軸受(読み)じくうけ(英語表記)bearing

翻訳|bearing

精選版 日本国語大辞典 「軸受」の意味・読み・例文・類語

じく‐うけ ヂク‥【軸受】

〘名〙
① 回転または往復運動する軸を支持する機械部品。軸と軸受との接触の種類により、すべり軸受ころがり軸受に、また荷重の作用する方向によって、ラジアル軸受スラスト軸受に分けられる。ベアリング
※沈める滝(1955)〈三島由紀夫〉七「傘歯車による偏心軸承の回転につれて」
② 扉などの軸を受けささえる器具。

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デジタル大辞泉 「軸受」の意味・読み・例文・類語

じく‐うけ〔ヂク‐〕【軸受(け)/軸承(け)】

回転または往復運動する軸を支える機械部品。軸との接触の状況によってひら軸受けと転がり軸受けとに分けられる。また、荷重の方向が軸に垂直のラジアル軸受けと同方向のスラスト軸受けとに分けられる。ベアリング。

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改訂新版 世界大百科事典 「軸受」の意味・わかりやすい解説

軸受 (じくうけ)
bearing

ベアリングともいう。機械類において,車輪,歯車,タービンローターなど,回転するものの軸を支持するための部品。軸受の役割は回転を自由にしたままで回転軸を正しい位置に保持することであり,これによって機械各部は正しい連係を保ち,正しく機能することができる。かみ合って回転する歯車などはその例である。軸受の摩擦,摩耗は,小さいほどよい。摩擦が大きいと動力損失が増すだけでなく,実際にはむしろ温度上昇のために種々の障害が生ずる。摩耗が大きければ当然軸受の寿命が短くなる。

 軸受にはその動作原理により,すべり軸受ところがり軸受の区別がある。また受けるべき荷重の方向により,回転軸に垂直方向の荷重を受けるラジアル軸受(すべり軸受の場合にはジャーナル軸受ということが多い),回転軸方向の荷重を受けるスラスト軸受の区別がある。すべり軸受のもっとも基本的な形は丸い穴の中で丸い軸が回転するもので,軸と軸受の間の隙間には適当な潤滑油を供給して摩擦,摩耗を減らす。ころがり軸受は,玉やころ(丸棒)のころがり摩擦が小さいことを利用した軸受で,例えば,玉またはころが,内輪,外輪と呼ばれる二つの輪の間でころがる構造になっている。いずれの軸受においても理想的状態での摩擦係数は1/1000程度である。

軸受は機械のもっとも基本的な部品の一つであり,したがって利用の歴史も古い。前約2500年のメソポタミアの遺跡から車輪付きの乗物が発見されているが,この例では,中心に軸穴をもつ車輪が,回転しない軸棒にはめ込まれていた。この軸穴はいわばジャーナル軸受である。前約400年には鉄製の軸受も用いられた。

 ころがり軸受の出現はすべり軸受よりも後で,現在残っている最古のものは,イタリアのローマの近郊で発見された50年ごろ建造の船の回転円形床を支えるスラスト軸受である。青銅の玉ころ,テーパーころなどが木の溝の中をころがるものであった。後にレオナルド・ダ・ビンチもころがり軸受に関するいくつかのアイデアをかき残しているが,広く用いられるようになるのは,産業革命の時代に入って機械類の性能向上が強く要請されるようになってからのことである。そして,このころから各国で専業メーカーによるころがり軸受の大量生産が行われるようになり,これとともに規格化も進み,近代的な意味でのころがり軸受はこのころ始まったといえる。ころがり軸受は大量生産方式に適しているので,各種工業の発達とともにその生産が一つの産業として発達し,現在,ころがり軸受産業は各国の機械工業を支える基本的な産業となっている。

 一方,すべり軸受は非常に古くからあったにもかかわらず,合理的な設計が可能となったのは,19世紀末になってその潤滑機構の本質が明らかにされてからである。ころがり軸受と異なり,多くは自家製造されるが,近年では自動車工業などを背景とした専業メーカーも出現している。

