落着・落付(読み)おちつく

精選版 日本国語大辞典 「落着・落付」の意味・読み・例文・類語

おち‐つ・く【落着・落付】

[1] 〘自カ五(四)〙
① 移り動いていたものが、ある場所にとどまる。
(イ) 旅などで、めざす所に行き着く。また、居場所がきまってそこにとまる。
※浜松中納言(11C中)二「若君具したてまつりて、里にぞいそぎおちつきにける」
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二「東風子の胃の中にカステラが落ち付いた時であった」
(ロ) 住居や職などがきまって長くそこにとどまるようになる。
浮世草子・好色万金丹(1694)一「色里近き順慶町といふ所におちつきぬ」
② 高い所から落ちて地面に達する。
※宇治拾遺(1221頃)一四「此鳥のおちつかん所をみてまゐれ」
物事安定した状態になる。
(イ) 事件などがしずまる。物事が解決する。落着(らくちゃく)する。
史記抄(1477)一六「罪が備具て落ついたほどに磔にするぞ」
(ロ) 心配や疑問が消えて心がやすまる。安心する。得心する。
※羅葡日辞書(1595)「Vagor〈略〉ココロガ ドチニモ vochitçucazu(ヲチツカズ)
(ハ) 揺れ動いたりしていたものがしずまる。また、変わり方の激しかったものが、定まった状態になる。「天候がおちつく」「相場がおちつく」
(ニ) 発作がおさまる。
落語・梅見の薬鑵(1893)〈三代目三遊亭円遊〉「銅(あかがね)を舐(なめ)ますと癪が直(すぐ)沈静(オチツク)んで御座いますが」
判断議論、相談などが、最後にある点にゆきつく。帰着する。帰する。「中止ということに話がおちつく」
日葡辞書(1603‐04)「クジガ イッパウニ vochitçuita(ヲチツイタ)
⑤ 態度、ことばなどが軽々しくなくどっしりとしている。物事に動じないように見える。沈着である。ゆうゆうとしている。
※虎寛本狂言・居杭(室町末‐近世初)「『何事じゃ』『何事とは落着た。〈略〉なぜに打擲召れた』」
表現色合い音色などが調和がとれていて、穏やかである。はででなく適度である。
※史記抄(1477)三「取周之精者也と云字が、うまうもをちつかぬぞ」
草枕(1906)〈夏目漱石〉七「音色の落ち付いて居る所から察すると」
[2] 〘他カ下二〙 ⇒おちつける(落着)

おち‐つき【落着・落付】

〘名〙
① 移り動いていたものがとどまること。また、その場所。たどりつく所。行く先
※玉塵抄(1563)二九「下の句をのせぬほどにをちつきしれぬぞ」
② 正式の来訪者に最初に出す食事。婚礼のとき、嫁が婚家についてまず食べる軽い食事や吸い物。→落着雑煮(おちつきぞうに)
③ 宿屋、会場などに行き着いてまず飲食すること。また、その飲食物。転じて、茶を飲む時にそえる菓子類。茶うけ。
※新撰六帖(1244頃)二「東路やむまやむまやのおちつきに人もすすめぬ君がわりなき〈藤原光俊〉」
④ 住居や職などがきまって生活が安定すること。
※浮世草子・傾城色三味線(1701)鄙「まさかの時は見捨じとの詞をたのみに落着(オチツキ)慥と安堵して」
⑤ 事件などが治まること。物事の解決。落着(らくちゃく)。「社会がおちつきをとりもどす」
⑥ 心配、疑問などが消えて心が安まること。また、態度やことばなどがどっしりしていること。物事に動じないように見える様子。
※俳諧・発句題叢(1820‐23)秋「落着の見えて餌拾ふ小鳥哉〈鶯笠〉」
⑦ 判断や議論などが最後にある点にゆきつくこと。
※女工哀史(1925)〈細井和喜蔵〉一六「容易にその説の落ち着きを見ないのであるが」
⑧ ゆれ動いたりしていたものがしずまること。特に、相場が激しく変動した後に安定すること。〔新時代用語辞典(1930)〕
⑨ 物事のおさまりぐあい。物のすわりぐあい。安定。
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉三「何処(どこ)か仮衣(かりぎ)をしたやうに、恰当(そぐ)はぬ所が有って、落着(オチツキ)が悪かったらう」
⑩ 表現、色合いなど調和がとれて穏やかな様子。「おちつきのある色」

おち‐つ・ける【落着・落付】

〘他カ下一〙 おちつ・く 〘他カ下二〙
① 物事を安定した状態にする。物や体をある場所にすえる。
※虎明本狂言・祇園(室町末‐近世初)「太こもちにする、そのやくにおちつけてひっこむなり」
※灰燼(1911‐12)〈森鴎外〉一五「そこに腰を落ち着けた」
② 乱れた心などをしずめる。
※人情本・英対暖語(1838)二「よく気を落着(オチツケ)て、其証古を見様」
③ でこぼこなものを平らにする。
※改正増補和英語林集成(1886)「ミチヲ ochitsukeru(オチツケル)
④ 判断、議論などがある点にゆきつくようにする。きめる。さだめる。
※浮世草子・好色一代女(1686)四「御隠居の跡を我物に書置させましてすゑずゑ世わたりと、分別おちつけて行程に」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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