが、夜間や悪天候時には誤差が大きくなる。

(2)VOR(超短波全方向式無線標識施設 VHF omni-directional radio rangeの略称) NDBと同様に地上局からの方位を測定する。超短波の指向性電波を使用するので、精度は高いが、到達距離は短い。

(3)DME(距離測定装置 distance measuring equipmentの略称) 航空機からの電波に地上局が応答電波を発し、機上で質問電波との時間差を測定して地上局までの距離を求める。通常VORと組み合わせて使われる。船舶でも同じ装置が運動測定用に用いられている。

(4)TACAN(タカン)(戦術航法システム tactical air navigationの略称) VOR/DMEと同様に、地上局からの方位と距離を同時に求める方式で、軍事目的のために開発された。

(5)LORAN(ロラン)(long range navigationの略称) 遠距離用双曲線航法である。地球上の2点から発信される電波の到達時間差が一定となる地点をつなぐと、チャート上に2点を焦点とする双曲線が描かれることを応用している。二つのロラン局から発信されるパルス波の時間差を測定して位置の線を得る。同じ手順で別の一対の局から得た位置の線との交点から自機の位置を求める。中波を使用するロランAと長波を用いるロランCがあり、ロランAは漸次廃止されつつある。

〔5〕グリッド航法(grid navigation) 北極圏飛行の航法上の問題点を克服するために開発された特殊な方法。大圏(grid circle)がほぼ直線で表されるような特殊な投影法に基づく地図を用い、緯線、経線のかわりにグリッド(格子)を引き、方位も、実際の北極とは関係のないグリッドノース(grid north)を定める。グリッド航法では、仮想の北(グリッドノース)を地図の基準として定めるのである。この地図と一定の方向を保つ性質をもつディレクショナル・ジャイロ(directional gyro)を組み合わせて航行する。

〔6〕自蔵航法(self contained navigation) 略してSCNともいう。航空機が地上の施設に依存せずに機上の航法装置だけで飛行する航法である。地上局の故障や戦乱などにも影響されない利点がある。海上船舶や潜水艦船にも、この外部の施設に依存しない航法が用いられるようになってきた。地上の航行援助施設に依存しないで、ドップラー航法や慣性航法装置のように機上の航法装置により独力で航法を行う装置を総称して自蔵航法装置という。

〔7〕ドップラー航法(Doppler navigation system) 航空機にはドップラーレーダー(Doppler radar)、船舶ではドップラーソナー(Doppler sonar)が使用される。ドップラーレーダーは電波を利用する方法で、自蔵航法装置として最初に開発された。航空機から発射した電波と、地面から反射された電波との周波数の差を測定し、機上のコンピュータで処理して対地速度と偏流角を算出し、位置を求める。ドップラーソナーは超音波を利用する方法で、原理的にはドップラーレーダーと同様である。しかし、水深の浅い海域で海底からの反射が得られる間は、海底を対象とした対地速度と偏流角算出によるが、水深が深くなって海底からの反射が得られなくなると、対水反射のドップラー現象を利用して、対水速度と偏流角を算出して位置を求める。対水の場合は、当然、水の移動の誤差が含まれる。

〔8〕慣性航法(inertial navigation) 物体が移動するときはつねに加速度が加わっているが、この加速度を積分すれば速度が、さらにもう一度積分すると移動した距離が出るという、この加速度(慣性)を利用した慣性航法装置(INS、IRSなど)による航法。航空機に、重力の方向に対しつねに平行状態を保つジャイロを使った水平安定板(プラットホーム)を設け、ここに高感度の加速度計を置き、加速度を検出し、内蔵したコンピュータで前述の解析を自動かつ連続的に行い、速度、位置、進行方向などを求めて航行するものである。また、自動操縦装置に結び付け、飛行前にあらかじめ目的地までのフライトプランをコンピュータに入れておけば、地上の航法援助なしに自動的に所定の飛行コースにのって、目的地に向け飛行できる。