 最近,すべり軸受,ころがり軸受ともに精度,性能,信頼性などが格段に向上しており,これが自動車,航空機をはじめとする各種機械の信頼性を高め,また自動機械,ロボットなど先端的な機械の出現を可能ならしめている。

すべり軸受には動圧型と静圧型の区別がある。動圧型では軸の回転によって作られた油膜の圧力により荷重を支え,静圧型では軸受外の油圧源から導かれた油圧によって荷重を支える。

(1)動圧型すべり軸受 この型の軸受の潤滑機構は簡単に述べれば次のとおりである。ジャーナル軸受の場合を考えると,軸と軸受の間には小さな隙間(軸受隙間という。軸受半径の1/1000程度)があり,油で満たされている。軸が回転していないときは軸は軸受隙間内でもっとも低い位置に沈んでいるが,回転しているときは図1のような位置に浮かんでいる。この状態では軸の下側の隙間はハッチングで示すようにくさび型をしている。軸の回転につれて隙間内の油(これを油膜という)はくさびの厚いほうから薄いほうへ引き込まれるので油膜には圧力が発生し,この圧力が軸にかかる荷重を支えている。これを油膜のくさび作用という。このように軸は油膜の上に浮いているのであって,少なくとも良好な運動状態では軸と軸受は接触することがない。このため摩擦,摩耗が非常に小さくなる。この状態を流体潤滑という。しかし,軸の始動停止時,あるいは低速高荷重の軸受では油膜は十分に発達せず,軸と軸受は接触してしまう。この状態を境界潤滑という。

 図2のようなシーソー状に支持された揺動平板と,矢印のように動く平面の間に油がある場合を考えると,ここにも油膜のくさび作用が生じ,圧力が発生する。平板の支点を平板の中央より少し下流方向の位置にとると,平板は自動的にある傾斜を保ち,くさび作用が生ずるのである。これをスラスト軸受に応用したのがミッチェル軸受である。このような軸受の開発によって,巨大な船のプロペラの推力を支え,巨大な水車の重量を支えることがはじめて可能となった。それ以前は単に平行な固定2面を軸受面としていたため,油膜のくさびが形成されず,摩擦損失,発熱は非常に大きく,大きな荷重を支持することはできなかった。

 動圧型すべり軸受においては,少なくとも軸の始動時および停止時には軸と軸受が接触する。このときの摩擦,摩耗を減らすには,軸と軸受の材料の組合せを適切に選ぶことが重要である。軸が銅の場合,軸受の内面には黄銅,青銅,銅鉛合金(ケルメット),ホワイトメタル,アルミ合金などのブッシュ(軸受金)が用いられる。

(2)静圧軸受 簡単な例を図3に示す。いずれの場合にも外部の油圧源から圧油が軸受内に導かれ,その圧力が軸を支える。静圧軸受の場合,動圧軸受と違って,軸の停止時,低速時にも油膜が形成され,摩擦,摩耗が小さいのが特徴である。しかし外部に特別の油圧源を必要とする。静圧軸受は,例えば望遠鏡を支える軸受などに好適である。なお,動圧型ジャーナル軸受ではあるが,始動時の摩擦を小さくするため軸受金に小さなくぼみを設けて圧油を送り込み,始動時のみ静圧軸受の原理で軸を浮き上がらせるものもある。
潤滑

ころがり軸受は二つの軌道輪(内輪,外輪など)の間で,転動体(玉またはころ)が保持器とともに一つのまとまった部品となっている(図4)。転動体が玉であるかころであるかにより玉軸受(ボールベアリングball bearing),ころ軸受などと呼ばれる。ころがり軸受には多くの型式,種類があるが,通常,JISなどの規格に従って各種のものが大量生産される。したがって目的に合ったものを容易に入手することができ,またある軸受が故障してもすぐ同一の新品と交換することができて便利である。

 ころがり軸受は,すべり軸受と比べ,始動時でも摩擦が小さいことが特徴であるが,反面,転動体と軌道輪の接触は点接触または線接触となり,接触圧力が高く,このため長い間には軸正面の疲れ損傷を起こすおそれがある。ころがり軸受は軸受鋼と呼ばれる特殊な鋼で作られ,通常,グリースで潤滑される。

