調査捕鯨(読み)ちょうさほげい(英語表記)research whaling

翻訳|research whaling

精選版 日本国語大辞典 「調査捕鯨」の意味・読み・例文・類語

ちょうさ‐ほげい テウサ‥【調査捕鯨】

〘名〙 クジラの生息数、分布状況を調査し、保護に役立てるために行なう捕鯨日本は昭和六三年(一九八八)から南極海ミンククジラについてこれを行なっている。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「調査捕鯨」の意味・読み・例文・類語

ちょうさ‐ほげい〔テウサ‐〕【調査捕鯨】

クジラの生態や資源量を科学的に調査する目的で行う捕鯨。科学調査で使用した残りの部分は可能な限り加工され、販売される。→商業捕鯨
[補説]国際捕鯨委員会IWC)は1982年(昭和57)に商業捕鯨の一時停止を決議し、対象となる大型鯨類の捕鯨を禁止したが、加盟国は、国際捕鯨取締条約規制される鯨類について調査捕鯨を行う権利が得られる。日本では1987年(昭和62)から、財団法人日本鯨類研究所が政府から許可を受け、南極海と北西大西洋で行った。2019年(令和元)に同委員会を脱退したことで終了。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「調査捕鯨」の意味・わかりやすい解説

調査捕鯨
ちょうさほげい
research whaling

商業用ではなく、鯨の生態や生息数などを科学的に調査するための捕鯨。具体的には、国際捕鯨取締条約第8条に基づく鯨類の捕獲調査をさす。国際捕鯨取締条約は、捕鯨の取締りと資源管理のために、1946年に締結された。この条約は、条約付表によって捕鯨操業に対して多くの規制を課しているが、本文第8条第1項によって、加盟国政府が自国民による科学的研究のために、条約付表に定めるすべての規制を外して、鯨を捕獲して調査する許可書を発給することを許している。それに加えて条約第8条第2項において、この許可書によって捕獲した鯨体は、調査した後できる限り加工して利用し、その取得金は政府の発給した指令書に従って処分しなければならないことも定めている。これらのことが一般に「調査捕鯨」と称されている。

 調査捕鯨はアメリカを含む多くの加盟国が、種々の目的をもって、種々の鯨類を対象に実施してきた。1982年における国際捕鯨委員会(IWC)による商業捕鯨の一時中止決定以後も、ノルウェーアイスランド、韓国が調査捕鯨を行ってきた。日本は1987年(昭和62)から南極海において、1994年(平成6)からは北西太平洋において、ミンククジラを対象にして調査捕鯨を実施していたが、2000年からは北西太平洋において、ミンククジラのほかに、ニタリクジラマッコウクジラ、2002年からは同地域でイワシクジラを調査捕鯨の対象に加えた。さらに2005年から南極海においてクロミンククジラ、ナガスクジラの調査捕鯨を行った。

[大隅清治]

 これに対し反捕鯨国のオーストラリアは2010年、日本の南極海での調査捕鯨の中止を求めて国際司法裁判所提訴した。国際司法裁判所は2014年、日本の南極海での調査捕鯨を「科学調査目的といえない」として中止を命じる判決を出した。これを受け国際捕鯨委員会(IWC)も調査捕鯨を再開しないよう求める決議を採択した。このため日本は、南極海での調査捕鯨から撤退し、北西太平洋での調査捕鯨も縮小を余儀なくされていたが、2015年(平成27)12月に捕獲数を削減して南極海での調査捕鯨を再開。2019年(令和1)6月末には国際捕鯨委員会を脱退し、これまでの調査捕鯨にかえて、2019年7月から商業捕鯨を1988年(昭和63)4月の中断から31年ぶりに再開した。対象は日本近海(日本領海と排他的経済水域)のミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラである。