〔9〕オメガ航法(omega navigation) 10~14キロヘルツの超長波(VLF very low frequency)を使用した双曲線航法。二つの送信局から発射される電波の位相差を測定して位置を決定するもの。オメガの特徴は、VLFを使用しているので、約1万キロメートルに1局ずつ設置すれば、地球上にわずか8局の送信局を設置することによって、航空機は地球上のいかなる地点においても位置決定できることである。また、VLFは海面下約15メートルまで伝播するので、潜水艦は潜水したまま位置を知ることができる。なお、2001年現在オメガ局は、ノース・ダコタ(アメリカ)、ハワイ島(アメリカ)、ノルウェー、リベリア、対馬(つしま)(日本)、レユニオン島(南インド洋上にあるフランスの海外県)、アルゼンチン、オーストラリアの8局が運用中である。本質的にはロラン航法と同じ双曲線航法であるが、送信局相互間の距離はロランに比べ各段に長いことが特徴である。

〔10〕広域航法(area navigation) 交通量の増加に備えて開発された新しい航法システム。地上の航行援助施設からの信号の有効範囲内、あるいは自蔵航法装置の機能範囲内で、任意の希望コースを設定することができる。また、つねに航法装置の現在位置が直読式で得られる。この航法を利用することにより、空域内に任意の航路を設定できるので、その空域の許容交通量を増大させることが可能となる。システムとしては、次のような方法がある。

(1)VORおよびDME(距離測定装置)と機上のコンピュータにより希望コース、現在位置を算出する方法。

(2)INS(慣性航法装置)により希望コース、現在位置を得る方法。

(3)INSをVOR、DMEの組み合わせ、2組のDMEあるいはGPS(global positioning system)によって修正し、正確な希望コース、現在位置を得るもの。

 広域航法(エリア・ナビゲーション)の希望コースは、ウェイポイント(waypoint)とよばれる地図上の特定点を結ぶことによって定められる。ウェイポイントは座標によって表され、座標系のなかで任意の位置に定めることができる。座標系のとり方は通常、VORおよびDME局からの距離と磁方位による座標、あるいは緯度、経度による座標が用いられている。さらに、ウェイポイントに高度の要素を加え、希望コースを三次元空間内のコースとして設定することができる。PMS(performance management system)またはFMS(flight management system)のようなコンピュータシステムを装備した航空機では、この三次元のエリア・ナビゲーションが可能である。

〔11〕衛星航法(global positioning system) 全地球航法装置、全地球測位システム(GPS)ともいう。全世界を有効範囲とする衛星を利用した精密衛星航法システムであり、アメリカ国防総省が中心となり開発された。基本概念は、地球を周回する24個の衛星から4個以上の衛星を選択し、信号を受信することによりおのおのの衛星から距離を知ることができ、三次元の位置を得ることが可能となるものである。GPSの使用により、航空機は離陸から着陸まで単一の航法援助装置で飛行できる。また、得られる位置精度と速度精度のよさから、航路上の航空機の機数を増加させるFANS(future air navigation system)計画が進められ、アメリカではすでに実用化されている。日本では、国土交通省航空局が具体的導入計画を作成しており、ごく近い将来に実施段階に入る予定である(2002年3月現在)。

[川本文彦・青木享起・仲村宸一郎]


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改訂新版 世界大百科事典 「航法」の意味・わかりやすい解説

航法 (こうほう)
navigation

船,航空機などの移動体を,出発するある地点から目的とする他の地点に導く技術,またはその方法を航法という。航法が必要とされる理由は,第1に移動体を繰り返し同じ地点に導くためであり,第2に移動体を能率よく確実にしかも安全に導くためである。

 航法のもたなければならない基本機能は,移動体が通るのに望ましい経路である航路の設定,定められた航路を進むための針路および速力の設定,任意の時間の航路上の予定点からのずれを検出するための位置の決定および環境・外乱を考慮してのずれの修正(針路・速力の変更)に関する機能である。これらの機能は,移動体が通常の船,潜水船,潜水艦,航空機,宇宙船などのいずれであっても,精度の差はあるものの必要である。さらに要求される機能としては,移動体のおかれた環境に対する行動面からの適応性(例えば他の移動体との衝突回避とか地物との衝突回避機能)があげられよう。

