詐欺(読み)さぎ

精選版 日本国語大辞典 「詐欺」の意味・読み・例文・類語

さ‐ぎ【詐欺】

〘名〙
① 故意にうそを言って他人をだまし損をさせること。また、その人。法律では、人をだまして錯誤におとしいれる行為をいい、民法上では、これによってした意思表示を取り消すことができる。刑法上では、詐欺罪になり、一〇年以下の懲役に処せられる。いかさま。ぺてん。欺罔(きもう)
※続日本紀‐大宝元年(701)八月丁未「『注』年代暦曰。於後五瀬之詐欺発露」
※社会百面相(1902)〈内田魯庵鉄道国有「今の相場は殆んど詐欺(サギ)に類するからな」 〔韓非子‐八説〕

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デジタル大辞泉 「詐欺」の意味・読み・例文・類語

さ‐ぎ【詐欺】

他人をだまして、金品を奪ったり損害を与えたりすること。「詐欺にあう」「寸借詐欺」「振り込め詐欺
他人を欺く行為。民法96条では「相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる」とする。→詐欺罪
[類語]ペテンかたり

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改訂新版 世界大百科事典 「詐欺」の意味・わかりやすい解説

詐欺 (さぎ)

人をだまして錯誤におとしいれる違法な行為。刑法上,犯罪となる(刑法246条)。民法上,詐欺によって意思表示をした者はこれを取り消すことができ(民法96条),また,詐欺によってこうむった損害は不法行為を理由に賠償させることができる(709条)。ただし,これらの民・刑両法上の効果は,それぞれの目的を有しその要件も違うので,1個の詐欺が必ずしもつねに三つの効果を生ずるとは限らないことに注意すべきである。

詐欺による意思表示として取り消しうるためには次の要件が必要である。(1)相手をだます行為 真実でないことを真実だと告げる行為である。虚偽の事実を述べるだけでなく,真実をかくす行為であってもよい。また,沈黙や意見を述べることもこれに含まれうるが,その場合は後に述べる違法性の要件を欠くことが多い。(2)詐欺者の故意 相手方をだまして錯誤におとしいれようとする故意と,それによって意思表示をさせようとする故意とが必要である。(3)相手方の錯誤 だまされて錯誤におちいる(思い違いをする)ことが必要である。動機の錯誤でもよい。(4)錯誤による意思表示 錯誤と意思表示との間に因果関係のあることが必要である。(5)違法性 多少のだます行為は取引のかけひきとしてしばしば行われており,自由競争のもとではある程度やむをえないと考えられる。だます行為が〈詐欺〉といいうるためには,それが取引上要求される信義誠実の原則に反する程度のものでなければならない。

 詐欺によって意思表示をした者は,これを取り消すことができる(民法96条1項)。なお,ある人に対する意思表示(たとえば,保証人の債権者に対する意思表示)が,第三者(たとえば,主債務者)の詐欺によってなされた場合,表意者(保証人)は,相手方(債権者)が詐欺の事実を知った場合にだけ,その意思表示(保証契約)を取り消すことができる(96条2項)。表意者と相手方との利益の調和を図る趣旨である。取り消された意思表示は初めにさかのぼって効力を失う(121条)。ただし,この取消しの効果は,善意の第三者に対し主張することができない(96条3項)。たとえば,AがBの詐欺によりその不動産をBに売り,Bがそれを善意の第三者C(AB間の売買が詐欺によるという事実を知らないC)に転売した場合,Aはたとえその意思表示を取り消しても,AB間の売買契約の効力のないことを主張してCから不動産の返還を請求することはできないことになる。取引の安全のために善意の第三者Cを保護する必要があるとともに,詐欺にかかった者Aにはうかつな点もあるので,その者が不利益をうけてもやむをえないという考え方に基づく。AはBとの間の金銭的解決(不当利得の返還請求ないし不法行為による損害賠償請求)で満足せざるをえない。

 詐欺はつねに錯誤を伴うが,それが民法95条の〈錯誤〉の要件をも満たしている場合,表意者は詐欺による取消し,錯誤による無効のいずれを選択して主張してもよいと考えられている。

 詐欺によって他人に損害を与えた場合,不法行為法の一般原則(709条)に従って,詐欺者はその損害を賠償しなければならない。
執筆者:

