違・交(読み)ちがう

精選版 日本国語大辞典 「違・交」の意味・読み・例文・類語

ちが・う ちがふ【違・交】

[1] 〘自ワ五(ハ四)〙
[一] 複数のものの一部または全部が動いて、互いに一致しない動作をいう。たがう。
① 反対方向から来たものどうしが、互いにぶつからないで行き過ぎる。また、二つのものが動いてその場所をかえる。行きちがいになる。
蜻蛉(974頃)中「やりつる人は、ちがひぬらんとおもふに、いとめやすし」
※あさぢが露(13C後)「このまぎれにちがひていでばやとおもへども」
② 多くのものが、あちこちに行きかう。交錯する。
※蜻蛉(974頃)中「おりたれば、あしのしたに、鵜飼ひちがふ」
③ 物に当たらないでそれる。はずれる。
※宇治拾遺(1221頃)二「此衆は、目をかけて、背をたはめて、ちかひければ、蹴はづして」
④ うまく合っていたものがはずれる。骨などが本来の位置からはずれる。
※虎明本狂言・飛越(室町末‐近世初)「こしのほねがちがふたやら」
[二] 音や調子がくいちがう。また、調和しないでちぐはぐになる。
※虎明本狂言・鶉舞(室町末‐近世初)「きゃうがったうづらで、なきやうがちがふた」
[三] 抽象的な物事が一致しなくなる。
① 人の考えや思い、あるいは規則道理に反する。そむく。また、理解や判断が誤っている。
曾我物語(南北朝頃)四「母や師匠の御心にちがはん事、いかがすべきなれ共」
② 予期したことや平常のことなどと相違する。くいちがう。
※金刀比羅本保元(1220頃か)上「法皇御夢想に御らんぜられつるに少しもちがはねば、真実の御たくせんよと思召し」
③ 他と比較して差がある。異なる。
※玉塵抄(1563)一「ここらにも人々心のかわりて別々なは、かをのちかうたと同ぞ」
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)後「余所の子共と違(チガ)って、気が付ねへでこまり切ます」
④ (③から転じて) 他と異なってすぐれる。並はずれる。
※浄瑠璃・博多小女郎波枕(1718)上「長さきの伊左衛門様とはちがふた物」
※湯葉(1960)〈芝木好子〉「さすがに御祐筆の流れは違うね」
⑤ 血のつながりが異なる。
※小夜千鳥(1901)〈永井荷風〉三「継(チガ)った母様」
⑥ 関西地方で、体言や体言相当語句に「…とちがう」の形で付いて、上を否定し、「…ではない」の意を表わす。ぞんざいな言い方では「…ちゃう」になったり、「と」が省略されたりすることがある。「あれ、山田はんとちがうか」「お前のさがしてんの、これちゃうか」「そんなん、ちゃう、ちゃう」など。
[2] 〘他ハ下二〙 ⇒ちがえる(違)
[補注](1)「たがう」より新しい語で、「たがう」の変化した語ともいう。
(2)(一)(三)⑥は近代になってからの用法という。

ちが・える ちがへる【違・交】

〘他ア下一(ハ下一)〙 ちが・ふ 〘他ハ下二〙 (四段動詞「ちがう(違)」の他動詞形)
[一] 動かして一致させないようにする。
① 互いに行きあわないようにする。はずす。
※二度本金葉(1124‐25)雑上「ねぬる夜のかべさわがしく見えしかどわがちがふればことなかりけり〈よみ人しらず〉」
② 交わるようにする。交錯させる。
曾丹集(11C初か)「かささぎのちかふる橋の間遠にてへだつるなかに霜やふるらん」
※百座法談(1110)六月二六日「目をいからかし、牙(き)をちがへたるもの多し」
③ 骨や筋などうまく合っていたものをねじるなどしてくいちがわせる。
※古活字本荘子抄(1620頃)六「酔者が車より墜は手足をつきをり腰をちかへて」
[二] 抽象的な事柄について、一致させないようにする。
① 予期されることを的中させないようにする。夢などを外れさせる。
※平中(965頃)三五「憂きことよいかで聞かじと祓へつつちかへながすの浜ぞいざかし」
能宣集(984‐991)「ちがへむとゆめおもふなよ人しれぬこころはかはしあはせますとも」
② 他と比較して、あるいは平常と比べて差があるようにさせる。相違させる。かえる。
風姿花伝(1400‐02頃)三「先能数を持ちて、敵人の能に変りたる風体を、ちがへてすべし」
茶話(1915‐30)〈薄田泣菫〉仏国小説と米国「顔色をちがへて意見立てをしたものだ」
③ 約束などを破る。そむく。たがえる。
史記抄(1477)一一「橋下で待べしと云て、具をちかへじとて信をば本にすれども」
※虎明本狂言・眉目吉(室町末‐近世初)「只今仰られたとをり、やくそくをちがへさせられな」
[三] 理解、判断または行動を誤る。まちがえる。
※浮世草子・好色万金丹(1694)一「其客の吉凶まで、兔の毛の先ほどもちがへず申べし」
[補注]室町時代頃からヤ行にも活用した。→ちがゆ(違)

ちがい ちがひ【違・交】

〘名〙 (動詞「ちがう(違)」の連用形の名詞化) ちがうこと。また、その度合。たがい。
① 交差すること。ちがえ。
※談義本・根無草(1763‐69)前「何とぞ無事に取寄て、互ちんちんちがひの手枕に、裟婆と冥途の寐物語」
② 比較してみてのへだたり。相違。差。
(イ) 二つ以上のものについて、互いのへだたり。また、その度合。ひらき。
※風姿花伝(1400‐02頃)二「おそろしき心とおもしろきとは、黒白のちがひ也」
※一兵卒の銃殺(1917)〈田山花袋〉六「三つ違ひの十九だ」
(ロ) 他のことや一般に比較してのへだたり。かけはなれた特徴、特色など。
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「差(チガ)ひのあるのは服飾(みなり)
③ 理解や判断、行動などの誤り。まちがい。ちがえ。
(イ) 正しくないこと。考えちがいなど。
※日本書紀兼倶抄(1481)下「素盞に滄海をゆづると云がちがいぞ」
(ロ) 見込みがはずれること。予想に反すること。
※歌舞伎・白縫譚(1853)七幕「夜に入ると荒れ出して不知火が燃ゆるゆゑ、雑魚一尾かかりはせず、漁夫仲間は大きな違(チガ)ひ」
(ハ) 考えや行動を誤ること。失敗。しくじり。
※毛利家文書‐(弘治三年)(1557)一一月二五日・毛利元就書状「元春・隆景ちかひの事候共、隆元ひとへにひとへに以親気毎度かんにんあるへく候」
④ すれ違いざまに人の懐中物をすり取ることをいう、すり仲間の隠語。〔江戸繁昌記(1832‐36)〕

ちがえ ちがへ【違・交】

〘名〙 (動詞「ちがえる(違)」の連用形の名詞化)
① 交差させること。
※虎明本狂言・三本柱(室町末‐近世初)「先此木をおろひてしあんをせう、よからうまつおろさしめ、〈はじめ持たもの、よこにをろす、二番目に持た者、其上にちがへにおく〉」
② 鹿が狩人に出会った時、狩人の方に向いて前脚を交差させて、突き立てる動作。
※袋草紙(1157‐59頃)上「あらちをのかるやの先に立つ鹿もちがへをすれば違ふとぞ聞く」
※落語・二十四孝(1891)〈三代目春風亭柳枝〉「お前は大変の違へをするので困る」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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