古代の航法の基本は,一般には出発地からの視界内か,相対的位置のわかっている陸標が連続的に存在している範囲内と考えられている。このようなところでの航法の内容は,陸標や山並みの形状から自身の直観的な相対位置を求めることによって船の進み方を決めることが中心である。しかし古代においても,まったく陸地の見えないところでも航法は存在していた。そのよい例は,鳥の帰巣本能に基づく習性を利用したもので,陸地の見えないところで船から鳥を放ち,陸地の存在を示す小枝などをくわえて戻ってくる鳥の方向から陸地の方向を知る方法である。この方法は,ノアの箱舟の記述をはじめ,バイキングなどにも見られ,また《古事記》《日本書紀》の天鳥(あまのとり)船もこれと同じである。現代の戻ってくる電波を利用した方向探知と基本的には同一線上の技術といえよう。

 目的地の方向がわかれば,その方向に船を進めていくことによって,原理的には目的地に到着することができる。この原理に基づいての航法には,針路の決定が必要となるが,地中海では紀元前から,日の出,日没の方向により東西方向を知ったり,あるいは物体の太陽による影が正午を境として対称であることから南北方向を知ったりして,おおよその方位を決めることができていた。また夜間では星が東から西へと時間の経過とともに移動することを知って,これを針路の基準に利用していた。

 一方,天体の高度(測者と帆桁および天体の相対位置関係で知ったもの)から緯度を推定することは,前600年ころにはフェニキア人によっておぼろげながら知られており,1世紀の初めには星(おおぐま座,こぐま座)の高度とある地点の緯度とのおおよその対応はついていた。これによって,天体がある高度となるように船を移動させ,この高度を保持して目的地の方向に進むことにより,より確実に目的地に到達するという航法が確立していった。

 航法の基本機能である繰返性については,紀元前から経験則の集積である航路誌により,2点間の方向と距離(航走日数で表現されていた)の情報を得て,あまり確実性が高くはなかったが一応保たれていたようである。

 また針路と航走距離から推測位置を求めることも,コンパス(羅針儀)などの利用で一般化していった。このコンパスは,中国で指南針と呼ばれ,11世紀に航海用として用いられており,これがヨーロッパに伝えられたといわれている。コンパスの出現以前は,方位の基準として北極星や太陽などを用いていたので,天候や時刻に利用が左右されていたが,コンパスの出現で四六時中方位の基準を得ることが可能となった。そして13世紀になって今日の乾式コンパスと同様なものが作られるに至って,精度の高い方位,それに基づく推測位置が得られるようになった。しかし,この推測位置のみでは正確な船の移動を保証できないので,15世紀に北極星による推測位置のチェックが天文器械で行われ始め,これに伴って観測による緯度の決定が可能となったが,精度は1°単位であった。経度については18世紀になって,クロノメーターの出現で十分な精度で測定が可能となってきた。

 さらに18世紀後半,航海暦や六分儀の出現で,精度の高い緯度,あるいは経度が求められるようになり,19世紀中ごろにT.サムナーによる位置の線の発見があり,この方法が現在の位置の決定方法のもととなっている。
羅針盤

航法の中での重要な技術内容に自分の位置を決定する技術があるが,1回の観測によって直接位置を求める手段や方法はない。そこで,自身の位置を含む複数個の特定曲線,あるいは曲面を観測により求め,これらの共通部分を知ることで位置としているのが一般である。なお,ここでいう特定曲線,あるいは特定曲面は,それぞれ位置の線line of position,あるいは位置の面と呼ばれ,またこれらの基準となる座標系および原点のとり方によって使われ方が異なっているといえよう。

 一般には,位置の線は地表面の航法で用いられ,位置の面は,航空機や宇宙船の航法で用いられると区別されるが,航空機は比較的地表面に近いところを飛ぶので位置の線もよく用いられる。現実的に用いられている位置の線や位置の面の種類はあまり多くなく,表1に示したものがほとんどである。方位が一定な位置の線(面)は,平面上は直線として扱われ,立体的には平面として扱われている。この位置の線(面)は単に位置の決定に使用されるだけでなく,移動体に対する嚮導(きようどう)にも用いられている。距離が一定である位置の線(面)および距離差が一定である位置の線(面)についても方位のときと同様に扱われている。このうち距離が一定である位置の線(面)である円または球は,測距儀やレーダーによる距離はもちろんのこと,天体の高度,物標の仰角,2物標の夾角(きようかく)によっても得られるので,距離が一定であることに高度,仰角,あるいは夾角などが一定であることも含めている。