軸受には各種の特殊なものがある。例えば,船尾管軸受(船の推進軸が船外に出るところに用いる)には昔から水潤滑性のよいリグナムバイタ(ユソウボク)と呼ばれる木材の軸受やゴムを用いたゴム軸受などが用いられている。プラスチック軸受には潤滑を要するものと要さないものがあり,前者ではフェノール樹脂,後者ではナイロン,テフロン,アセタール樹脂などが軸受材料として用いられる。

 油を含む多孔質材料で作られる含油軸受は,給油不要の意味でオイルレス軸受,あるいは無給油軸受と呼ばれる。時計,計器類では,耐摩耗性の大きいサファイア,ルビーなどを材料とする宝石軸受が用いられる。とくに摩擦の小さいことが要求されるところには空気を潤滑剤とする空気軸受,磁力で荷重を支える磁気軸受が用いられる。また山型のころがり軸受をミニチュア軸受(外径9mm以下)といい,計器など小型機械に用いられる。直径1mm以下の軸に用いるものもある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「軸受」の意味・わかりやすい解説

軸受
じくうけ

回転軸を支える機械部品。ベアリングbearingともいう。回転あるいは揺動する軸を支え、軸に加わる荷重を受け、軸心を中心に回転、揺動するようにしてある。軸の回転に伴う摩擦のために発熱、摩耗があり、動力損失が生ずる。摩擦抵抗と摩耗を減少するために材質や形状をくふうし、また円滑な回転、揺動するために各種の潤滑剤が使用される。軸受に接触している軸の部分をジャーナルjournalというが、ジャーナルと軸受との接触状態により、軸受をすべり軸受(平(ひら)軸受)と、ころがり軸受とに大別することができる。また軸に加わる荷重の方向によりラジアル軸受とスラスト軸受に分けることもできる。

[中山秀太郎]

すべり軸受

軸と軸受との接触面に潤滑剤を用いて滑り接触をしながら軸を支える軸受で、平軸受ともよばれる。互いに広い面で接触しているので軸が回転すると摩擦が多くなり、そのために発熱し、軸や軸受の温度が上昇する。あまり高温になると焼き付いて回転が不可能となる。これを防ぐために、軸と軸受との間に薄い空間をつくり、潤滑油をこの空間に入れて運転する。潤滑油は、くさび状のすきまに入り込み油圧を発生し、軸は油膜に浮かぶ流体摩擦状態となり、発熱を防止しながら回転する。互いに広い面で接触しているので大きな荷重にも耐えられる。もっとも簡単なものは、鋳物でつくったフレームに円形に穴をあけたものである。軸と接触する部分はあまり摩耗せず、そして軸になじみやすい材料でつくった軸受メタルを取り付けたものが多く使用されている。軸受メタルは摩耗すれば軸受本体から取り外し容易に交換できる。普通、ホワイトメタル、ケルメット、青銅、リン青銅などでつくられている。この軸受には、一体のものだけではなく、2個に分割されたものある。

 以上のように、軸に対して荷重が直角方向に加わる軸受をラジアル軸受といい、軸方向に荷重の加わるものをスラスト軸受という。スラスト軸受は、軸の先端を軸受の底面で支える仕組みになっている。荷重を受ける面積が小さく軸が高速回転あるいは大荷重のときには発熱して、ぐあいが悪い。軸の径が小さく比較的小荷重のところに用いられるスラスト軸受を、ピボット軸受という。時計の歯車を支えるスラスト軸受は、摩擦を減らすために先端を細くしてある。

[中山秀太郎]

ころがり軸受

軸受の内輪と外輪の間に玉(ボール)やころといった転がり要素を入れたもので、すべり軸受より回転は軽快である。玉を入れたものを玉軸受(ボールベアリング)、ころを入れたものをころ軸受(ローラーベアリング)という。ボールやころは互いに接触しないように、保持器によって保持されている。内輪を回転する軸にはめ込み、外輪を外側の軸受用穴にはめ込むようになっている。荷重が回転軸に直角方向に加わるものをラジアル軸受といい、軸方向に加わるものをスラスト軸受という。ころ軸受は、玉軸受よりも接触面積が大きいので、大きい荷重に耐えることができる。また打撃力の大きい場合にも適している。玉やころが1列のものを単列形、2列のものを複列形という。

