日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
荒地(T・S・エリオットの長編詩)
あれち
The Waste Land
アメリカ生まれのイギリスの詩人T・S・エリオットの長編詩。1922年刊。全編433行。「死者の埋葬」「チェスの勝負」「火の説教」「水死」「雷が告げたこと」の5部からなり、第一次世界大戦後のヨーロッパに生じた精神的混迷と虚無の諸相を描く。一貫した筋(すじ)はないが、ロンドン市中の情景、上層下層の人々の自堕落な生活、むなしい会話の交錯、観察者の感想など断片的な章句を脈絡なしにつなぎあわせて、陰鬱(いんうつ)な都会の心象風景を描き、聖書、ダンテ、ボードレール、ウパニシャッドなど、多様な引用を随所に挿入して、過去と現在を比較している。だが詩人の意図は現代社会の風刺や批判だけにあるのではない。中世の聖杯伝説や古代の豊穣(ほうじょう)神話を援用して、植物神埋葬の儀式がやがて春の再生をもたらすように、過去の伝統が不毛の現在に浸透し、生命の救済と復活をもたらすことを願ってもいる。ジョイスの『ユリシーズ』(1922)などとともに、イギリスのモダニズム文学の代表作の一つである。
[高松雄一]
『福田陸太郎・森山泰夫注解『荒地』(1978・大修館書店)』
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