 次に位置の線(面)による位置の決定についてみてみると,おもなものは,次のようになる。

これは航法において位置を知るための古代からの基本的な方法である。現代でもコンパスによる針路と測程儀で測定した距離による位置の線との組合せで求める位置がもっとも多く利用されている。ただし外力の影響(船では海潮流および風,航空機では風の影響)があるため,位置の精度は一般的には高くなく,この方法での位置を推測位置として真の位置と区別している。この方位と距離による位置決定を一つのシステムで行えるのがレーダーである。また,一般には方位と距離による位置の決定とは考えられていないが,慣性航法もこの典型的な例といえる。慣性航法による位置決定の原理は,XYおよびZ軸の加速度を検出する加速度計により移動体の運動の加速度を検出し,それぞれを時間積分をして速度を求め,さらにもう一度時間積分して距離を求めるというものである。これによって出発点からのXYおよびZ軸方向の距離変化量が求められたこととなり,このことは出発点から三次元空間における方位と距離を定めたことになる。一般には地球表面上という制約のもとで利用されることが多いので,速度を角速度として処理することとなる。いずれにしても方位および距離が定まれば位置が計算処理で求められるが,慣性航法は連続的に位置を求められるという利点がある。

 なお,ここで述べた位置を求めるのに必要な計算は,出発点の位置と,方位および距離から目的地の位置を求めるものと同じである。これと逆に,2点の位置から方位(針路)および距離を求める計算を航法計算というが,単に航法と呼ぶ場合も多い。

方位による位置の線を複数用いて行う位置決定方法を交差方位法というが,これには地物によるものと電波によるものとがある。地物による交差方位法は,図1に示したように,移動体からの特定物標の方位を二つ以上測定し,それらの方位ごとに,特定物標の海図上の位置から反方位線を描き,それらの交点を自分の位置とする方法である。電波を利用する場合も,同様な手順で処理される。地物によるときは通常コンパスが方位測定に利用されるが,電波によるときは方位測定機(方向探知機)やレーダーが用いられる。また方位測定機とは原理的に異なるが,実務的には同様と考えられるものにコンソル方式がある。
慣性航法

二つ以上の点からの距離を測定し,それらによる位置の線(円または球面)の交わりによって位置を求めるのが距離と距離による位置決定法である。この方法の例としては,天測による方式,レーダーによる方式(距離測定装置(DME)を用いる方式を含む)があげられる。

 天測による方式を図2-aによって説明する。地球上の1点O1に測者がいるものとする。天体の高度を測定するときは水平線HH′を基準として,天体の見える方向の仰角θを求める。このθを天体の高度というが,ある天体を仰角θで測定できる点は,地球中心と天体とを結んでできる直線が地表面と交わる点O(天体の地位という)を中心に無数あり,それらは一つの線上に位置する。この線が位置の線となる。ここで地球を球とみなせば,位置の線上の任意の点(O1,O2,O3,O4およびO5)と地球の中心を結ぶ直線と,地球の中心を通り天体の地位と地球の中心を結ぶ軸に垂直な平面とは,角度θで交わっていることがわかる。別の表現を用いれば,天体の地位を北極とし,地球の中心を通る平面を赤道面としたとき,θを満足する位置の線に相当するのが等緯度圏である。同じ緯度圏上の点は,赤道,または極から一定の距離だけ離れている。したがって位置の線上の任意の点は,天体の地位から等距離の特性をもっていることになる。他の天体によって,別の位置の線を求めれば,これと前の位置の線との交点が位置になる(図2-b)。一般には,三つ以上の天体を観測して得られる三つ以上の位置の線の交点として位置を決定している。

