送・贈(読み)おくる

精選版 日本国語大辞典 「送・贈」の意味・読み・例文・類語

おく・る【送・贈】

〘他ラ五(四)〙 ((一)には「送」を、(二)には「贈」を使うことが多い)
[一] 自分の所にあり、または自分の自由になるものを手もとから離して他へ移す。
事物を、自分の所から他の場所へ運び移す。
(イ) 人や物を、自分は位置を変えないで、手もとから遠くへ移しやる。先方に届くようにする。輸送する。送付する。
書紀(720)神代上(寛文版訓)「故、天柱(あめのみはしら)を以て天上(あめ)に挙(ヲクリあく)
(ロ) 言語心情、表情など、形のないものを先方へむけて届くようにする。
※東京の三十年(1917)〈田山花袋〉作家短評「その文壇に送った新しい気分は」
② 去って行く人を見守ってついて行く。
(イ) 守りながら、行く人につき従う。
万葉(8C後)五・八七六「天(あま)飛ぶや鳥にもがもや都まで意久利(オクリ)まをして飛びかへるもの」
(ロ) 別離を惜しんで、別れの場所までついて行く。また、別れの場所で別離を惜しむ。見送る。
※万葉(8C後)一一・二五一八「吾妹子(わぎもこ)が吾れを送(おくる)と白たへの袖ひつまでに泣きし思ほゆ」
※俳諧・曠野(1689)七「おくられつおくりつはては木曾の秋〈芭蕉〉」
(ハ) 死者を守って墓所まで行く。葬送する。
古今(905‐914)哀傷・八三〇・詞書「さきのおほきおほいまうちぎみを、白川のあたりにをくりける夜よめる」
③ 時を過ごす。時間の経過のままに生きる。
源氏(1001‐14頃)宿木「いたづらに日を送るたはぶれにて」
④ 相手への恩返し、つぐないなどを果たす。
※幸若・大臣(室町末‐近世初)「われにしばらくみやづかひ、恩を送れとぞ申ける。大臣げにもと思召ならはぬわざをし給ひて恩をぞ送らせ給ふ」
謡曲で、世阿彌の頃に謡われた節の一種か。現在の拍子あたりの「オクリ」に関係があるといわれるが未詳。
※申楽談儀(1430)音曲の心根「文字にてをくる、きたなきこと也。機(き)にてをくる也」
⑥ 謡曲の拍子あたりで、八拍よりあまった文字をつぎの拍子にまわすこと。
※わらんべ草(1660)二「狂言の謡は、五七五七七也。鞁の地に、三つ、五つ、七つ、九つあり。右の地に、あまるはおくる、たらぬはぬすむ。是を、とる、かた地(じ)など云事有」
⑦ 順々に次へ移す。「順にひざを送る」「行(ぎょう)を送る」
※桑の実(1913)〈鈴木三重吉〉一九「洗吉さんは〈略〉おくみが縫物の針を送り送りする前に坐って」
⑧ 漢字の下に活用語尾などのかなを付ける。送りがなを付ける。
※送仮名法(1907)〈国語調査委員会〉例言「活用は常に最後の一音にあるを以て、普通の活用語は皆最後の一音を送るを通則とす」
⑨ 別れて里に帰らせる。
※米沢本沙石集(1283)九「又かへりあひて、今の妻を送(ヲク)りてけり」
⑩ (男衆が付き添って置屋から茶屋芸娼妓を届ける意から自動詞的に) 芸娼妓が茶屋へ来る。
※洒落本・月花余情(1746)江南妓邑記「妓来曰送、帰曰迎」
[二] 自分の所有物、または自分の計らいで与え得る資格・地位などを、相手のものにする。人に与える。
① 物などを人に与える。贈り物をする。
※書紀(720)推古一四年是歳(岩崎本訓)「天皇、大きに喜びて、播磨の国の水田百町を皇太子に施(オクリ)
② 死後、官位や称号を授ける。
※源氏(1001‐14頃)桐壺「三位のくらゐをくり給ふよし、勅使来てその宣命よむなん悲しきことなりける」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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