葛根湯(読み)かっこんとう

精選版 日本国語大辞典 「葛根湯」の意味・読み・例文・類語

かっこん‐とう ‥タウ【葛根湯】

〘名〙 風邪薬として知られる代表的な漢方薬。葛根、麻黄、生姜(しょうが)などからなる。〔全九集(1566頃)〕
洒落本・風俗八色談(1756)一「風や麻疹のたぐひが流行(はやる)と。敗毒散。正気散升麻葛根湯(カッコントウ)を一度に合せ置て」 〔本草綱目‐草部・葛・発明〕

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デジタル大辞泉 「葛根湯」の意味・読み・例文・類語

かっこん‐とう〔‐タウ〕【葛根湯】

漢方の薬方の一。葛根麻黄まおう生姜しょうきょう大棗たいそう桂枝けいし甘草かんぞうなどを調合したせんじ薬。感冒や肩こり中耳炎湿疹しっしんリウマチなどに用いる。

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改訂新版 世界大百科事典 「葛根湯」の意味・わかりやすい解説

葛根湯 (かっこんとう)

漢方医学の原典として尊重される《傷寒論》に収載されている漢方方剤の一つ。葛根,麻黄,桂枝,生姜(しようきよう),甘草,芍薬(しやくやく),大棗(たいそう)の7種の生薬からなる処方である。その配合は,第9改正日本薬局方では4g,3g,1g,3g,2g,2g,2gを1包とし,1日1包を服用するのが常用量とされていた。この処方は,風邪の初期によく用いられる桂枝湯を基本として,これに葛根と麻黄が加えられたものと解釈されている。風邪などで頭痛,発熱し自然発汗がなく悪寒を伴い,首から肩にかけて筋肉がこった状態を目標に用いられる。《傷寒論》には〈太陽病,項背強几几,無汗悪風,葛根湯主之〉と記載されており,風邪の場合だけでなく,いろいろの原因で上述のような状態になった急性発熱性疾患に用いうるが,逆に,風邪の場合でも上記のような状態でない場合に用いても効果を望めない。とくに自然発汗,盗汗(寝汗)があるもの,虚弱な体質の者が服用すると,過度の発汗,胃腸障害などを起こし,体力を消耗して症状を悪化させることがあるといわれる。落語にも,未熟な漢方医がむやみに用いる薬として,葛根湯がこっけいに扱われている出し物がある。それほど一般によく知られた漢方処方であるが,処方の根拠となる漢方理論は単純ではない。主薬の葛根は,マメ科クズの周皮を除いた根を乾燥し,角切りまたは板状にしたもので,デンプンのほかにダイジンdaidzinなど各種のイソフラボン誘導体を含む。麻黄は,エフェドリンとその類縁化合物を含み,交感神経興奮様の強い薬理活性を有する。適応症は,感冒,流感,急性熱性伝染病の初期,麻疹,扁桃炎など。
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病院でもらった薬がわかる 薬の手引き 電子改訂版 「葛根湯」の解説

葛根湯

(大杉製薬、大峰堂薬品工業、クラシエ製薬、クラシエ薬品、康和薬通、小太郎漢方製薬、三和生薬、ジェーピーエス製薬、太虎精堂製薬、高砂薬業、ツムラ、帝國漢方製薬、帝國製薬、東洋薬行、本草製薬、松浦薬業)


 自然発汗がなく、頭痛、発熱、悪寒おかん、肩こりといった症状のみられる、比較的体力もあり、胃腸もじょうぶな人におこった病気の治療薬です。対象となる病気には、感冒かぜ)、鼻かぜ熱性疾患の初期炎症性疾患結膜炎角膜炎中耳炎扁桃炎へんとうえんリンパ節炎)、肩こり上半身の神経痛じんましんがあります。


①体力が極端に衰弱している人、著しく胃腸の弱い人、循環器の病気(狭心症や心筋梗塞しんきんこうそくなど)の治療を受けている人や、かつて治療を受けたことのある人、ほかの薬を服用している人は、あらかじめ医師に報告してください。


