軈・頓(読み)やがて

精選版 日本国語大辞典 「軈・頓」の意味・読み・例文・類語

やがて【軈・頓】

〘副〙
① ある事態・状態がそのままで変わることなく、引き続いて次の事態・状態が出現するさまを表わす語。そのまま。そのままずっと。
※竹取(9C末‐10C初)「薬もくはず、やがて起きもあがらで病みふせり」
伊勢物語(10C前)九六「『かしこより人おこせばこれをやれ』とていぬ。さてやがてのちつひにけふまで知らず」
② ある事態・状態から、格別の事柄を間にはさむことなく、あるいは、時間を経過することなく、次の事態・状態が出現するさまを表わす語。すぐさま。ただちに。
大和(947‐957頃)二「御ぐしおろし給ひければ、やがて御ともにかしらおろししてけり」
徒然草(1331頃)七一「名を聞くより、やがて面影はおしはからるるここちするを」
③ 他の事柄や状態ではなく、まさにその事柄や状態であることを強めていう語。とりもなおさず。ほかならず。直接名詞句を修飾し、「ほかならぬ…」と指示する用法もある。
今昔(1120頃か)二五「衣河の尻やがて海の如し」
平家(13C前)三「この尼ぜと申は、やがて法皇の御乳の人紀伊二位の事也」
④ 事態が推移して、あるいは、ある程度の時間を経過して、引き続いて次の事態・状態が出現するさまを表わす語。間もなく。そのうちに。
※大鏡(12C前)一「后宣旨かぶらせ給、〈略〉やかてみかどうみたてまつり給」
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)那須「頓て人里に至れば、あたひを鞍つぼに結付けて馬を返しぬ」
[語誌](1)「観智院本名義抄」に「便 スナハチ ヤガテ」とあるように、「すなわち」に近い意で用いられたが、「すなわち」が漢文訓読で用いられるのに対して、「やがて」は、もっぱら和文脈で用いられた。
(2)「今昔物語集」ほかに「軈而」の形が見え、のち「軈」一字を当てるようにもなるが、この字は国字で、「身をすぐに適応させる」意の会意文字と考えられる。
(3)②から④の用法に転ずる時期は、必ずしもはっきりしないが、中世以降に多くなる。
(4)語の成り立ちについては、感動詞「や」に可能肯定判断を表わす下二段動詞「かつ」の連用形「かて」が付いて古くできたものという説がある。
(5)日葡辞書には、「Yacate(ヤカテ)」の見出しもあるが、多く使われるのは「やがて」だと述べている。古くは清音だったか。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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