視神経脊髄炎(読み)シシンケイセキズイエン

デジタル大辞泉 「視神経脊髄炎」の意味・読み・例文・類語

ししんけい‐せきずいえん【視神経脊髄炎】

視神経脊髄重度の炎症が繰り返し起こる自己免疫疾患抗アクアポリン4抗体という自己抗体が脳や脊髄のアストロサイトを攻撃することによって起こる。視力障害下肢の麻痺、疼痛などを伴う。デビック病NMO(neuromyelitis optica)。

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内科学 第10版 「視神経脊髄炎」の解説

視神経脊髄炎(脱髄疾患)

概念
 おもに脊髄と視神経に重度の炎症病変を繰り返す疾患であり,E. DevicとF. Gaultによりその概念がまとめられたためDevic(デビック)病ともよばれ,病態として多発性硬化症(MS)との異同が常に議論されてきた.近年多発性硬化症患者にはみられないが視神経脊髄炎の患者血清中にのみ特異的にみられる自己抗体(NMO-IgG)が発見され,しかもその対応抗原は中枢神経における主要な水チャネルであるアクアポリンAQP)4と判明した.また,そのAQP4抗体の存在が視神経脊髄炎の病態に深くかかわっていることやアストロサイトを主体とする病変が示され,現状では視神経脊髄炎は多発性硬化症と異なる疾患と考えられる.
疫学
 多発性硬化症と異なり視神経脊髄炎は白人以外の人種に比較的多くみられており,わが国では中枢神経系の炎症性脱髄疾患の20~30%を占めている.その他,アフリカ系ブラジル人,インド人や中国人でもその15~35%を占めるが,欧米人では1%以下とされている.女性にきわめて多く発症し,男性の約9倍である.平均発症年齢は39歳であり,多発性硬化症に比べて高齢の発症である.
病因
 おもに視神経と脊髄を傷害する再発性の炎症性疾患であるので,従来から多発性硬化症の一病型とも考えられてきた.しかし,近年視神経脊髄炎に特典的な血清NMO-IgG抗体の存在が明らかとなり,多発性硬化症と異なる病態を示す疾患と考えられている.このIgG抗体は中枢神経のアストロサイトに発現するAQP4を対応抗原とすることが明らかにされている.免疫組織化学的には,多発性硬化症やほかの炎症性疾患病変では認められないAQP4免疫染色性の欠失とアストロサイトの骨格蛋白であるGFAPの欠失が病変部で認められており,病変の主体はアストロサイト傷害と考えられている.
病理
 視神経と脊髄に重篤な炎症性病変を示す.脊髄では白質よりもむしろ灰白質が侵され,壊死性変化や空洞形成を示す病変が上下に長く連なっている.病変部ではアストロサイトの変性に加えて髄鞘や軸索が侵されグリア線維形成は多発性硬化症に比べてきわめて少ない.また血管増生や血管壁の硝子状変化,それに血管周囲には好中球や好酸球を含む単核細胞浸潤が認められる.
臨床症状
 明らかな発症の誘因はないが,単相性の視神経脊髄炎ではときに先行する感染症が認められる.さまざまな中枢神経症状を繰り返す多発性硬化症と異なり視神経炎や脊髄炎をおもな症状として繰り返すのが特徴である.前駆症状として難治性のしゃっくり(吃逆 )や悪心をきたすことがある.
 初発症状は視神経炎が最も多く,視力低下や視野欠損が急性に発症し,ときに両側性に障害をきたすことがある(視交叉病変のことが多い).多発性硬化症と比べて障害の程度は強く,失明をきたすこともまれでない.脊髄炎も障害の程度が強いことが多く,横断性脊髄炎をきたすことも少なくない.病初期には脊髄病変レベルに一致する疼痛が生じ,その後数時間で脱力や感覚障害それに膀胱直腸障害が進行する.感覚障害レベルは明瞭であり,しばしば帯状の知覚異常を示す.慢性期には四肢の一部に異常感覚を伴ったテタニー様の強直性痙攣(有痛性強直性痙攣 painful tonic seizure)がみられることがある.
検査成績
1)血液検査:
視神経脊髄炎に疾患特異性がきわめて高い自己抗体のAQP4抗体が患者血清中に認められる.その他,患者血清中には抗核抗体,抗DNA抗体,p-ANCA,抗カルジオリピン抗体および抗甲状腺抗体などの自己抗体が高率に存在する.
2)髄液検査:
多発性硬化症に比べて細胞増加(>50/μL,ときに好中球優位となる)や髄液蛋白値の上昇の程度と頻度は高い.しかし,IgGインデックスは正常でありOBは通常陰性である.
3)MRI検査:
急性期には脊髄は腫脹し,病変部はT1強調両像で低信号,T2強調で高信号域として描出される(図15-9-8).病変は多くは3椎体以上の長さであり,横断面では中心部の灰白質の変化が強い.症例によっては頸髄から腰髄まで連続した病変がみられることもある.難治性しゃっくりが続く症例では延髄中心管に病変が認められることが多い.
診断
 基本的に視神経炎や脊髄炎を繰り返し,ほかの中枢神経の症候が少ないのが視神経脊髄炎の特徴であるが,症例によっては症候上やMRI上で視神経や脊髄以外の中枢神経病変を示す場合もある.診断基準としては視神経脊髄炎診断基準(2006年改訂)(表15-9-5)が用いられる.
経過・予後
 視神経脊髄炎の概念は従来から混乱してきたが,経過が単相性であって視神経炎と脊髄炎が短期間の間に連続性に発症する単相性視神経脊髄炎とこれらの症候が再発と寛解を繰り返す再発性の視神経脊髄炎の病型があると考えられる.大多数が再発性の視神経脊髄炎であり,わが国では以前は視神経脊髄型MS(OSMS)とよんでいた.再発性視神経脊髄炎の平均年間再発回数は約0.9回とされている.多発性硬化症に比べると視神経と脊髄の障害の程度は強く,失明に近い高度の視神経障害など重度の神経後遺症を残しやすい.
治療
 急性増悪期の治療としては1~2クールの副腎皮質ステロイドパルス療法が行われる.1クールはメチルプレドニゾロン1 gを3日問点滴静注が行われ,その後副腎皮質ステロイドは経口投与にて漸減していく.副腎皮質ステロイドパルス療法が効果を示さない場合は血漿交換を試みる価値がある.再発抑制には少量の副腎皮質ステロイドの長期投与が有効である.欧米においてはリツキシマブ(CD20モノクロナール抗体)やアザチオプリンと副腎皮質ステロイドの併用が有効との報告がある.多発性硬化症の再発抑制に有効とされているインターフェロン-βは視神経脊髄炎には無効あるいは増悪を示すとの報告があるので用いるべきでない.慢性期のNMO患者では痙性麻痺による歩行障害,排尿便障害および有痛性強直性痙攣で悩むことが多い.痙性麻痺に関しては抗痙縮薬の投与を行う.有痛性強直性痙攣に関してはカルバマゼピン(1日量100~400 mg)あるいはフェニトイン(1日量100~300 mg)などが有効である.[糸山泰人]
■文献
Compston A, et al eds: McAlpine’s Multiple Sclerosis, 4th ed, Churchill Livingstone Elsevier, Philadelphia, 2006.
糸山泰人:変わりつつある疾患の概念-視神経脊髄型多発性硬化症(OSMS)と視神経炎(NMO)-.Annual Review神経,2008: 238-245, 2008.
Misu T, Fujihara K, et al: Loss of aquaporin 4 in lesions of neuromyelitis optica: distinction from multiple sclerosis. Brain, 130: 1224-1234, 2007.
Vinken PJ, Bruyn GW, et al eds: Handbook of Clinical Neurology: Demyelinating Disease 47, Elsevier Science Publishers, Amsterdam, 1985.

