親告罪(読み)しんこくざい

精選版 日本国語大辞典 「親告罪」の意味・読み・例文・類語

しんこく‐ざい【親告罪】

〘名〙 検察官公訴を提起するために、被害者その他法律で定めた者の告訴を必要とする犯罪。強姦罪、名誉毀損(きそん)罪、器物損壊罪、秘密漏泄(ろうせつ)罪などがこれにあたる。〔国民百科新語辞典(1934)〕

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デジタル大辞泉 「親告罪」の意味・読み・例文・類語

しんこく‐ざい【親告罪】

被害者または法律の定める者の告訴がなければ検察官起訴できない犯罪。未成年者略取及び誘拐罪名誉毀損きそん器物損壊罪など。

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百科事典マイペディア 「親告罪」の意味・わかりやすい解説

親告罪【しんこくざい】

公訴の提起(起訴)につき告訴告発,請求を必要とする犯罪。名誉毀損(きそん)罪猥褻(わいせつ)罪毀棄隠匿罪秘密漏示(ろうじ)罪等がこれである。起訴して事実が明るみに出ることによって,かえって被害者の不利益となるおそれがある(強姦(ごうかん)罪等)か,被害が軽微で被害者の意思を無視してまで訴追する必要がない(親族相盗等)場合があることがこれを認める理由である。なお,強姦罪や強制猥褻罪などの性犯罪につき,親告罪の場合は告訴期間(従来6ヵ月以内)の制限があったが,2000年の刑事訴訟法改正により制限が外された。
→関連項目過失傷害罪強制猥褻罪守秘義務信書開封罪ストーカー規制法窃盗罪犯罪被害者保護法侮辱罪文書毀棄罪

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改訂新版 世界大百科事典 「親告罪」の意味・わかりやすい解説

親告罪 (しんこくざい)

公訴の提起に告訴の存在を必要とする犯罪,すなわち被害者等の告訴権者(刑事訴訟法230条以下)の有効な告訴の存在が訴訟条件とされている犯罪をいう。どの罪が親告罪にあたるかは,法律上に規定されているが,刑法典においては,以下の罪が親告罪とされている。(1)刑法135条により,信書開封罪(133条),秘密漏示罪(134条)。(2)180条1項により,強制わいせつ罪(176条),強姦罪(177条),準強制わいせつ・強姦罪(178条),以上の罪の未遂罪(179条)。ただし,2人以上現場において共同して犯行を行ったときは除かれる(180条2項)。(3)209条2項により,過失傷害罪(同条1項)。(4)229条により,未成年者略取誘拐罪(224条),営利等拐取罪(225条),前2罪を幇助(ほうじよ)する目的で犯した被拐取者収受罪(227条1項),営利等被拐取者収受罪(同条3項),以上の罪の未遂罪(228条)は,営利の目的がないときに親告罪となる。この場合,被拐取者等が犯人と婚姻したときは,婚姻の無効,取消しの裁判確定後でなければ,告訴は有効とはならない。(5)232条により,名誉毀損罪(230条),侮辱罪(231条)。(6)244条1項後段により,親族間で犯した窃盗罪(235条)・不動産侵奪罪(235条の2)・これらの罪の未遂罪(243条)。この親族相盗の場合のように,犯人と被害者との間に一定の関係が存在するときに親告罪となる罪を,相対的親告罪という(251条,255条により,詐欺罪,背任罪恐喝罪横領罪に準用されている)。(7)264条により,私文書毀棄罪(259条),器物損壊罪(261条),および信書隠匿罪(263条)。

 これらの個人的法益に対する罪が親告罪とされるのは,次のいずれかの理由による,とされている。(1)比較的軽微な犯罪で,被害者の意思を無視してまで訴追する必要がない場合(例,器物損壊罪)。(2)被害者の意思によらずに刑事手続がその者の私的生活領域に介入すべきでない場合(例,親族相盗)。(3)刑事訴追それ自体が,事件を明るみに出し,被害者の利益をよりいっそう害する結果となる場合(例,強姦罪)。親告罪において,告訴がないにもかかわらず,公訴の提起がなされたときは,公訴提起手続がその規定に違反したため無効であり,判決で公訴が棄却される(刑事訴訟法338条4号)。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「親告罪」の意味・わかりやすい解説

親告罪
しんこくざい

告訴がなければ公訴を提起することができない罪。親告罪でない一般の犯罪を「非親告罪」という。犯罪は一般に非親告罪であるが、犯罪が比較的軽微な場合、たとえば過失傷害罪(刑法209条1項)や器物損壊罪(同法261条)などや、訴追に伴い被害者の名誉が侵害される名誉毀損(きそん)罪(同法230条)について、後述する告訴権者の意思により訴追判断を行おうとする制度。「告訴」は、単に犯罪事実の申告(被害届など)とは異なり、捜査機関に対し犯罪事実をある程度具体的に申告し、その訴追を求める意思表示である。告訴権者は、親告罪とされる犯罪の被害者や、この者と特定の関係ある者、たとえば被害者の法定代理人や配偶者、直系の親族、兄弟姉妹などである(刑事訴訟法230条~234条)。告訴は、書面または口頭で検察官または司法警察員に対し、原則として、犯人を知った日から6か月以内になす必要がある(同法235条、241条。電話による告訴につき争いがあるが、判例はこれを否定している)。親告罪につき告訴なくして公訴(起訴)された場合には、公訴棄却の判決がなされる(同法338条4号)。なお、強姦(ごうかん)罪(旧刑法177条)などの性犯罪は、2017年(平成29)の改正前の刑法第180条では、被害者の意思やプライバシーを尊重して、親告罪(告訴がなければ公訴を提起することができない罪)とされていたが、改正後は、罪名が強制性交等罪(現行刑法177条)などになるとともに、加害者等からの干渉や報復を回避するため、親告罪の規定が削除され非親告罪となった。

[名和鐵郎 2018年1月19日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「親告罪」の意味・わかりやすい解説

親告罪
しんこくざい
Antragsdelikt

検察官の公訴の提起に際して被害者その他一定の者による告訴または請求,告発の存在を必要とする犯罪。被害者のプライバシー権,名誉の保護のため被害者の意に反する訴追を避けるのが妥当と認められる場合 (強姦罪,名誉毀損罪など) や被害軽微を理由とする場合 (器物損壊罪) などがある。親告罪につき告訴などが得られないときには,検察官は当該被疑事件の公訴を提起しえず,仮にあやまって起訴しても公訴棄却の判決がなされ (刑事訴訟法 338条4号) ,有罪判決は得られない。

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