2定点からの距離の差の一定な点の軌跡が双曲線となることを利用したもので双曲線航法と呼ばれる。この方式では位置の線として双曲線(または双曲面)を用い,二つの双曲線の交点によって位置を決めている。基本的には,位置の線の双曲線は,二つの電波の発信局からの到達時間差によって得ることができるが,現在の主流は到達電波の位相差を利用したものである。具体的には,時間差によるロラン方式,位相差によるデッカ方式,オメガ方式,デクトラ方式,デルラック方式などがある(ロランC方式は時間差と位相差の両方を用いている)。デッカ方式による位置決定の概念図を図3に示す。デッカ方式では,一つの主局に対し三つの従局が主局を取り囲むように配置されており,主局と従局によって3組の双曲線群を作っている。位置は,2組の主・従局からの電波の位相差を測定して,その位相差に対応する二つの双曲線をそれぞれの主・従局の組に対して決定し,それらの交点として求める。

 人工衛星による航法方式の一つであるNNSS(Navy Navigation Satellite Systemの略)は,人工衛星からの電波のドップラー周波数を計数することで,一定の時間間隔の人工衛星位置と受信位置(移動体位置)との距離差を求めるもので,距離差の求め方は異なるが,この距離差によって得られる双曲面を利用して位置決定を行っている。
航行衛星 →電波航法

航法はその方法によってさまざまな形に発展分化してきており,慣例的に,地文航法,天文航法,電波航法,あるいは自立航法などの名で呼ばれている。これらの区分の基準は明示されないまま使用されているので,基準とともに示したのが表2である。地文航法は,地物からの情報を光を介して得,それによって移動体の移動を行うもので,基本は,交差方位法や視覚による移動体の地物に対する相対位置を求めることといえよう。船などでは沿岸での航法(沿岸航法という)の中心的な役割をこの地文航法にもたせている。天文航法は天測航法ともいい,天体の高度を測定して位置を決定することに基づいて,船および航空機などを移動させるときに用いるものである。電波航法は,基準点(局)から発信される電波を移動体において受信して位置を求めることを基本として,移動体を目的地に導くものである。1920年前後に無線航法の名称で利用されて以来,着実に利用度が高まり,現在は航法の中心的な存在となっている。最後の自立航法は,用語としては十分熟しているとはいいがたいが,移動体外の外的基準を必要としない航法で,基本的には針路と距離,あるいは距離と距離による位置決定をもとに,移動体を移動させるものである。古くからある針路と距離(航走日数)とによって位置を推測する方法と原理的には同じであることから,現在でも推測航法と呼ばれているが,実体は測定値の積分によっているので,これによって求まる位置は測定位置といえる。具体的には,針路と速力(距離)によるもの,慣性航法によるものなどがあげられる。
執筆者:

航空機の場合は地表の障害物を避けるため,また同じコースを他機と高度差をとって併行,あるいは交差,逆行して飛行するため,さらに,とくにジェット機は高々度に上がるほど燃料消費が少なくなるなどのこともあり,三次元の位置,すなわち高度を含めた空間での位置の決定が重要な要素となる。航空機は移動速度が速く航法諸元の算出は短時間になされる必要があり,限られた燃料内に着陸をしなければならないため,船などとは異なるきびしい制約がある。

 地上無線局からの電波が到達する距離内では,各電波の種類に応じた無線航法(NDB,VOR,DMEなどの利用およびデッカ,ロラン,オメガなどによる方式)がある。洋上の長距離では,従来,双曲線航法,天文航法,等圧線航法や極地帯のグリッド航法などが用いられてきたが,短時間の正確な測定・算出には航空士の高い技術や熟練を必要とした。コンピューターを利用して航法諸元を即座に算出する自立(自蔵)航法としては当初,電波を機上から地表に発射し,反射してくる電波のドップラー効果による周波数変化から対地速度,飛行データを求めるドップラー航法が利用されたが,より性能のよい慣性航法装置の開発とともに,現在では慣性航法が長距離航法の主流となっている。また,本来,船を主体として開発されたオメガを航空機用にし,測定,計算をコンピューターで自動的に行い表示する新しい無線航法も一部ではすでに使われ始めている。

