遠位型筋ジストロフィ/ミオパチー

内科学 第10版 の解説

遠位型筋ジストロフィ/ミオパチー(筋ジストロフィ)

(4)遠位型筋ジストロフィ/ミオパチー
a.三好型遠位型筋ジストロフィ(MM)
 2 p 13にあるdysferlin遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝の疾患でありLGMD 2 Bと遺伝子座は同じである.筋病理所見は典型的な筋ジストロフィ変化である.血清CK値もDMD同様高度に上昇する.臨床的には15~30歳で,下肢遠位部腓腹筋の筋力低下で発症する.上肢前腕の筋も早期に侵され,握力は低下する.進行すると,腰帯筋,傍脊柱筋群なども侵し,発症後10年程度で歩行不能となる.通常呼吸筋などを侵すことはなく生命予後は良好である.
b.縁どり空胞を伴う遠位型ミオパチー(distal myopathy with rimmed vacuoles:DMRV)と封入体筋炎(inclusion body myositis:IBM)
 縁どり空胞(rimmed vacuole)とは筋病理上,筋線維内にみられる空胞で好塩基性の顆粒に縁取られたものである.縁どり空胞を伴う遠位型ミオパチーでは,筋線維の壊死・再生などほかの筋病理所見に乏しく,かつ縁どり空胞の数がきわめて多いのが特徴で,縁どり空胞が筋変性の主役をなしていると考えられる.DMRVは臨床的には,三好型筋ジストロフィと同様,15歳から30歳に下肢遠位筋の筋力低下で発症する.ただし,三好型の場合腓腹筋が強く侵されるのに対し,縁どり空胞型では前脛骨筋の障害が強く,鶏歩を呈する.大腿部では,大腿四頭筋が保たれる(図15-21-10)のが筋障害の分布のうえで特徴的である.経過も三好型とほぼ同様だが,検査所見では三好型と異なり血清CK値の上昇は軽度にとどまる.
 一方,国外では,縁どり空胞を伴う疾患として封入体筋炎の報告が多く,核内封入体の存在が指摘されている.遺伝性が明らかな封入体筋炎はhereditary inclusion body myopathy(HIBM)とよばれ,HIBM2とDMRVはともに9 q 1に局在するUDP-N acetyl glucosamine 2-epimerase/N-acetylmannosamine kinase(GNE)の遺伝子異常がみつかった.HIBMとDMRVとは同一疾患と考えられ,シアル酸合成障害が考えられている.
c.Emery-Dreifuss型筋ジストロフィ(Emery-Dre­ifuss muscular dystrophy:EDMD)
原因・概念
 進行が遅いこと,伴性劣性遺伝をすることの2点がBMDに似るが,早期の肘関節拘縮,前腕筋罹患,心伝導系障害,精神遅滞があること,および腓腹筋仮性肥大がないことにより区別される.その後,常染色体優性遺伝形式をとる症例もあることが判明した. X染色体劣性の遺伝子座はXq 28にあり,遺伝子産物emerinの異常症である.
 他方,常染色体上の遺伝子座は1 q 21.2にあるlamin A/Cの遺伝子であることが明らかにされた.emerinとlamin Aは核膜に共局在し複合体を形成し,この複合体の機能障害である.
病理・検査成績
 生検筋病理所見は,筋ジストロフィ変化であるが,細胞浸潤の強い例もある. 心電図の変化はP波の平低化から始まり,Ⅰ度房室ブロック(PQ時間の延長)から完全房室ブロック,完全心房麻痺に至る. 血清CK値は軽度から中等度の上昇にとどまる例が多い.
臨床症状
①ゆっくり進行する筋萎縮と筋力低下.初期には上腕腓骨筋型の分布をとる(遠位型),②肘関節,アキレス腱および後頸部筋の早期拘縮(脊椎硬直症候群,rigid spine syndrome),③心筋障害(房室ブロックを伴う),を3主徴とする. 典型的な場合でも発症年齢は幅があり,幼児期から10歳代に,尖足拘縮による歩行の異常(つま先歩き),肘関節の拘縮ないし,房室ブロックなどの不整脈によって発症する.筋力低下の進行はゆっくりしており,生命・機能予後は主として,心筋障害によって制限される.ペースメーカを装着しなければ50歳までに死亡する.
診断
 前述した3主徴がそろっていれば臨床診断は容易だが,表現型が多彩であるため,部分的に合致するのみの症例では疑いをもって,遺伝子検査,遺伝子産物の欠損の有無を検索しなくてはならない.検索には生検筋組織が多く用いられる.
治療・予防・リハビリテーション
 特異的な治療法はない.心臓突然死が高率に認められるので,早期にペースメーカを埋め込む必要がある.
d.眼咽頭型筋ジストロフィ(oculopharyngeal muscular dystrophy:OPMD)
 40歳以降に,眼瞼下垂と嚥下障害が緩徐進行する.外眼筋麻痺は比較的軽く,四肢筋はあまり侵されない.筋核内の8.5 nm管状フィラメントが特徴的である.常染色体優性遺伝で,14 q 11にあるpoly A binding protein 2(PABP 2)の翻訳領域にある3塩基繰り返し配列(GCG:アラニン)の異常伸長による.正常の繰り返し数は6だが,患者では対立遺伝子の一方で7以上に伸長している.[清水輝夫]

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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