人を欺いて財物や財産上の利益を得る犯罪(刑法246条)を詐欺罪という。刑罰は,10年以下の懲役。未遂も処罰される(250条)。詐欺罪が財産を侵害する罪として純化されたのは,19世紀のことであり,刑法典上の犯罪としては,新しい部類に属する。古くは,他人を欺く犯罪として,偽造,偽証等とひとまとめにされていたが,商業取引の発達とともに独立化されたのである。詐欺罪は,人に対して欺罔手段を用い,相手方を錯誤におとしいれて,その者自身に財物・利益を交付(処分行為)させて,これを取得するものである。人をだまして金品を得たり,債務の支払を免れたりする行為がその例である。事情を知らない第三者に利得させるために,その者へ交付させる場合も含まれる。相手方自身の処分行為によって取得する点(恐喝罪と共通する)に詐欺罪の特徴があり,相手方の意思に反して取得する盗取罪(窃盗(せつとう)罪,強盗罪)との違いがある。したがって,欺罔手段を用いて財物などを取得しても,相手方にそれを交付させるのでなければ,詐欺罪ではなく窃盗罪である。たとえば,自動販売機ににせの硬貨を投入したり,パチンコ台を不正に操作するなど,機械をだます場合や,人をだますのであっても,それによって相手方の注意をそらし,そのすきに物をとる場合などである。他方,欺罔とは,人を錯誤におとしいれることをいい,相手方に処分行為をさせるに足りるものであれば,その手段・方法を問わない。たとえば,売主が,粗悪品を良質のものと信じさせたり,他人の物を自己の物とみせかけて売りつける場合,また,買主が,代金支払の意思も能力もないのに注文する場合などが,その典型例である。もっとも,取引上,多少の駆け引きは許されるから,処罰の限界を定めるには困難を伴うことがある。誇大広告や露店でのまがい物の販売は,通常,詐欺罪とはならない。相手方が軽率に信じた場合に,すべて処罰するのは,行き過ぎである。つぎに,詐欺罪は,相手方の処分行為が錯誤に基づくものでなければ,完成しない。相手方が,だまされてはいないのに,めんどうだからと乞食に金品を与えたような場合には,詐欺罪は未遂である。他方,被害者以外の者が,物・利益を交付しても,その者に,被害者の財産を管理・処分する地位・権限がある場合,詐欺罪が成立する。他人の預金通帳を使って,銀行から預金を引き出すのは,その一例である。特殊なものとして,裁判所をだまして訴訟に勝ち,物・利益を得る事例もある(訴訟詐欺)。相手方の処分行為は,必ずしも,犯人への物・利益の移転を認識してなされた場合にだけ認められるものではない。犯人が,欺罔により,物・利益の移転を認識させなかった場合にも,相手方の処分行為は存在したとされなければならない(無意識の処分行為)。たとえば,旅館に宿泊後,所持金の不足に気づき,口実を設けて逃走したような場合である。犯人は,欺罔により,旅館側に,代金請求すべきことを認識させなかったのである。なお,法律上の要件ではないが,財産犯である以上,財産的損害がなければ,詐欺罪は成立しない,というのが,一般的見解である。ただし,損害とはどのようなものか,という点については,意見が分かれている。物・利益を交付させた以上,つねに損害があり,犯人が,ひきかえに,それに見合った価値のものを渡したとしても,詐欺罪が成立する,とする見解が多いが,もう少し実質的な意味での損害を要求すべきだと思われる。

 日本では捜査機関に知られる詐欺罪は,年間6万件前後である。しかし,警察には届け出られない事件(暗数)が,この数倍はあるものと推測される。被害者が届け出ないのは,被害金額が少ない,届けても被害は回復されない,といったことのほか,犯人が知人である,自分自身にも落ち度がある,といった理由によることも多い。詐欺犯人は,被害者の信頼を利用して,目的を達成するが,その際には,被害者側の欲望も働いていることが多いのである。詐欺の態度は,商品・不動産の売買や貸借,手形・小切手等の有価証券の割引,その他経済的取引に関するもののほか,無銭飲食,結婚詐欺,入学・就職の斡旋を口実にするものなど,実に多様であるが,統計上は,寸借詐欺,無銭飲食,商品・代金詐欺,月賦詐欺の順に多い。また,詐欺罪は,環境より,人格に基因するところが大きい犯罪であり,詐欺犯人は,平均すれば,一般の犯罪者より,学歴が高く,年齢も高いことが多いとされている。