 コンピューターが航法装置に利用されるようになって,従来,ある特定の地点から定められたコースに沿って飛行する線の航法に代わるものとして,任意の地点からコースを飛行できる面の航法(エリア航法)システムが開発され,高度の要素を加えた三次元の位置算出,すなわち航空路上の高度変更はもとより,離陸上昇,降下着陸に至る過程のもっとも適切な高度変化を求める方式(三次元エリア航法)が用いられている。また,近い将来,自動出力制御装置との連動による速度調節によって,特定の位置の通過時刻を調整し,効率的な交通の流れを計る四次元航法も実現しよう。
エリア航法
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「航法」の意味・わかりやすい解説

航法
こうほう
navigation

船舶や航空機などの位置,針路,航程を決定して運航させるための科学。初期の船乗りは,風向きを判断しながら陸上の目印になるものをたどって航路を定めた。陸地が見えなくなる沖まで航海に出た古代フェニキア人(→フェニキア)やポリネシア人は,空の星を頼りに航路を定めた。1100年頃に中国人が初めて使用した羅針盤(→コンパス)は,精度は限定的とはいえ,特に荒海で常に目標の方向を示す初の航行援助装置となった。現代の羅針盤はジャイロスコープ(回転儀)で安定化され,船舶の動きに影響されないようビナクル(羅針箱)に収納されている。また,かつて航行速度は,ロープに結び目を一定間隔でつくってリールに巻きつけ,このロープの先にくくりつけた丸太を船から水中に投下して測定した。砂時計の砂が落ちる間,丸太が流されるにしたがって伸びるロープの結び目の数を記録して,ノット(1時間に 1海里の速度)単位で速度を算出していた。海図も航海用の主要な道具である。海図に詳細に示された既知の場所との位置関係を計算して船位を決定する。緯度を知るための最も初期の器械は象限儀(四分儀)で,北極星や太陽の南中高度を観測することにより緯度を決定した。そのほかに初期の装置として六分儀アストロラーブがある。17~18世紀の航海術で活用された経度は,クロノメータ(経線儀)と年間の恒星の位置を示す星表(→恒星目録)を用いて測定された(→天測航法)。20世紀にはラジオビーコン(無線標識)を衛星中継することで航空機や船舶の位置が確認できるようになった。推測航法にはジャイロスコープおよびコンピュータによる船舶の加速の測定値から得た船首の方向と航行速度に関する精測の履歴を用いる。(→航空航法全地球測位システム

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百科事典マイペディア 「航法」の意味・わかりやすい解説

航法【こうほう】

船や航空機が,ある地点から他の地点まで安全に航行するために,現在位置を確定し航行すべき針路や距離を定める方法。船の場合を航海航法,航空機の場合を空中航法というが,原理的にはほぼ同一である。推測航法地文(ちもん)航法天文航法電波航法などがある。第2次大戦後は電波航法施設の発達が著しく,これに依存することが多い。そのほか航空機では,南極や北極地帯で磁気コンパスを使えない場合のグリッド航法,空中の気圧変化を測定し最大の追風を利用する等圧面航法など,多くの特殊航法技術が用いられてきた。→慣性航法
→関連項目航海計器航空

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の航法の言及

【航海】より

…航海という言葉のもつ意味は,船で海を航行することであり,また出発点から目的地までの海を渡ることである。この航海に対応する英語のnavigationの意味は,語源から見ると船を動かすこととか導くこととなるが,ほとんど航海との差はないといってよいだろう。しかしnavigationに対応する日本語には航海と航法があるので,逆に航海と航法を区別しなければならないこととなる。…

【航海】より

…この航海に対応する英語のnavigationの意味は,語源から見ると船を動かすこととか導くこととなるが,ほとんど航海との差はないといってよいだろう。しかしnavigationに対応する日本語には航海と航法があるので,逆に航海と航法を区別しなければならないこととなる。両者に判然たる差があるわけではないが,強いていえば,航海技術あるいは技術的に見た航海に対して航法という言葉が用いられている。…

※「航法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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