被・蒙・冠(読み)かぶる

精選版 日本国語大辞典 「被・蒙・冠」の意味・読み・例文・類語

かぶ・る【被・蒙・冠】

[1] 〘他ラ五(四)〙 (「かがふる(被)」の変化した語)
① あるものを他のものでおおう。特に、笠、帽子、面などで頭や顔の表面をおおう。また、蒲団や着物を頭の方までかけておおうことにもいう。かむる。〔観智院本名義抄(1241)〕
滑稽本浮世床(1813‐23)初「をつな頭巾をかぶって占者のやうな形で頭陀袋をぐっと首にかけて」
② (水、ほこり、粉などを)上から浴びる。また、作物などが上まで水につかることにもいう。
※滑稽本・七偏人(1857‐63)五「丼鉢を倒して冠りし小麦(うどん)の粉に、天窓(あたま)や顔は勿論の肩から胸は真白にて」
③ (比喩的に用いて) 身に受ける。こうぶる。こうむる。
(イ) 恩恵福徳、位階など、好ましいものを受ける。
※天理本金剛般若経集験記平安初期点(850頃)「濫りに天恩を荷(カフリ)、喜びぬ所以
(ロ) 傷、災禍、罰など、好ましくないものを受ける。
※龍光院本妙法蓮華経平安後期点(1050頃)二「或は当に堕落して火に焼かるることを為(カフ)らむ」
(ハ) 名称、あだ名などをつけられる。
※江戸から東京へ(1923)〈矢田挿雲〉九「向島の二字を冠(カブ)らせた町名
④ 負担としてしょいこむ。損な役を引き受ける。責任を負う。
雑俳・大黒柱(1713)「まふけるも又かぶるのも古道具」
⑤ 雑俳などで、前句や題に使われた語や文字を付句の初めにのせる句法。地口などにもいう。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「何の道にも式のあるもので〈略〉点取地口となれば冠(カブッ)た文字は点にならぬと申す」
⑥ 勢いよく上へ持ちあげる。ふりかぶる。
日本橋(1914)〈泉鏡花〉三二「赫と成った赤熊が、握拳を被(カブ)ると斉しく、かんてらが飛んで」
[2] 〘自ラ五(四)〙
① (「毛氈(もうせん)をかぶる」という芝居の語から) 主人や親などに対して面目ないことをしでかす。主人や親の家、また、ある場所から追い出される。しくじる。
洒落本辰巳之園(1770)「あの子はねヱ、七さんと色をしてねヱ、かぶって居なさりやす」
② だまされる。いっぱい食う。
※浮世草子・世間胸算用(1692)三「其次の玉むし色の羽織は牛涎屋(にかわや)を、どこの牛の骨やらしらいで人のかぶる衣装つき」
③ (終わると観客が総立ちになってほこりが立つので手拭をかぶったところからという) 一日の芝居や演芸などが終わる。終演になる。はねる。〔通人語辞典(1922)〕
※夢声半代記(1929)〈徳川夢声〉サットー物語「其夜、閉場(カブ)ってから、楽長と小生フラスコの尻を焼いてると」
④ 大入り満員になることをいう、寄席芸人仲間などの語。
※澪(1911‐12)〈長田幹彦〉一「一座が小樽の花園座でしきりにかぶってゐる最中であった」
⑤ 写真で、フィルムの欠陥や露出過度などで画面がくもってぼやける。
⑥ 重なる。ダブる。「客層がかぶる」
⑦ (動詞の連用形に付けて補助動詞のように用いる) …することに失敗する。「言いかぶる」「買いかぶる」「踏みかぶる」
[語誌]奈良時代、平安時代初期に見える「かがふる」が「かうぶる」を経て成立した語。平安時代後半期以降、漢文訓読語として、和文語「かづく」に対応する語として用いられた。和文資料の「かぶる」は、いずれも神仏の恵みや徳、宣旨といった抽象的なものを受ける意で用いられ、布などでおおうといった具体的事例もある訓読文での意味と異なり、限定的である。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android