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蟹工船ブーム かにこうせんぶーむ

知恵蔵の解説

蟹工船ブーム

戦前のプロレタリア文学を代表する小林多喜二の小説『蟹工船』が、2008(平成20)年1年間だけの売り上げが、各社の文庫版・マンガ版などの総計で80万部に迫るベストセラーになった現象。戦前の資本主義時代の労働者を描く小説が現代に復活した理由は、新自由主義経済で格差が拡大し、貧困層の労働実態・生活実態は戦前と変わらないではないかと、当事者たちが感じているためと指摘されている。
オホーツク海でカニを捕獲し缶詰を製造する船で過酷な労働に従事する労働者の闘いを描いた『蟹工船』は、1929(昭和4)年に雑誌「戦旗」に発表されたが、共産主義思想を宣伝するものとして掲載雑誌は発売禁止処分を受け、著者の小林多喜二は4年後の33年、特高警察に逮捕され、虐殺されている。『蟹工船』の単行本は、雑誌発表と同じ年に戦旗社から発行されたが、発禁処分を受け、翌年、発禁の該当箇所を削除した普及版が発行され、半年の間に3万5千部が売れた。1954(昭和29)に刊行された新潮文庫版の『蟹工船・党生活者』は、50年間に100万部の売り上げを記録し、最近は年間5千部の売れ行きだったが、2008年は1年間だけで50万部に迫る売り上げとなった。きっかけは、08年1月の毎日新聞での作家雨宮処凛が作家高橋源一郎との対談であった。フリーター、日雇派遣、ネットカフェ難民などの集会やデモに参加し、ワーキングプアの実態を知っていた雨宮が、『蟹工船』の描く世界が現在のフリーターの状況と似ていると発言したのに対し、高橋も同意したのだった。この対談に注目した上野駅構内の書店が新潮文庫版を150部仕入れて完売したのに続き、各大型書店が『蟹工船』特集コーナーを設け、5月には、読売新聞を皮切りに、朝日、毎日、産経、日経の全国紙が大きく取り上げ、蟹工船ブームが一気に全国化した。文庫版は、新潮文庫以外に、岩波文庫、角川文庫なども刊行されており、マンガ版・劇画版は、ブームになる前の06年から刊行されていたものも含め、数点が刊行されている。また、「週刊コミックバンチ」(新潮社)での劇画の連載も始まり、1953(昭和28)年に制作された映画「蟹工船」(監督・山村聡)も、2007年にDVD化されている。不況の深刻化とともに、蟹工船ブームはしばらく続きそうだ。

(高橋誠  ライター / 2008年)

出典|(株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について | 情報

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