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六訂版 家庭医学大全科 「視神経脊髄炎」の解説

視神経脊髄炎
ししんけいせきずいえん
Neuromyelitis optica
(脳・神経・筋の病気)

どんな病気か

 神経のなかでも主に視神経と脊髄(せきずい)を繰り返し障害する病気で、以前は多発性硬化症(たはつせいこうかしょう)(MS)の一部と考えられていました。血液中のアクアポリン4抗体が病気の原因と考えられており、ほとんどの患者さんは女性(男女比は1:9)で、30代に発症することが多くみられます。

原因は何か

 原因は不明ですが、血液中に水チャンネル(水の通り道)のひとつであるアクアポリン4という蛋白質の抗体が作られることにより、中枢神経を構成するアストロサイトという細胞が障害されて病気が起こると考えられています。

 多発性硬化症髄鞘(ずいしょう)やオリゴデンドロサイトが障害されるのに比べ、視神経脊髄炎ではアストロサイトが障害されるので中枢神経での組織破壊が強く、そのため症状が重く回復が悪い傾向があります。

症状の現れ方

 しつこいシャックリや吐き気が病気の始まりのことがありますが、主な症状は視神経あるいは脊髄の炎症によって出現し、それらを繰り返す(いわゆる再発と寛解(かんかい))ことが多くなります。

 視神経炎は両眼に生じることも多く、症状が重い場合は失明することもあるので早期の治療が必要です。脊髄炎は横断性のタイプをとり、四肢、とくに両足に強い脱力や感覚障害を来し、回復しにくい場合があります。

検査と診断

 主に視神経炎脊髄炎を繰り返しますが、なかには脊髄炎のみや視神経炎のみを繰り返すこともあります。脊髄のMRIでは3脊椎体以上の長い病変が認められることが多く、血液中のアクアポリン4抗体が陽性であれば、診断は確定します。

治療の方法

 視神経炎脊髄炎が発症したり再発する時は、副腎皮質ステロイド薬を大量投与するパルス療法を行います。もしこれで治療反応が良くない場合は、血漿(けっしょう)交換療法を行います。視神経炎や脊髄炎の再発を抑えるには、副腎皮質ステロイド薬の低用量投与を継続して行うことがすすめられます。

糸山 泰人

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「視神経脊髄炎」の意味・わかりやすい解説

視神経脊髄炎
ししんけいせきずいえん
neuromyelitis optica

片側または両側の視神経に重篤な障害が起こったのち、脊髄障害が連続して起こり、しかも急性に発症することが多い炎症性疾患。略称NMO。アルブットThomas Clifford Albutt(1836―1925)が初めて報告し、その後デビックEugène Devic(1858―1930)によって解析されたため、デビック病、デビック症候群ともよばれた。最初に視神経障害による急激な視力低下をきたすため視力を失うことも多い。続いて両下肢の脱力や感覚異常から麻痺(まひ)に移行し、さらに脊髄障害を伴って対麻痺もしくは四肢麻痺に至る。組織は壊死(えし)傾向を示すことが多い。発症年齢は20~50歳くらいで、とくに若年者に多い。

[編集部]

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