 なお,刑法は,判断能力がとくに劣っている者を保護するため,相手方のそうした状態を利用して,詐欺罪における欺罔の程度に達しない誘惑的手段で,物・利益を取得する行為についても,別に準詐欺罪として,詐欺罪と同じ刑で処罰することとしている(248条)。詐欺罪・準詐欺罪いずれにおいても,他人の平穏な占有下にある自己の所有物に対する行為が処罰され,他方,親族間の行為は,刑が免除され,あるいは被害者の告訴があってはじめて処罰される(251条,242条,244条。親族相盗)。
執筆者:

人を錯誤におとしいれて財物を騙取する行為およびその行為者を,〈かたり(騙り,衒り,語り)〉と称した。《公事方御定書》(1742制定)では,〈当座のかたり〉(通常の,その場かぎりのもの)は盗罪に準じて贓物(ぞうぶつ)10両以上を死罪,未満を入墨敲(たたき)とし,公儀に対するものや計画的なもの,仲間を誘い共謀して行ったものについては同1両以上を死罪,また常習的なものは贓物の高にかかわらず獄門としている。〈かたり〉の手段として一定の物の偽造・変造やその行使,官職・身分の詐称等をともなうことがあるが,《公事方御定書》には,〈謀書謀判〉(文書偽造,印章偽造)は引回しのうえ獄門,〈似せ金銀〉(通貨偽造)は引回しのうえ磔(はりつけ),〈似せ秤,似せ桝〉は引回しのうえ獄門,〈似せ朱墨〉は家財取上げ所払,〈似せ薬種〉は引回しのうえ死罪,〈似せ役〉(官名等の詐称)は死罪,〈似せ家主,五人組〉をつくって出訴するものは敲(たたき),名を替えて奉公人の請(うけ)に立つものは江戸十里四方追放などとする規定がみえる。そのほか不動産の〈二重質・二重書入(かきいれ)〉は関係者それぞれに中追放等を科し,商品の〈二重売〉は盗罪に準じて代金10両以上を死罪,未満を入墨敲とし,また新規の神事・仏事を行ったり,〈奇怪異説〉を触れて人を集めるものは所払や江戸払等に処し,〈手目(てめ)博奕〉(詐欺賭博)も通常の博奕より重く遠島とされている。ひとりで複数の犯罪を犯してこれらの処罰規定が競合する場合には,そのうちもっとも重い刑罰1個だけを科した(吸収主義Absorptionsprinzip)。また上記の刑罰は情状によって減軽または加重されたが,そのような刑罰適用論においてはとくに判例法が発達していた。江戸時代には,商取引の隆盛や複雑な身分制度を背景に,交通,通信,教育等の未発達ないし地域的偏差を利用した詐欺が多数発生し,江戸で〈暖簾(のれん)師〉,上方で〈中差(なかざし)商人〉などと呼ばれる詐欺師的商人も横行した。

 文芸作品にも,北条団水(1663-1711)の《昼夜用心記》(1707)など〈かたり〉を題材としたものがしばしば見られ,世相の一端をうかがうことができる。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「詐欺」の意味・わかりやすい解説

詐欺
さぎ

人を欺罔(ぎもう)(虚偽の事実を信じさせること)して錯誤に陥れることをいう。

[川井 健]

民法上

詐欺による意思表示は、取り消すことができるとされる(96条1項)。たとえば、Aが所有する土地をBが買うにあたって、近くにごみ処理場が建設される計画があるという虚偽の事実をBがAに伝え、地価が下がるからいまのうちに売ったほうがよいと述べてBが安く土地を買った場合には、Aは売買の意思表示を取り消すことができる。その結果、Bには受け取った代金の返還義務、Aには引き渡した土地の返還請求権のような不当利得(703条以下)の問題が生ずる。このように、詐欺による被害者は保護されるのであるが、強迫による被害者と異なり、その保護には限界がある。強迫の場合に比べ、詐欺の場合には被害者にも若干のおちどがあるからである。以下に詐欺による取消しができない例および制限される例をあげる。

