道教/道法と道教儀礼(読み)どうきょうどうほうとどうきょうぎれい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「道教/道法と道教儀礼」の意味・わかりやすい解説

道教/道法と道教儀礼
どうきょうどうほうとどうきょうぎれい

道法
 道法は、(1)道術の士(道士)の「行法」すなわち修行法、(2)教団の「経懺(きょうせん)」「符籙(ふろく)」および「斎醮(さいしょう)」、すなわち祭祀(さいし)の法を含む。道法の「科範威儀(かはんいぎ)」すなわち規則・儀礼を「科儀(かぎ)」とよぶ。科儀のおもなものは「斎醮科儀」である。各種の道法は、「巫術(ふじゅつ)」および「方技(ほうぎ)」「数術」系の道術から成長している。道術的行法の代表的なものに次のようなものがある。

〔1〕符劾(ふがい)(御札(おふだ)によるまじない)、禁呪(きんじゅ)(まじない)、役使鬼神(えきしきしん)(鬼神を駆使する)、禁架療病(邪悪の制御による治病)、三虫(さんちゅう)(三尸(さんし)。腹中の魑魅(ちみ)的存在)など。

〔2〕天文、星占、風角占候(風占)、隠遁(いんとん)、変形・祥妖(しょうよう)(吉凶)・災異の讖緯(しんい)(予言)など。

〔3〕辟穀(へきこく)(穀物を断つ)、服餌(ふくじ)(仙薬の服用)、黄冶(こうや)(錬金術)、金丹(きんたん)(最上の薬)、按摩(あんま)、導引(どういん)(柔軟体操)、禹歩(うほ)(歩行法)、服気(ふくき)・調息・胎息(たいそく)(以上は呼吸法)、坐忘(ざぼう)(無我の境地で道と一体となる)、存思(ぞんし)(精神統一)、守一(しゅいつ)(宇宙の根源と一体となる法)、陰道房中(養生(ようじょう)術としての房中法)など。

 〔1〕〔2〕は巫術・数術系の道術で、その道術取得のための行法である。〔3〕は方技のなかの「神仙」「房中」系の不老長生を目的とする行法で、これに医経・経方系の技術を副次的にあわせ、諸行法が総合されて「養生法」が生まれた。なお、金丹には、丹砂から黄金を化成して服餌する法(外丹)と、金丹化成の過程を修行の内容とし、医経理論などをあわせ、身体を内鼎(ないてい)(かまど)に見立てて、精・神・気を内に錬丹する法(内丹)とがある。

道教儀礼
 道教教派の成長とともに経法(きょうほう)・懺法(せんぽう)、符籙、斎醮などの道法が成立した。

〔経法・懺法〕
 経・懺の誦習(じゅしゅう)のための修練。『隋書(ずいしょ)』「経籍志」によると、修行の段階によって五千文籙、洞玄(どうげん)籙、上清(じょうせい)籙などがあり、老子五千文以下の各経典の誦習終了の資格証書である「経籙」が師から弟子に与えられる。経籙は後世、正一派の経籙・牒籙(ちょうろく)、全真教の戒牒(かいちょう)などとなる。

 懺法は懺悔(ざんげ)の法の意である。神の前で懺文を跪誦(きじゅ)する法すなわち「跪懺(きせん)」と、天尊・聖号を礼拝(らいはい)し懺悔滅罪を求める「礼懺(れいせん)」とがある。「斎醮科儀」には、経文・懺文の読誦(どくじゅ)が行われる。

〔符籙〕
 「符」と「籙」は字義は同じで、ともに神の名によって下付される文書である。符には「護符」「鎮宅符」のごとく、符劾・呪符の効験をもつ天(星辰(せいしん))や鬼・神の文字・図文が記される御札が多い。修法の高さを示す証書「籙」と「符命」「讖言」が記される文書とをあわせて符籙ということもある。また符の混ざった籙をも符籙という。道士の行法には符籙作成の修行があり、唐代の葉法善(しょうほうぜん)らは符籙の術の名人であった。天や神が下す「符命」を記す特別の文書を「天書(てんしょ)」ということがある。

〔斎醮〕
 「斎」とは斎戒のこと。「醮」は祭と同義である。供犠(くぎ)だけを醮とよぶこともある。祭醮の儀礼では、まず斎儀して後に醮儀が行われるので「斎醮」と並称されることが多い。祭醮のとき、太乙(たいいつ)・五星・北斗など天の星辰や天地山川などの神を祀(まつ)るとき、犠牲(いけにえ)を供え、上章・祝文を奏する。祝文・上章は、儒教の祭礼の規則のなかで定められているが、道教の祭醮の儀礼のなかでも規定されている。上章・祝文・懺文は道蔵経典のなかに収められているが、清(しん)代の『家礼大成』には庶民的儒教の祝文が、民間に流通した『万法帰宗(ばんほうきそう)』には道士が斎醮のときに誦す上章・祝文が集録されている。

 祭醮行事は、教派や教会道教が行う場合と、村鎮(集落)や幫会(パンホエ)(結社集団)が行う場合があるが、後者では醮主(しょうしゅ)・爐主(ろしゅ)が道士に対する布施(ふせ)・供犠(くぎ)その他の経費を負担し、戯台を設けて戯劇を演ずるのが普通である。現代、台湾地域などで行われている斎醮儀礼の代表的なものは、一天醮(1日で終了する祭醮)、三天醮、五天醮などであるが、二天醮、七天醮もある。三天醮を例にとると、儀礼の順はだいたい次のようである。

 第1日目 開壇、開光(かいこう)(道士1人、諸神に対し『開光偈(げ)』などを念誦)、発表(道士5人、醮主などの名を記した表文の宣読)、啓請(道士5人が祈願の奏上)、安灶(あんど)(『灶君偈(どくんげ)』を誦す)、開経・懺(せん)(『灶君経』『福徳経』『三官経』『北斗経』『星辰懺』『南斗経』『上・中・下元(かげん)懺』『竜神経・懺』『延寿経』などの開読。その間に献供(けんく)の儀がある)。

 第2日目 早朝科(朝の勤行(ごんぎょう)。『度人経(どにんきょう)』の読誦)、午朝科(昼の勤行。『玉枢(ぎょくすう)経』)、献供、放水灯(灯籠(とうろう)祭)、晩朝科(晩の勤行。『北斗経』)。なお、早朝・午朝・晩朝をあわせて「三朝」という。

 第3日目 啓聖(けいせい)(神に啓奏)、開禁壇(祭壇を開く)、啓聖中白、洪文協讃(こうぶんきょうさん)(道士2人が『玉枢経』を読誦)、献供、謝三界(三界の神に感謝)、宿朝(最終の晩の勤行)、洒(さい)浄孤魂(無縁霊の祭祀)、普施(あまねく供物を供える)、謝壇(『送神経』を誦し閉醮)。

[酒井忠夫]

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