 玉軸受は、高精度で、前述のように接触面積がきわめて小さく、摩擦損失が小さいので、広く用いられ、高精度・高速回転に適している。ころ軸受は、荷重がある程度大きいところに用いられ、円筒状のころが用いられている場合は、円筒ころ軸受とよぶ。また、ころの直径が比較的小さく、長さが直径に比べて長い針状のころが用いられている場合は、針状ころ軸受(ニードルベアリング)とよぶ。この軸受は、断面高さが小さく、他の軸受と比較して、小さなスペースで大きな荷重を支えることができる。

 回転軸に垂直な荷重と回転軸方向の荷重とを同時に受ける軸には円錐(えんすい)形のころを使用した軸受が用いられる。これを円錐ころ軸受という。また円筒形の中央が膨らんだ、いわゆるビヤ樽(だる)形のころを使用した自動調心ころ軸受も使われている。これは使用中に多少軸がたわんでも、組立てが少々不備でも、回転中に軸受の中心が自動的に調節されるので便利である。

 これらのころがり軸受の形状は国際的に統一されている。また精度についても規格があり、普通精度の0級から精度が高くなるにしたがい、6、5、4、2級が規定されている。

[中山秀太郎・清水伸二]


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百科事典マイペディア 「軸受」の意味・わかりやすい解説

軸受【じくうけ】

ベアリングとも。回転軸をささえる機械要素の総称。軸と軸受とが潤滑油などの薄い膜を介して相対すべりをするすべり軸受と,転動体(玉やころ)を介して,そのころがりによって相対運動をするころがり軸受に大別される。また受けるべき荷重の方向が軸方向に垂直なラジアル軸受(すべり軸受の場合はジャーナル軸受と呼ぶことが多い)と,軸方向に一致しているスラスト軸受とにも分ける。すべり軸受,ころがり軸受にはそれぞれ多くの種類,形式があり,荷重支持力,回転速度に対する性能,温度特性,振動・騒音,潤滑・保守,交換性などの諸性能を考慮して,使用目的に応じたものを選定する。なお特殊な軸受としては,給油による潤滑が普通であるすべり軸受の潤滑の手間をはぶいた無給油軸受や,潤滑剤として油でなく水,空気その他の気体を使う水軸受,空気軸受,気体軸受などのほか,磁気力で支持する非接触の磁気軸受もある。特に小型に作った玉軸受はミニアチュア軸受と呼ばれる。
→関連項目機械要素潤滑ピボット軸受

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「軸受」の意味・わかりやすい解説

軸受
じくうけ
bearing

ベアリングともいう。機械の軸類を支持し,軸の回軸運動や往復運動を容易にするための機械要素 (部品) をいう。用途は広く,電気機械,産業機械,車両など各種の機械に使われ,その形状も軸径が 10mをこえる超大型から軸受外径が 1mm内外のミニアチュア軸受までさまざまなものがつくられている。基本的な種類として,軸と軸受部の相対運動から,滑り接触をするすべり軸受と,転動体 (玉やころ) を介して転がり接触をするころがり軸受とに大別される。また,作用する荷重の方向によって,軸直径方向の荷重を支えるジャーナル軸受やラジアル軸受と,軸方向の荷重を支えるスラスト軸受とに分けられる。

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世界大百科事典(旧版)内の軸受の言及

【方位】より

…そこで方位の決定は日の出入りなど天体現象を利用するか,季節風のような一定の気象現象に基づいて行われた。古代地中海世界では生活に密着した各季節の風が,方位を知る目安に用いられ,今日でも方位を意味する英語はbearing(bearは〈生じる〉の意)といい,〈風の生まれるところ〉を原義とする。古代ギリシアでは東西南北を表す象徴に風神の姿を用い,各風神の性格をそれに対応する方位の特徴とも関連づけた。…

※「軸受」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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