(1)第三者が詐欺をしたときには、取消しができない場合がある。民法は、ある人に対する意思表示につき、第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知ったときに限り、その意思表示を取り消すことができると定める(96条2項)。前例でいうと、AB間の土地の売買において、Bが詐欺をしたのではなくて、第三者CがAに対して詐欺をした場合に、Bがこの事実を知らないで土地を買い受けたときには、Bを保護する必要があるので、Aは売買の意思表示を取り消すことができない。強迫の場合は詐欺の場合と異なり、意思表示を取り消すことができる。

(2)善意の第三者に対しては、詐欺による取消しの主張が制限される。すなわち、詐欺による意思表示の取消しは、これによって善意の第三者に対抗することができないとされる(96条3項)。前例で、BがAに詐欺を働いて安く土地を買い受け、詐欺の事実を知らない第三者CにBがこの土地を転売したときには、Cの信頼を保護するために、Aは取消しによる所有権を主張することができない。この場合に、Cが移転登記を受けていないときにも、Aが取消しを主張しえないかどうかについては学説が分かれ、判例も明確ではない(仮登記をしたCが保護されるという判例がある)。強迫の場合は詐欺の場合と異なり、取消しによる効果をもって善意の第三者に対抗することができる。

 前例で、詐欺にかけられたAが売買を取り消した場合に、不動産の所有権はBからAに復帰するが、それにはBからAへの登記が必要である(177条)。前例で、AがBの詐欺を理由に売買を取り消したが、B名義の登記を放置しておいたところ、BがこれをCに売りCに登記を移転すると、Cの善意・悪意にかかわらず、Aは所有権の復帰をCに主張できない。

 なお詐欺により、他人に損害を与えた場合には、不法行為として損害賠償義務を負うことになる(709条)。そのほか、民法は、詐欺に関して、代理行為の瑕疵(かし)(101条1項)をはじめ、婚姻の取消し(747条)、養子縁組の取消し(808条1項)、遺言の取消し(1025条但書)につき、特別の扱いを定めている。

[川井 健]

刑法上

刑法典は、財産犯の一種として詐欺罪の規定を設けている(246条、なお248条の準詐欺罪参照)。詐欺罪とは、被害者を欺罔し、錯誤に陥れて、瑕疵ある意思により財産的処分行為をさせる罪である。1987年(昭和62)の刑法一部改正によって、コンピュータ犯罪の一つとして、246条の2が追加され、電子計算機使用詐欺罪が新設された。さらに特別刑法において、詐欺やその類似的または予備的行為につき、さまざまな罰則規定を設けている(たとえば宅地建物取引業法81条、特定商取引法70条、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律29条など)。

[名和鐵郎]

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普及版 字通 「詐欺」の読み・字形・画数・意味

【詐欺】さぎ

あざむく。〔漢書、王尊伝〕大夫中奏し~、坐してぜらる。~興等、上書して(うつた)ふ。~(も)し(中奏)の如くならずんば、深詆、以て無罪を(うつた)ふ。亦た宜しく誅るべし。以て讒(ざんぞく)の口をらしめ、詐欺の路をたんと。

字通「詐」の項目を見る

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「詐欺」の意味・わかりやすい解説

詐欺
さぎ

他人をだまして錯誤に陥れる違法な行為をいう。他人をだますというのは,真実でないことを真実であるとして伝える場合のほかに,真実をあえて隠す場合も含む。もっとも,後者の場合にはそれが社会観念上違法とされるものでなければならない。 (1) 民法上の詐欺 詐欺によって意思表示した者は,これを取消すことができる。ただし,その取消しは善意の第三者に対抗することはできない (96条1項,3項) 。なお詐欺によって生じた損害は,不法行為として詐欺者に損害賠償させることができる。 (2) 刑法上の詐欺 人をだまして財物を取得したり,財産的利益を得たりした者 (だました者以外の他人が取得する場合も含む) は,詐欺罪で罰せられる (246条1項,2項) 。

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百科事典マイペディア 「詐欺」の意味・わかりやすい解説

詐欺【さぎ】

人をだまして錯誤に陥らせる違法な行為。だますとは真実でないことを真実だとして表示する行為であるが,場合によれば沈黙もこの行為になる。民法上,詐欺によって意思表示をした者は,原則としてそれを取り消すことができる(民法96条)。詐欺によって損害を受けた者は損害賠償の請求をすることができる(民法709条)。→詐欺罪

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