②副作用として、食欲不振、吐き気、不眠などの症状をおこすことがあります。


③過敏症状(発疹ほっしんやかゆみなど)が現れたら、服用を止め、すぐ医師に報告してください。


④長期間服用しているときに、血圧の上昇、むくみ、体重増加、脱力感肝機能障害、黄疸、手足のけいれん麻痺まひなどの異常を感じたら、服用を中止し、すぐ医師に報告してください。


⑤指示された期間服用しても症状が改善しないときは、医師に報告してください。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「葛根湯」の意味・わかりやすい解説

葛根湯
かっこんとう

代表的な漢方処方の一つ。中国の後漢(ごかん)のころ(2世紀後半)、長沙(ちょうさ)(湖北省)の医師であった張仲景によってまとめられたといわれる『傷寒論(しょうかんろん)』に収載され、古来から繁用されてきた。処方構成は次のとおりである(括弧(かっこ)内は基源となる植物)。葛根(カッコン)8グラム、麻黄(まおう)(マオウ)・大棗(たいそう)(ナツメ)・生薑(しょうきょう)(ショウガ)各4グラム、桂枝(けいし)(ニッケイ)・芍薬(しゃくやく)(シャクヤク)各3グラム、甘草(かんぞう)(カンゾウ)2グラムを基本とし、症状により薬量を増減したり、他の薬物を加味する。煎剤(せんざい)として用い、煎じるときは、葛根と麻黄を先に煎じてから他の薬物を加え煎じるのが正法であるが、今日では同時に煎じることが多い。『傷寒論』のなかの太陽病中篇(へん)には、「首筋から背中にかけての筋肉が堅くこわばり、汗が出ずに寒気がする者には葛根湯を与えると治る」と書かれている。このような症状はインフルエンザをはじめとする急性熱性伝染病の初期に現れることが多いために、本処方は一般にはかぜ薬として名高い。しかし、葛根湯は応用範囲のきわめて広い処方で、目、鼻、耳、口内、および咽頭(いんとう)などの炎症のほか、肩こり、神経痛、夜尿症、高血圧、下痢、皮膚病、化膿(かのう)性炎症の初期などに用いられる。難病では、とくに蓄膿症に用いられることが多く、通常、辛夷(しんい)(モクレン)、川芎(せんきゅう)(センキュウ)、石膏(せっこう)などが加味される。

[難波恒雄・御影雅幸]

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百科事典マイペディア 「葛根湯」の意味・わかりやすい解説

葛根湯【かっこんとう】

漢方処方で古くから風邪その他諸種の症状に用いられる。葛根,麻黄,大棗(たいそう),生姜(しょうきょう),芍薬(しゃくやく),桂皮(けいひ),甘草を混じて煎剤(せんざい)にする。発熱,悪寒(おかん)があって汗なく,後頭部〜背中がこり,さらに頭痛,関節痛があり,尿が少ないなどの症状に用いる。桂皮,麻黄は血管を拡張し血行を盛んにして発汗させる力が強く,葛根は後頭部〜背中の緊張をなおす効力がある。初期に用いることが大切で胃腸の弱いものは時に吐き気,食欲不振をきたすことがある。
→関連項目風邪薬カンゾウ(甘草)漢方薬クズ(葛)桂皮

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「葛根湯」の意味・わかりやすい解説

葛根湯
かっこんとう

漢方方剤の一つ。葛根,麻黄,桂枝,生姜,甘草,芍薬,大棗の7種の生薬から成る。解熱,鎮痛,消炎などの作用がある。張仲景の編著『傷寒論』にも載っている処方で,落語にも扱われるほど一般にはよく知られた漢方方剤である。

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デジタル大辞泉プラス 「葛根湯」の解説

葛根湯(かっこんとう)

漢方薬のひとつ。風邪の初期症状などの症状に処方される。

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