[矢野 武 2020年8月20日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

知恵蔵 「調査捕鯨」の解説

調査捕鯨

クジラの生態や資源量などの科学的調査を目的とする捕鯨。日本では、農林水産省所管の特例財団法人日本鯨類研究所が政府の特別許可を受けて、1987年から南極海で、94年からは北西大西洋でも実施している。調査対象は、南極海のクロミンククジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラ、北西太平洋のミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、マッコウクジラの計7種だが、ザトウクジラは2005-06年調査以降捕獲されていない。調査の副産物である鯨肉は国内で販売され、次の調査費用に充当される。11年2月には、反捕鯨団体シーシェパードによる妨害活動によって、南極海での調査が打ち切りに追い込まれた。
捕鯨の賛否を巡っては、クジラを「利用できる水産資源」ではなく「保護すべき野生動物」だと考える立場もあるなど、近年、対立が深刻化している。大型鯨類13種を対象に管理措置決定する国際捕鯨委員会(IWC)は、1970年代に欧米で高まったクジラ保護論の影響を受け、82年に商業捕鯨を一時停止する商業捕鯨モラトリアムを採択、97年には南極海サンクチュアリ(鯨類保護区)を設定するなど、制限を強めてきた。これに対して、捕鯨国のノルウェーとアイスランドは国際捕鯨取締条約に基づく異議申し立てをして商業捕鯨を続け、日本は87年に商業捕鯨から条約で認められている調査捕鯨に切り替えて捕鯨を続けている。捕鯨国・反捕鯨国の間の妥協点を探るべく、2010年のIWCの総会では、日本の調査捕鯨における南極海での捕獲枠を大幅に削減する一方、沿岸での商業捕鯨再開を事実上認める内容を盛り込んだ議長案が示されたが、合意には至らなかった。
こうした中で起きた調査打ち切りを受けて、国内には、暴力行為に屈せずに調査を続行すべきだとする意見や、鯨肉の消費減少などを理由に捕鯨政策の見直しに言及する声も出ている。

(原田英美  ライター / 2011年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「調査捕鯨」の意味・わかりやすい解説

調査捕鯨
ちょうさほげい
research whaling; scientific whaling

クジラ類資源の生態や生息数などについての科学的研究を目的に行なわれる捕鯨国際捕鯨取締条約 ICRWの 8条において,加盟国政府が科学的研究のために自国民に対して捕鯨の特別許可を与えてよいこと,また捕獲したクジラについては,調査ののち可能なかぎり加工して利用し,その収益は政府の許可した内容に従い処理されることが定められている。1982年国際捕鯨委員会 IWCで商業捕鯨モラトリアム(一時停止)が採択され,日本は 1988年に商業捕鯨を中断,1987年に南極海で,1994年に北西太平洋でそれぞれミンククジラ(コイワシクジラ)を対象に調査捕鯨を開始した。2000年以降はニタリクジラマッコウクジラなど捕獲対象種を広げた。日本の調査捕鯨は反捕鯨国から事実上の商業捕鯨であるとの批判が上がり,2014年国際司法裁判所 ICJはオーストラリアの訴えを認め,南極海における日本の調査捕鯨が科学的研究にあたらないとの判断を示し,中止を命じた。日本は 2019年に IWCを脱退,商業捕鯨を再開した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

知恵蔵mini 「調査捕鯨」の解説

調査捕鯨

生息数などを調査するための捕鯨。1982年、国際捕鯨委員会の決議により商業捕鯨の一時停止が決められ、他諸国が捕鯨を停止したのに対し、日本だけが87年より南極海と北西太平洋で調査捕鯨を開始した。以降2005年まで捕獲枠を徐々に拡大し、年間1000頭程度のクジラを捕獲している。12年時点で、日本市場に供給されたクジラ肉は推計5028トン。うち半分以上が調査捕鯨によるものとされている。10年、オーストラリアなどの反捕鯨国が「調査捕鯨の名を借りた商業捕鯨である」として国際司法裁判所に調査捕鯨の中止を提訴。14年3月31日、国際司法裁判所は、日本が南極海で行っている調査捕鯨について、現状方式での捕鯨を中止するよう命じる判決を下した。日本はこれに従い、今後の調査捕鯨のあり方について検討していく方針。

(2014-4-3)

出典 朝日新聞出版知恵蔵miniについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の調査捕鯨の言及

【捕鯨】より

…しかし日本はアメリカのパックウッド=マグナソン修正法との関係から,1985年4月に異議申立ての撤回を閣議決定した。日本における商業捕鯨は,この決定により,南氷洋捕鯨は87年3月,沿岸捕鯨は88年3月で終止符を打つことになり,以降,日本では南氷洋についてはミンククジラの〈調査捕鯨〉のみが行われている。 なお1980年代初頭のおもな捕鯨国の捕獲頭数は,日本4443頭,ソ連3392頭(169頭),ノルウェー1869頭,ブラジル625頭,韓国485頭,アイスランド448頭,デンマーク286頭(286頭),スペイン120頭,アメリカ20頭(20頭)である(1982/83捕鯨漁期。…

※「調査捕鯨」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android